第2章 6 夜襲に備えて
「デ、デヴィットさん・・・?」
名前を呼んでも返事が無い。ただ・・・デヴィットは私をきつく抱きしめ、肩を震わせている。
「この・・・馬鹿がっ!!どれだけ心配して・・・探し回ったと思ってるんだ?!」
私を怒鳴り付けるその声は・・・涙声だった。
「ご、ごめんなさい・・・。」
「何故俺が帰るまで待たなかった?俺はお前の聖剣士だろう?そんなに俺が信用出来なかったのか?!」
「そ、そんなつもりじゃ・・・。」
ただ、私はこれ以上誰にも迷惑をかけたくなかっただけで・・・。
だ、だけど・・・。
「こ、怖かった・・・。」
今頃になって恐怖が増してきた。後少しデヴィットが助けに来るのが遅かったら、今頃私は・・・。
「頼むから、もう俺の前から勝手にいなくなるな。アラン王子に追われているのは知っている・・・。何の為に俺がいると思ってるんだ?!」
「ご、ごめんなさい・・・。もう二度と勝手な事は・・・しません・・。」
私は身体の震えが止まるまで、デヴィットにしがみついていた―。
私とデヴィットは公園のベンチに座っていた。
「どうだ?ジェシカ。少しは落ち着いたか?」
デヴィットが声をかけてきた。
「は、はい。お陰様で大分・・・。」
「それにしても気づかなかった・・・。ジェシカが・・・アラン王子に・・・マーキングされていたなんて・・・。」
その言葉に思わず顔が赤くなる。
「もっと早く気がついていれば、あの時・・・上書きしてやったのに・・・。」
頬を赤らめながらポツリと呟くデヴィットにさらに顔が火照る。
「そ、それでアラン王子の話では今夜ソフィーが兵士を連れて、マイケルの家にやって来ると言ったんだな?」
「はい、アラン王子は夜に・・と言ってましたが、もしかすると明け方に来ることもあり得るかと思い・・あの家を出たんです。だけど・・・。」
私は・・・自分の愚かさに気が付いた。
「考え見れば・・・何処へ逃げてもアラン王子のマーキングが付いているかぎり、私の居場所は見つかってしまうんだなと思い・・・何かマーキングを消すマジックアイテムが無いか、お店に探しに行ったんです。そしたら・・・あの男が現れて・・・。」
思い出すとまた震えが出て来る。
「分かった、もういい。それ以上思い出さなくても・・・!」
デヴィットが私の肩を引き寄せると言った。
「デビットさん・・・。ご迷惑・・お掛けしました・・・。」
「い、いや・・。もういい。こうしてお前を無事に見つける事が出来たんだから・・。でも、こんな事なら・・・。」
そう言うと、デビットは言葉を濁した。
「?どうかしましたか?」
「い、いや、何でも無い。それにしてもあの時は全然気が付かなかったが・・確かにジェシカから、俺とは違う別の魔力のマーキングを感じる。・・・微々たるものだけど・・。」
デヴィットは言うと、私の身体に顔を近付けてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。
う・・ま、町中でこれはちょっと・・・。
私達の前を行き交う人々の視線が・・・かなり痛い・・。
「あ、あのデヴィットさん・・・人目があるので、これはちょっと・・・。」
そっと彼を押しのけるとデヴィットはその時初めて自分の取っている行動に気が付いたようで、慌てて身体を離し、顔を真っ赤にすると言った。
「す、すまない!ジェシカ!」
「い、いえ。大丈夫です・・・。あの・・それでデビットさんにお願いがあるのですが・・。」
私はデヴィットを見つめながら言った。
「?」
「私に付けられた・・・アラン王子のマーキング・・消して頂けませんか?」
「・・・へ?」
一瞬間の抜けた声を出すデヴィット。
「あの・・?マーキングって・・・消せる事が出来るんですよね?」
「あ、ああ・・・・。も・勿論、け・消す事はできるぞ?」
何故か激しく動揺するデヴィット。
「では今すぐ消して下さい。」
「え?え?い・今すぐここでか?!」
「はい・・・?あの・・無理でしょうか・・・?」
優秀な聖剣士のデヴィットの事だ。上書きなんて事をせずとも、きっと呪文の1つでも唱えて、簡単に消してくれるだろう。
「む・無理だっ!こんな所では・・・!そ、それに・・もうアラン王子のマーキング・・放って置いても今日中には完全に消えそうだしな。」
え?そんなに難しい事なのだろうか・・・。でも・・・。
「本当に?本当に今日中には消えそうですか・・・?」
「うっ・・・・。」
何故か難しい顔をして黙り込むデヴィット。でも・・・きっと彼が言う事に間違いは無いだろう。
「分かりました。」
