第3章 4 思う気持ちが強いほど・・・

「あ、ありがとうございます・・・。お陰で助かりました・・・。」


マイケルさんの機転のお陰で私は何とか貞操の危機?から免れる事が出来た。彼に手を引かれつつ、図書館を出ると・・・そこには腕を組み、仁王立ちになってこちらを睨み付けているデヴィットの姿が。

そして私の姿を見届けると、途端に駆け寄って来た。


「おい、ジェシカに触れるな。」


「君・・・相変わらず気が短い人だねえ・・・。」


マイケルさんのため息交じりの言葉にデヴィットは耳を貸さず、彼の手を振り払うと、突然強く抱きしめて来た。


「ジェシカ・・・この馬鹿ッ!あれほどフードを外すなと言っておいただろう?それなのに・・・俺の忠告を無視して・・・!いいか、俺はお前の聖剣士となったんだ。聖剣士になるとな・・・相手の聖女の危機の時に紋章が光って反応するんだ・・・。

お前がこの中へ入ってすぐだ!すぐに俺の紋章が光って反応して・・・。その時、どんな気持ちだったか・・お前に分かるか?!」


デヴィットは声を震わせて言った。・・・いえ、デヴィットは私の聖剣士だから、心配してくれるのはありがたいのだけど・・・あんな・・あんな単純な事でも紋章が反応してしまう訳?!ちょっと大袈裟な気もするけど・・?

「アハハハ・・・随分・・・聖女と聖剣士の絆って・・・ほんの些細な事でも反応するんですね・・・。大袈裟過ぎる位に・・・。」


最期の方は小声で言った。

するとデヴィットが身体を離した。


「いや・・・皆が皆・・・そうなる訳では無い・・・。」


「え?」

ちょっと待って・・・。デヴィット・・・何故、そこで顔を赤らめてるのかな?


「相手の事を思う気持ちが強ければ強いほど・・・過剰に・・反応する・・と言う事なんだ・・・。つ、つまり俺はジェシカの事をそれだけ・・・。」


顔を赤らめ、しどろもどろになって言うデヴィット。それって・・・私に対する愛の告白のようにも聞こえてしまうのだけど・・・?デヴィットの気持ちは嬉しい、だけど・・・私はマシューの事を・・・。そう考えるとやはりデヴィットの気持ちに応えてあげる事が出来なくて・・・申し訳ない気持ちで一杯だ。


「どうした?ジェシカ。」


黙りこくってしまった私を心配してか、デヴィットが声を掛けて来た。


「本当だ・・・元気が無いねえ。お嬢さん・・大丈夫かい?」


マイケルさんまで気にかけてくれている。だから私は言った。

「い、いえ・・・。会いたかった彼女に会えなくて・・少し落ち込んでしまっただけですから気にしないで下さい。」


「ジェシカ、会いたかった彼女って・・・誰の事なんだ?」


デヴィットが尋ねて来た。


「実は・・・彼女はソフィーの・・・仲間と言うか・・・手下にされている様な女性で・・・私がこの学院に入学したての頃、ソフィーの件で少しだけアドバイスしてくれた女性なんです。でも・・・その後は何度も何度もソフィーと一緒に私の前に現れて・・・可哀そうに・・彼女・・アメリアはソフィーの操り人形のような扱いを受けていました・・。」


「そうなの?でも彼女と会う事で・・・何かメリットでもお嬢さんにあるの?」


うん、確かに今の説明だけではアメリアと私が会った所で何の得も無いだろう。

そう思われても仕方が無い・・・。だけどこうなったらこの2人にも私の秘密を少しだけ打ち明けた方が良さそうだ。


「実は・・・私はまだ2人に話していないことがあって・・・・。」


そして私はデヴィットとマイケルさんに今迄の事を説明した。自分には予知夢を見る力と、念じた物を具現化する力がある事。そして今まで見て来た予知夢は全て現実化した事。魔界の門を開ける事も、そして・・・魔界から戻れば自分は追われる身となり、裁判にかけられ幽閉されてしまうこと・・・幽閉された夢の中にアメリアが現れて私に向けて言った言葉・・・それら全てを話し終える頃には2人とも衝撃を受けた顔になっていた。


