第2章 4 魔界の第2階層にて
青いオオカミと鏡の中を通り抜けると、そこにはまた別の城が眼前にそびえ立っていた。鬱蒼とした森に覆われた城ではあったが、先程の第一階層の城に比べると随分マシに見えた。城全体にツタが張り巡らされてはいたが、先程の城のように朽果ててはいなかったからである。
空を見上げると、相変わらず昼なのか夜なのかも分からない陰鬱な雰囲気の色をしている。
「寒い・・・。」
私はブルリと震えながら自分の両肩を抱きしめた。
本当に・・・何て寒い世界なのだろう。夢の中でノア先輩が話していた通りの寒さだ。
すると上から視線を感じた。
見上げるとその視線の先にはオオカミが私の事をじっと見降ろしていたのである。
まるで中に早く入らないのかと目で訴えられているようにも感じられる。
「あ、ごめんね。うん・・・。いつまでも突っ立っていても何も始まらないものね。
それじゃ・・・中に入ろう・・。」
私は城門にそっと触れてドアを開けた—。
城の中はところどころに松明が灯されていたので、歩くのに不便は無かった。
ヒタヒタヒタヒタ・・・・・。
私とオオカミの足音が石の回廊に響き渡ってこだましている。私達は無言で城の回廊を歩いている・・・が、それにしても・・何故だろう?ここには全く魔物の気配が感じられない。ひょっとすると第2階層には魔族が住んでいないのだろうか・・?
だけど・・・私の側には今とても頼りになるオオカミがいる。なので恐怖心は全く感じる事は無かった。
どの位歩いただろうか・・・・。遠くの方が薄っすら光っている。出口が見えて来たのだ。
え?こんなに早く第2階層を抜ける事が出来るの?あまりにもあっさりで拍子抜けしそうになり・・・。城の外を出た私は目を見張った。
なんと城を抜けると目の前に見えたのは城下町だったのだ。最も町と言ってもかなり小規模な町で、どことなくさびれた印象がある。いや、むしろ町というよりは村に近いかもしれない。
そしてその村の中を行き交う魔族達・・・。
第2階層に住む魔族達は2足歩行の人型魔族と4本足歩行の獣型が入り混じったような世界であった。
私は彼等を注意深く観察した。
2本足歩行の魔族達は、皆簡単な布で出来た洋服を着用している。外見は様々。
普通の人間と同じ2つの目を持つ魔族も入れば、3つ目、四つ目を持つ魔族もいる。
肌の色も様々で緑色の肌や赤い肌、時には青い肌を持つ魔族達もいて、体型や体格もみなバラバラである。でもよく見ると、この第2階層でもやはり階級社会があるのだろうか?
割と身なりの良さそうな格好をした魔族もいるし、ぼろ布だけを身に纏ったかのような魔族もいる。
一方、獣タイプの魔物は村から外れた場所でそれぞれ同じ種族同士で群れを成している。・・・その光景は何だかテレビで見た事があるアフリカのサバンナに住む野生動物達を彷彿とさせた。
ただ、違う点はここに住む獣たちは全て魔族であると言う事。
その証拠に、獣なのに言葉を交わして会話をしているのだからっ!
それにしても・・・先程から私達は随分注目されている様だ。
けれど、多分注目されている原因は私の隣に立つオオカミだろう。何せ、彼ほど大きな姿を持ち、強そうな魔族は今のところ一度も見かけていないからだ。
だけど・・・私はここに来て不思議に思った事がある。ここ、第2階層の魔族は獣タイプでも言葉を話している。このオオカミはどう見ても上級魔族に属していると思うのだが・・・獣のような咆哮以外で言葉を発するのを聞いたことが無い。
「ねえ・・・・貴方は言葉を話さないの・・?」
私はダメもとでオオカミに話しかけてみるが、彼はチラリと私を見ただけでそっぽを向いてしまう。
う~ん・・・やはり言葉を話す事は出来ないのかな・・・?
その時、私達の近くにいた獣タイプの魔物が近づいて来た。え・・・?い、一体何・・?
この魔物は全身が真っ黒に光り輝き、その姿はどことなく豹に似ている。
ただ違う点と言えば、頭部に1本の巨大な角が生えているというところだろうか?
