※魔界のノア ② (大人向け内容有り)
「ジェシカ、ジェシカ。」
ぐっすり眠っているジェシカの身体を揺すった。
「う~ん・・・。」
ジェシカは気だるそうに寝返りを打ったけれど、目を開けてゆっくりとベッドから起き上がってくれた。そして目の前に座っている僕と目が合う。
ジェシカの綺麗な紫色の瞳に僕の姿が映っているけど・・・。
「な・・・なんて可愛いの~っ!!」
言うとジェシカは僕をギュッと抱きしめると、自分の頬に僕の頬を摺り寄せた。
う・・・うわっ!
こ、こんな事・・・されたのは生れて初めてだ!しかもジェシカはこれでもかという位ギュウギュウに抱きしめて来る。
「う、うわっ!ジェシカッ!く、苦しいってばっ!」
息が詰まりそうになって必死にもがいた。
「あ、ご・ごめんね。」
その時になってジェシカは僕を思い切り締めあげている事に気付いたのか、手を離すと謝って来た。それにしても、小柄なジェシカに締め付けられるとは思いもしなかった。これ程までに僕の身体は小さな子供に戻っているって事なのか。
・・・何かショックだ。
「ねえ、僕。どこの子なの?こんな夜に知らない人のお家に来ていたらパパとママが心配するよ?お姉さんがおうちまで連れて行ってあげようか?場所は分かる?」
だけど、ジェシカは僕のそんな複雑な気持ちに全く気付かない様子で、完全に小さな子ども扱いをしてくる。だけど・・・ジェシカは多分子供が好きなんだね。きっと素敵なお母さんになれそうだ。そして僕は彼女と家庭を築いた様子を想像してみた。
でも、取り合えずジェシカにはきちんと説明しないと。
「ジェシカ。僕の事が分からない?」
「え・・・?」
ジェシカの瞳をじっと見つめて問いかけたけど、彼女には戸惑いの表情が浮かんでいる。そして、何かに気付いたかのようにおもむろにジェシカは尋ねて来た。
「ねえ。そう言えば・・・どうして私の名前を僕は知っているの?」
僕はそれには答えず、窓の外を見た。・・・もうすぐ分厚い雲に覆われた月が顔を覗かせそうだ・・・。
「ねえ、カーテンを開けて窓の外を見て。今は満月が雲で隠れちゃっているよね?」
その時、ジェシカは僕に言われて初めて窓の外を眺めた。
「ほら、雲が晴れるよ・・・。」
窓から月を眺めているジェシカに言う。
ジェシカは言われた通り、じっと月の様子を観察していた。・・やがて、雲が晴れて行き・・・僕は自分の身体に力が漲っていくのを感じ始めた。
小さかった身体が徐々に元の姿へと戻って行く・・・。
「確かに雲が晴れて、月が見えるようになったけど・・・。」
ジェシカが視線を戻しながら僕に言う。そして、その大きな瞳を見開いた。
「ノ・・・ノア先輩?!」
ああ・・やっと僕は僕の姿でジェシカに再会する事が出来た。戸惑っているジェシカに歩み寄ると、彼女の頬に両手を添えて言った。
「こんばんは、ジェシカ。・・・いきなり訪ねてきて驚かせたよね?」
「お、驚くも何も・・・・。」
ジェシカは声を震わせると、一気に話始めた。何故か自分も含めて、皆が僕の存在を忘れてしまっている事、そして万能薬の花を取りに行った彼等の話も何処かあやふやな内容に変わっている事等々・・・。そして僕にその理由を教えて欲しいとお願いして来た。
「ジェシカ・・・。それを知ってどうするの・・・?」
理由なんか知ったって、どうする事も出来ないのに。
「だって・・・絶対にノア先輩は私を助けるために何か大きな代償を支払ったに決まっているからです。夢の中でしかノア先輩と会えないなんて・・・思い出せないなんて、絶対おかしな話じゃ無いですか!」
それでも尚、食い下がって来るジェシカに僕は全てを説明する事にした。すると話を聞いていたジェシカの目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
ジェシカ・・・僕の為に悲しんでくれるの?