「そ・・・それじゃ、ジェシカ・・・。お前・・ソフィーやアラン王子に捕まる事が分かっていた上で、こっちの世界に戻って来たって言うのか・・・?」


デヴィットは震え声で言った。


「はい・・全部知っていました。だけど・・・それでも私はノア先輩を助け出したくて・・・。」


「この・・・馬鹿めっ!」


再びデヴィットは力を込めて抱きしめて来た。


「何で・・・何でそんな重要な事を今迄黙っていたんだ・・?」


「あの・・・本当の事を言えば・・もっと・・心配させてしまうと思ったから・・・。」


「だからっ!何度も何度も同じことを言わせるなっ!俺はお前の聖剣士なんだ!聖女であるお前を守るのが俺の使命だ!だから・・・少しでも身の危険が感じられるような心当たりがあるなら・・・包み隠さず全部話してくれっ!そうじゃないと・・・もし万一の時に・・お前を守り切れないかもしれないだろう・・?もう嫌なんだ・・。あんな思いをするのは・・・。」


デヴィット・・・ひょっとして泣いている?彼女との事を思い出して・・?


「デヴィットさん・・・。」


私はそっと彼の背中に手をまわすと言った。

「すみませんでした・・・。これからは何でも話します。貴方は・・私の聖剣士です・・。どうか、これからも私の事を助けて下さい・・・。」


「あ・・ああ!勿論だ・・・。俺が忠誠を誓うのは・・お前だけだから・・・。」


デヴィットは身体を離すと、私の手の甲に口付けしなら言った。


「お嬢さん。」


不意にマイケルさんに声をかけてきた。


「はい。」


「俺達は君の仲間だ。だから・・・もう隠し事はしないでくれよ?」


マイケルさんはウィンクしながら言い・・・私は笑顔で頷いた。




「でも・・よく私の様子をデヴィットさんが見に行くのを止める事が出来ましたね。」


私達は今ダニエル先輩が使用している校舎へ向かって歩いていた。


「俺はどうしても中へ入りたかったんだけどな・・・。」


面白くなさそうにデヴィットは言う。


「駄目だよ、図書館の中では静かにしないとね。彼は大袈裟に騒いでいたけど・・・多分俺はそれ程たいそうな事態にはなっていないと思ったから、代わりに様子を見に行ったんだよ。だけど・・それにしてもお嬢さん・・・。」


マイケルさんは私を見ながらクスクスと笑っている。


「あの女性・・・自分よりも小柄なのにお嬢さんに恋してしまったみたいだね~。あんなにお嬢さんの手を握りしめていたのに・・気が付かなかったのかな?こんな小さくて柔らかで、すべすべした肌なのにね。」


言いながらマイケルさんはするりと私の手に指を絡めて来た。


「あ、あの~マイケルさん?」

若干顔を引きつらせて彼を見る。


「何だい?お嬢さん。今日は俺は1日お嬢さんの保護者だからね。迷子にならないように手を繋いでおいてあげないと。」


「だから、勝手に触るな!ジェシカは俺の聖女なんだからなっ!」


マイケルさんの手を振り払いながらデヴィットが言う。

あ~あ・・。また始まっちゃったよ・・・。この2人は気が合うのか合わないのか・・・最早分からなくなってしまった。


 言い合いをする2人をよそに、私は上空を見上げた。

・・・相変わらず青い空、白い雲の姿は何処にも見当たらない、気が滅入りそうなどんよりと曇った空。

どうしたら元の美しい青空が戻ってくるんだろう・・・。

ノア先輩・・・やっとの思いで人間界へ帰ってくる事が出来たのに、ソフィーに捕まった上、青い空を見る事も出来ないなんて・・・。なんて気の毒なんだろう。

兎に角何とかして一刻も早くノア先輩を助け出して、マシューの行方を探さなくては―。








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