何やら血走った目でこちらにやって来た魔物に恐怖を覚えた私はオオカミの前足の後ろに隠れた。
すると突然魔物が話しかけてきたのである。
「珍しい事もあるものだ・・・・。このように魔力の高い魔族が第2階層の我らの所へ姿を見せるなど・・・。もしよければ一体何故この場所へやって来たのか理由を教えてくれないか?」
ど、どうしよう・・・。これは私に話しかけているのだろうか・・・?でも今の私は猫の姿をしているはず。猫が勝手に話す訳にはいかない。私はだんまりを決め込む事にして、オオカミをチラリと見上げたが相変わらずの無反応だ。
「・・・おい、無視するのか・・・確かにお前は上級魔族の様だが・・・ここは俺達魔族が住む第2階層だ。いわば、俺達の縄張り。勝手に入ってこられては困るんだがなあ?しかも俺はこの階層の長だぞ?」
グルルル・・・・と低い唸り声と共に言う魔物。
え・・?う、嘘でしょう・・・?この階層の長・・・・?
そしてふと気が付くと私達は大勢の魔族達に取り囲まれていた。その数は・・・100以上はあるだろうか・・?
そ、そんな・・・!私はてっきり凶暴な魔族達は第一階層だけにしか生息していなものだとばかり思っていたのに・・・・。
彼等の誰もが、血走った目で此方を睨みながらジリジリと距離を詰めて来る。
そして人型タイプの魔族が口を開いた。
「・・・大体、お前ら上級魔族はいつも俺達を馬鹿にしやがって・・・。魔力が弱い俺達を奴隷として連れ去って行くのはもう我慢出来ないんだよ。」
え・・・?上級魔族が彼等を奴隷に・・?
私はその言葉に耳を疑った。
そして、この魔族の訴えに触発されたのか、次々と魔族達が私達に文句を言い始めたのだ。
「そうだ!俺達を奴隷のようにこき使って働かせ、死んでしまえば、死体を勝手に投げ捨てていくのはあまりに勝手だっ!」
「自分達ばかり、いい暮らしをしやがって・・・!」
「ちょっと外見が良い女がいれば強奪までしていきやがって・・・!俺の妻を返せっ!!」
もう、物凄い騒ぎになってきた。とんでもない事になってしまった。私は自分の正体がバレてはいけないので、無言を通し続けているが・・それも良く無かったのかもしれない。
ある一匹の魔物に目を付けられてしまったのだ。
「ん?なんだ・・・。あの猫は。随分あの上級魔族に気に入られてるようだな?大事そうに守ってるじゃ無いか・・・。」
「そうだ!あの猫はきっとあいつらの大事な飼い猫なのかもしれない、よく見ると素晴らしい毛並みをしているし・・・。」
「よし!あの猫を捕えて、見せしめに殺して奴らに送り付けてやれ!!」
え?こ、殺す・・・?!
な、なんて怖ろしい事を言いだすのだ・・・・。やはり、所詮は魔族。このような恐ろしい思考能力しか彼等には無いのだろうか・・・?
するとオオカミがグルルル・・・と低い唸り声をあげると、突然私の頭の中で声が響いた。
〈ジェシカ!!耳を塞げっ!!〉
え?今の声は―?!
見るとオオカミが私を見下ろしている。ま、まさか・・・今私の頭の中に話しかけてきたのは・・・?!
私は言われた通りに両耳を塞いだ。
すると恐ろしい程の地響きが起こり、地面にのたうち回る魔族達の姿がそこにあった。
そして呆気に取られていた私をオオカミが咥えると、物凄いスピードで走り始めたのだ。
背後を振り向くと、先程の攻撃で難を逃れた魔族達が武器を手に追いかけてくる。
それと同時に放ってくる魔法攻撃。
オオカミはそれ等の攻撃を振り切って走り抜け・・・気が付くと、目の前には巨大な洞窟があった。
オオカミは私を降ろすと、その鼻先で私を押した。
「中へ入れば良いの・・・?」
尋ねると、頷くオオカミ。
私は恐る恐る中へ入ると、オオカミも後から付いてきて・・・。
ドサリッ!!
背後で大きな音が聞こえた。
驚いて振り向くと、そこには倒れているオオカミの姿があった―。
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