第4章 12 その場所にいた人物は・・・。
<ジェシカ・・・ジェシカ・・・。>
誰かが私を呼んでいる・・・。でも瞼が重くて開けられない・・・。ごめんなさい・・・。
「・・・・・・。」
う~ん・・・。何だろう・・・?身体が重い・・。まるで何か重たいものが身体の上にのしかかっているような・・・。
睫毛を何度か震わせ、ようやく目を開けると眼前にデヴィットの寝顔があった。
え?!な、何・・・?一体・・・。何と私はまるで抱き枕のようにデヴィットに抱き締められたまま眠っていたのである。
ど、どうしてこんな状況に・・・・?ベッドサイドに置かれた置時計に目をやると時刻は午前6時になっている。
だ、大丈夫・・・。服は昨日のまま・・・。デヴィットも服を着たまま眠っているし・・・・。良かった・・・。以前のアラン王子の時のような状況にはなっていない様なので安堵の溜息をつく。
それにしても・・・何故私はベッドの上でデヴィットに抱き締められたまま眠っているのだろう?他の人達はどうしているのか・・?昨夜の記憶が全く飛んでいるので何が何だか分からない。
起き上がりたい・・・。絡みついているデヴィットの腕を持ち上げてみると意外なほど簡単に身体から解く事が出来た。
デヴィットの身体から抜け出ると真っ先に思った。
「シャワー浴びたいな・・・。」
昨夜はシャワーも浴びずに眠ってしまったので、さっぱりしたくなってきた。
持参していたボストンバックから着替えを取り出すと、ソロリソロリと部屋を抜け出す。・・・どうやらこの部屋にいたのは私とデヴィットの2人だけだったようだ。
カチャリとドアノブを回してリビングへ出て見て驚いた。
そこにはダニエル先輩、マイケルさん、グレイ、ルークがそれぞれソファの上や床に転がったまま眠っていたからである。
そしてテーブルの上には空になったボトルが20本近く置かれていた。
・・・一体彼等はどの位深酒をしたのだろう?
恐らくこの調子では当分起きてくる気配はなさそうだな・・・。
それにしてもこの客室のバスルームに鍵が付いているのは助かった。もしシャワーを浴びている時に誰かが入ってきたら・・・と思うとゆっくりお風呂に入る事も出来ないしね。
コックをひねり、浴槽にお湯を溜めながら身体と髪の毛を洗う。
うん、やはり一流ホテルのアメニティは最高だ—。
ゆっくりお湯につかり、さっぱりした後に着替えを済ませて出てきたのに、彼等は未だに同じ姿勢のまま眠っている。
え・・・・?
その時—
私の中である違和感が生じた。
おかしい・・・何かが変だ。どうしてこんなに・・・静かなのだろう?音が何も聞こえてこない。慌てて辺りを見渡し、そこで私はある事に気が付いた。
時計の時刻は・・・6時10分を指している。
6時10分・・・・?この時計・・・遅れているのだろうか?
それならば―。
私は急いでデヴィットが眠っている客室へ入り、ベッドサイドの時計を確認する。
そんな・・・・。
この部屋の時計も・・・6時10分で止まっている。
一体、今この部屋で何が起こっているの・・・・?
こ、怖い・・・。
私は傍らで眠っているデヴィットの肩を激しく揺すった。
「デヴィットさん!デヴィットさん!お願い、起きてっ!」
しかし・・・デヴィットの身体はまるでマネキン人形のように固く強張り、微動だにしない。試しに口元に手をやり・・・慌てて手を引っ込めた。
息を・・・していない・・?嘘でしょう?一体何故・・・?で、でも身体は温かい・・・。
怖い、怖くて堪らない。頼りになるデヴィットはすぐ側にいるのに・・彼はまるで魂が抜けたようになっている。
「デヴィットさん・・・お願い・・・目を開けて・・・。」
デヴィットの身体に縋って涙混じりに訴えるが、全く反応は無い。
たまらず隣の部屋へ行き、ダニエル先輩やマイケルさん、グレイ、ルークの身体を揺さぶっても全く彼等は無反応・・・デヴィットと同じだ。
一体何が起こっているの・・・?
