第1章 4 私は指名手配犯?

 これからどうすれば良いのだろう・・・。講師室を出た私はトボトボと当てもなく歩いていた。

本当なら真っ先に訪ねるべき人はダニエル先輩なのかもしれない。でも・・私の事を忘れていたら?ソフィーに洗脳されていたら?

そう考えると、怖くて訪ねる気がしなかった。他に・・・他に誰なら信頼出来る・・?

だけど、考えれば考える程に今の私の味方になってくれそうな人物が誰も思いつかない。

グレイやルーク・・・それにエマ、クロエ、リリス、シャーロット・・・マリウスや生徒会長ならまだ何とかなりそうな気もするが、あの2人にだけは絶対に頼りたくない。そして公爵・・・・恐らく彼は今は間違いなく私の敵となっているはずだ。

何故あの場に現れなかったのか謎が残るが、絶対に彼にだけは見つかってはいけないと私の中で警鐘が鳴っている。

 それに気がかりなのが私を手助けしてくれたライアン、レオ、ケビン、テオ・・・そして・・・。

「マシュー・・・・。」

私はいつしか愛しい彼の名を呟いていた。

目に涙が浮かんでくる。マシュー・・・貴方は本当に生きてるの?今・・・一体何処にいるの・・・?

本当は彼の行方を捜したいのに、何故か私が持っているマジックアイテムの手鏡は何の反応も示さない。学院について真っ先にマシューの居場所を知る為に鏡を覗きこんだのに、映る姿は私の顔だけだったのだ。

・・・ひょっとすると・・やはり助からずに、あの場で死んでしまったのだろうか・・・。私は恐ろしい考えを振り切る為に首を振った。


 ふと気が付いてみると、いつの間にか私は初めてマシューと出会った旧校舎の中庭へ来ていた。無意識にここへ足を運んでしまったようだ。

馬鹿だな・・・私。こんな所へ来たって彼に会えるとは限らないのに・・・。

溜息をついてベンチに座って空を見上げる。

相変わらず気が滅入るような空だ。そう、まるで魔界で見上げた空のような・・・。

あれからノア先輩はどうなったのだろう。だけど・・・ノア先輩ならきっと大丈夫。何故かは分からないが、私はそう思えた。恐らく、ノア先輩は魔界へ誘拐されたセント・レイズ学院の学生が『ワールズ・エンド』で見つかった・・・とでもきっと世間から認識されるに違いない。

今、一番まずい状況に立たされているのが私だ。


 魔界へ行くと、人間界から記憶どころか、最初から存在しなかったように認識されてしまうのに、何故ソフィーは私の記憶を無くしていなかったのだろう?それに・・・どうして私が今日『ワールズ・エンド』へ現れる事を予測出来た?これも全て聖女による力なのだろうか?だけどソフィーの使う魔法はまるで魔族の使う闇の魔法にしか見えなかった。


 私は今すごく孤独だ・・・・・。初めてこの世界にやって来た時もそう感じたが、今はその時の比では無い。この学院にいる人達誰もが、全員私の敵にしか思えないのだから。私は大分精神を病んでしまっているのかもしれない。


 本当は『ワールズ・エンド』で夢の通り、大人しく掴まるつもりでいた。だけど、フレアからマシューが生きているかもしれないと聞かされたら・・・どうしても一目彼に会うまでは流刑島へ送られたくないという重いが強く、私はとうとうここまで来てしまった。


 その時、旧校舎へ誰かが入って来る足音が聞こえ、私は咄嗟に校舎の中へ逃げ込んだ。そして窓からそっと中を伺うと、そこには腕章をつけた2人の男子学生が掲示板に何かを貼っている姿を目撃した。

・・・何やら話声が聞こえて来る。一体何を話しているのだろう・・・。気付かれないように身を縮め、ソロリソロリと外へ向かい出口付近で身を沈めた。



「・・・後、何箇所にこのポスターを貼ればいいんだ?」


「う~ん・・・残りまだ100枚以上はあるぞ・・・。一体聖女様様はどれくらいこのポスターを作ったんだよ・・・。」


「しかし・・・凶悪そうな顔しているよな・・・。このジェシカ・リッジウェイって女は。」


な、何?わ、私?!一体どういう事なの?!もしかして・・・あのポスターは私の事が書かれているの?