だから僕は彼女を慰める、どうか泣かないで、女神を助けるのにこの命を捧げるのなんかちっとも惜しくは無いって事を彼女に伝えてあげないと。
「で、でも・・・。」
尚も言い淀むジェシカに僕は言った。
「今まではジェシカが夢の中で僕に会いに来てくれた。そして今夜は僕から初めてジェシカに会いに来た特別な記念日だよ。でも・・・夢の中でもジェシカに会えるのは今日が最後になってしまう・・・。僕の人間界で使える魔力はもう底を尽きているんだ。今日は最初の満月。月の力が一番強く、魔力を補える夜だったから、そして魔族の女の監視の目が緩んだから、ようやく・・ジェシカ、君に会いに来れたんだよ。」
そう、僕には自分自身の事が良く分かっている。もう僕は半分魔族に近い身体になってきている・・・。いずれ僕は完全に魔族になってしまうだろう。そうなると・・もうこの素敵な夢の世界に戻ってくる事は出来るはずが無い。
「ノア先輩・・・。」
ジェシカは目に涙を一杯溜めている。それを見ていると僕の胸は締め付けられそうに切なくなり・・・。
「ジェシカ・・・愛してる・・・。本当はずっと君を抱きしめていたい・・離したく無い・・・っ!」
僕はジェシカの身体を力強く抱きしめた。するとジェシカは泣きじゃくりながら縋りついて来てくれた。今・・・この瞬間だけでも僕はジェシカを独り占め出来ているんだ・・・。なら・・・ならジェシカ。最後のお願いを・・聞き入れてくれるかな・・?
「もうこれが最後になるかもしれないから・・・僕は君のぬくもりを感じたい・・・。駄目・・・かな?」
夜明け前にはまた再びあの冷たい魔界に帰らなくてはいけない。そして・・・もう二度とこの温かい世界に戻ってくる事は叶わないだろう。
じっとジェシカから目を離さずに見つめた。するとジェシカは僕の首に両腕を回すと、耳元で囁いた。
「駄目じゃ・・・ないです。」
ジェシカから許しを貰った。僕はより一層強くジェシカを抱きしめ、無言で唇を奪うと、そのまま彼女をベッドの上に押し倒し・・・・。
そこから先は・・・もう夢中だった。
どうか、このまま永遠に時が止まってくれればいいのに、この幸せがずっと続けばいいのに・・・と願いながら、愛するジェシカを抱いた―。
やがて幸せな時間の後・・・僕の腕の中でまどろんでいるジェシカに囁いた。
「ありがとう、ジェシカ。最後に・・・僕のお願いを聞いてくれて・・。」
するとジェシカは僕の顔を泣きそうな目で見つめてきた。
「最後なんて・・そんな言い方しないで下さいっ!わ、私は・・・絶対にノア先輩を諦めません。例え、目が覚めて先輩の事を忘れても・・必ず先輩の事を思い出して、そして魔界まで助けに行きますから!」
言いながら僕の首に腕を回して抱き付いてくるジェシカ。本当に・・・?ジェシカ。
本当に君は・・・僕を助けに来てくれるの・・?
そしてジェシカは驚くべき提案をしてきた。自分にマーキングをしてくれと言って来たんだ。
・・・信じられなかった。こんな事がマリウスやアラン王子にバレたらジェシカの立場はまずくなるに決まっているのに・・・。
だけど、それと同時に、今まで生きてきてこれ程幸せを感じた事は無かった。だから僕は・・。
「愛しているよ・・・ジェシカ。」
もう一度ジェシカと身体を重ねた・・・。
「ジェシカ、これをあげるよ。」
僕はジェシカに2つのピアスを渡した。
「ピアス・・・ですか?」
ジェシカは不思議そうな顔で僕を見上げる。
「うん、このピアスには・・・僕の想いが詰まっている。どうか・・・受け取ってくれる?」
「はい。」
素直に頷くジェシカ。
「僕が・・・つけてあげるね。」
これは・・・僕からジェシカへの最初で最後のプレゼント。
ジェシカの耳にピアスを付けてあげると言った。
「ジェシカ・・・・。君の気持ちだけありがたく受け取っておくよ。僕の事は・・・本当に忘れてしまっても構わないからね。今夜の幸せな思い出があるから、それだけで僕はこの先もずっと魔界で生きていけるよ。」
「え?!な、何を言ってるんですか?ノア先輩・・・!」
「さよなら、ジェシカ。元気でね・・・。」
そして自分の意識を魔界へ戻す。
泣きながら僕に手を伸ばすジェシカの姿を最後に目に焼き付けながら—。
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