震えながら何気なく先程の時計を見て・・やはり時計の針は1分も動いていないことに気が付く。
ひょっとして・・・?時が・・・止まって・・・いる・・・?
私は一度だけ時を止める魔法を見た事がある。そう、あの魔法を使ったのは・・・
マシューだった。
今のこの状況は・・・あの時とそっくりだ・・・・。
ま、まさか・・・マシューが今何処かに居る・・・の・・・?
だけど・・・もし時を止めたのが本当にマシューだとして・・。彼は一体何故こんな手の込んだことをするのだろう?私を怖がらせるような真似を、あの優しいマシューがするとはとても思えない。
でも・・・もし、本当に愛しい彼が今ここにいるのなら・・・・っ!
私は・・・まだ確認していない部屋のドアノブを震える手で開けた・・・。
「そこに・・・いるの・・・?」
カーテンで閉ざされた薄暗い寝室・・・。ふと、置かれているソファに誰か人の座っている気配を感じた。
「!」
マシューだろうか・・?一歩足を踏み出して・・・私は足を止めた。
違うっ!マシューではない・・・。この気配は・・彼では無い。それなら一体誰・・・?
もし本当に時を止めたのならば、何故私の時間だけが動いているの?
恐らく、その答えは・・・。
「わ・・・私を・・・捕まえに・・来た・・・のですか・・・?」
「・・・・。」
すると私の問いに答えるかのようにユラリとソファからその人物が立ち上り・・・こちらを振り向いたその相手は・・。
「ド、ドミニク・・・様・・・・。」
そこにいたのは・・・今私が一番会ってはいけない人物・・・ドミニク・テレステオ公爵だったのだ。
「ジェシカ・・・リッジウェイ・・・。ようやく会えたな・・・。」
ドミニク公爵はゾッとする位冷たい声で私の名を呼んだ。そして一瞬で私の目の前に現れると、凍り付きそうな瞳で私を見下ろす。
その瞳は・・怪しく光り輝いていた。
「ド、ドミニク公爵様・・・。な、何故こちらに・・・・?」
自分でも間抜けな質問をしているとは思ったが、何かく話さなくてはと思い、つい口から出てしまった。
「何故・・・ここに来たのか?だと・・・?そんな事は・・お前自身が一番良く分かってる事じゃないのか・・?」
公爵は私の耳元迄口を寄せると・・・低い・・・ハスキーボイスの声で囁く。
「!」
思わず恐怖が募り、後ずさりしようとしたところを、強く左手を掴まれた。
「俺から・・・逃げられると思っているのか・・?」
公爵は私の左手をねじり上げながら片時も私から視線を逸らさない。その瞳には、痛みと恐怖に怯えた私の顔が映っている。
この人は・・・本当に私の知っているドミニク公爵なのだろうか・・?
今の公爵からはただ事ではない雰囲気を全身に纏っている。注視してみると・・身体から赤黒いオーラのようなものがまとわりついているようにも感じる。
何故・・・?ここまで彼は変貌してしまったのだろう?
どうして・・・公爵はソフィーの手に堕ちてしまったのだろう・・・?
思わず、目に涙が浮かんでくる。
すると・・公爵の目が私の涙を捉えたからなのか・・・一瞬ハッとする表情を浮かべた。
「ジェ・ジェシカ・・・・。」
突然、公爵の声のトーンが変化した。
「え・・?」
私は公爵の目を見つめると・・・そこには先程の怪しい光が消え失せ・・・見慣れたオッドアイの瞳が戻っていた。
次の瞬間・・・。
突然私の左腕が眩しく光り輝いた。こ・・これは・・アラン王子やデヴィットと同じ輝きだ—!
ドミニク公爵の右腕も眩しく光り輝き、その光を公爵は・・・唖然とした表情で見つめていた。そして、私は見た。
公爵の腕が光り輝いたと同時に、赤黒い物体が抜け出て行くのを・・・。
今のは一体・・?
私は赤黒い物体が消え去った方向を見つめていると、不意に公爵が声をかけてきた。
「ジェシカ・・・。」
公爵に視線を戻すと、驚く程至近距離の場所に彼の顔があった。
「ジェシカ・・・お前・・・聖女として・・目覚めたのか・・・?」
その声・・・口ぶりは・・・以前のドミニク公爵と同じものだった―。
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