2人の会話はまだ続いている。


「それにしても・・・聞き覚えが無い名前だよな。本当にこの学院にいたのか?」


「何でも聖女様の話によると魔界に行った者は、その報いが来るらしいぜ。この世界からそれまでの存在を消されてしまうらしい。だけど、魔界から戻って来るらしいから・・・それで捕まえる為にこのポスターを作らせたんだろう?」


「よし、それじゃ残りのポスターを貼りに行こうぜ。」


言いながら2人の学生はその場を後にした。

彼等の足音が完全に聞こえなくなってから、私はフードをより一層目深に被ると、急いで掲示板を確認しに行った。


「え・・・う、嘘でしょう・・?何、この絵は・・・。」


そのポスターにはデカデカと私の絵が描かれていた。が・・・しかし、その絵はとても私と似ても似つかないものだった。

紫色の瞳はあっているが、この人物は目が細く、まるで狐のように吊り上がっている。口も一文字に締まり、口角の端が上がってずる賢そうな笑みを浮かべている。これはどこからどう見ても・・・意地の悪い悪女にしか見えない。

この絵の唯一似ている所と言えば、長く、ウェーブのあるこの髪型位だ。


「な、何て酷い絵なの・・・。で、でも・・・髪型が・・・こ、これはまずいわ・・・」


ジェシカの髪はこの学院でも珍しい位に長い。私が書いた小説のジェシカは自分の長く美しい栗毛入りの髪が一番のお気に入りで、とても大切にしていた。だけど・・・私はジェシカでは無い。今はこの髪型のせいでピンチに追いやられている。な、何とか・・・しなければ・・・!


私は肩から下げていたリュックをベンチに降ろすと、何か使えそうなものは無いか探し始めた。

あった!

念の為にと荷物の中に入れてあった鋏が見つかった。私は自分の髪の毛をひとまとめにして左手で持つと、迷うことなく鋏を入れた―。


「これで・・よしと。」

私は余っていたリネンの生地に先程自分が切り落とした髪の束をを入れて縛るとリュックの中にしまった。

そして改めてフードを目深に被ると、人目を避けるようにしながら「セント・レイズ学院」の門に向かって歩き始めた。

この学院とセント・レイズシティを繋ぐ『門』は閉ざされている。そして私には他の人達のように転移魔法を使う事が出来ない。そうなると・・・


「歩くしか無いわ。」

私は自分を奮い立たせるために口に出した。大丈夫、根性があればきっと・・・町まで歩いて行ける・・はず・・・。

兎に角、セント・レイズシティに着いたらジョセフ先生の家を訪ねてみよう。それに気がかりなのはレオの事だ。何とかウィル達のいる島へ渡る方法も考えて・・・。


 ブツブツ言いながら下を向いて歩いていると、急に前方から声をかけられた。


「おい、そこのフードを被った女。何処へ行くつもりなんだ?」


し、しまった!考え事をしながら歩いていたから・・・堂々と学院の敷地内を歩いていた!今の私はお尋ね者なのに・・・・・。

そう、実はあのポスターには驚くべきことに懸賞がかけられていたのだ。商品はお金ではなく、何と単位のプレゼント。この私を捕えた人物には自分が一番苦手とする科目の単位を無試験で貰えるのだ。こんな事、許されるはずが無い!

絶対にソフィーの仕業に決まっている。しかし、ソフィーのこんな無茶苦茶な要求を呑む学院も十分問題がある。もはや・・・この学院はソフィーによって支配されているに違いない。

 等と・・・めまぐるしく考えていたら、再び声を掛けられた。


「おい、お前の事だよ、聞いてるのか?」


男性の声が先程よりもイラつきを見せているので私は慌てて下を向きながら返事をした。

「い、いえ。大丈夫です。ちゃんと聞こえてますから・・・。」


言いながら私は相手に自分の顔が見えない程度に顔を向けた。


え・・・・この人は、確か—?






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