「え?」
デヴィットが私を見た。
「聖剣士であるデヴィットさんの言う事ですから・・・間違いないに決まってますね。私、今日中にはアラン王子のマーキングが消えるって信じます。」
笑みを浮かべてデヴィットに言った。
「あ・ああ・・・。そ、そうだ。お・俺を信じろ。それに・・例えソフィー達が現れても・・必ず俺がお前を守ってやるから。・・・ジェシカ・・・お前、どうしても学院に行きたいんだろう?」
「はい、なので・・・今ソフィーに捕まる訳には・・いかないんです。」
「そうだな・・・。」
そしてデヴィットは少し寂しげに笑った―。
「私・・・マイケルさんにも謝らないと・・・。」
デヴィットと並んで歩きながらポツリと言った。
「ああ・・・あいつも・・相当心配していたからなあ・・・。俺がお前を探しに行って・・あの男には家に待機していて貰ったんだ。」
「本当に・・すみませんでした・・・。」
「兎に角・・あの男の屋台へ行こう。もう・・仕事始めてるからな・・・。」
デヴィットと2人でその後、マイケルさんの屋台へ行って私は彼に謝罪した。マイケルさんは笑って許してくれたが、目の下のクマを見つけて、改めて悪い事をしてしまったと私は感じ、申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。
「実は・・・今夜ジェシカを捕まえにソフィー達がやって来るらしいんだ。だから・・俺はお前を巻き込みたくない。今夜俺とソフィーは宿を取る事にするよ。それでいいな?ジェシカ。」
デヴィットの突然の発言に私は驚いたが・・・確かに彼の言う事ももっともかもしれない。
「ええ・・・そうですね。その方が良いかも・・・。」
「そうか・・・でも君達2人が決めた事だからね。俺は・・口を挟まないよ。だからせめて・・・2人の無事を祈っているよ。」
マイケルさんはそう言って笑みを浮かべた。
今、私達は男性専用のブティックに来ている。
「ジェシカ。結局服を着るのはお前自身なんだから、自分の意思で服を決めた方が俺はいいと思うぞ。」
「そうですね・・・。」
店員からは妙な目で見られたが、デヴィットのアドバイスを受けて私はシャツとボトムス、ベスト、そしてジャケットをチョイスした。
「あの・・・お金なんですが・・・。」
「何だ?金の心配ならするな。俺が支払ってやるから。」
「で、でも・・・!申し訳無いですよ!」
それでは余りにも肩身が狭い。
「いいって言ってるだろう?だってこれは学院へ潜入する為の必要な物なんだから。」
「でも・・・貰いっぱなしでは気が済まないので・・・後で何かお礼させて下さいね。私に出来る事なら何でもします。お金も後で必ずお返ししますからっ!」
「・・・・わかったよ。」
そんな私を見て・・・デヴィットは苦笑しながら返事をすると言った。
「で・・どうする?ジェシカ。今日・・これから学院へ行くか?」
「えっと・・・こ・心の準備があるので・・・あ、明日でもいいですか?今日はもう明日に備えたいと思います。」
「うん・・・確かにそうした方が良いかもしれないな・・・・。」
デヴィットは頷くと言った。
「それじゃ、今夜の宿を探しに行くか?」
「このホテルにしようかと思ているんだ。」
デヴィットが足を止めたのはこの町で一番大きなホテルの前だった。
「この辺りは治安もいいしな・・。だが・・ジェシカ。もしかするとアラン王子達が今夜襲ってくるかもしれないから部屋を1つだけにさせて貰うが・・構わないか?」
「はい、そうですね・・・。その方が私も安心です。」
部屋の中はかなり広く、ダブルサイズのベッドが2置いてある。デヴィットは部屋に入るなり、あちこちをチェックし始めた。
バスルームを調べたり、ベッドの下を覗き込んだり・・・。
「あの・・・何してるんですか?」
デヴィットの様子が気になった私は彼に声を掛けた。
「あ、ああ・・。万一ソフィー達が襲ってきた場合の事を考えて、その際は何処にお前が隠れて貰うか場所を探してたんだ。」
おお~ッ!まるで探偵みたいだ・・。
「だが・・・・。」
デヴィットは突然振り向いた。
「デヴィットさん?」
「いや、何でも無い・・・とにかく・・・アラン王子達に居場所がバレない事を祈ろう。もし、バレたとしても・・・かならずお前の事は守ってやるから・・。」
「は、はい・・・。」
そう、きっと大丈夫・・・。今夜一晩乗り切れば—。
私は自分に言い聞かせるように両手を強く握りしめるのだった。
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