第13章 14 新しい仲間

 私は頭を抱えた。


「ジェシカ?どうしたんだ?!」

「しっかりしろ!」

「大丈夫か?!」


ライアン、ケビン、テオが私に声をかけてくるが、返事をする余裕も無い。もうすぐ魔界の門を開けようとする人物が現れる・・?それはまさに私の事だ。ソフィーは私が魔界に行こうとしている事を知っていたのだろうか?私の行動をずっと監視していた・・・?そしてソフィーが突然発動した癒やしの魔法に、聖女宣言。あまりにも全てがタイミングが良すぎる。それに、聖剣士を神殿に集めてのソフィーの演説・・。

いけないっ!!


「ジェシカ!しっかりしろ!俺の顔を見るんだ!!」


ライアンが私の両肩を掴んで自分の方を向かせた。

「あ・・・ライアンさん・・・。」


「落ち着け、ジェシカ。ここにいる俺達は皆お前の味方だ・・・。一体、何をそんなにお前は焦ってるんだ?」


「そうだ。お前が抱えている悩み・・・俺達に話しちまえ。」


ケビンが声をかけてくる。


「た、大変・・・。彼女・・ソフィーは催眠暗示が得意なんです!このままだと神殿にいる皆が彼女に暗示をかけられてしまう・・・!」


「催眠暗示だって?」


テオが眉をしかめた。


「そういえば・・・以前お前に夢中だったアラン王子達が妙な女に夢中になった事があったな・・・。」

 

ライアンが言った。


「俺が見た時は、ソフィーに熱を上げていたぞ?」


ケビンが言う。


「おい・・・それじゃソフィーの取り巻き連中は、ひょっとすると催眠暗示にかけられていたのか?!」


テオは驚きを隠せない様子である。


「今、ソフィーは神殿で聖女になる宣言をしている最中のはずです。恐らく神殿にいる聖剣士や神官の人達は・・・ソフィーの言葉に心酔して・・全員が彼女の操り人形にされてしまいかねない・・・!」


 そう、この小説のヒロインであるソフィーは最早私の知るソフィーでは無い。あの日、美しい桜吹雪の下でマシューは言っていた。ソフィーの身体から滲み出ている邪悪な黒い影が見えると・・・。それは恐らくマシューが半分魔族の血を引いているから感じられるのだと。さらにマシューはソフィーは何者かと契約を交わしているかもしれないとも話してくれた。

 ひょっとすると、ソフィーは偽物・・・?

考えてみれば私は小説の中でソフィーは攻撃魔法は使えない存在として書いていた。なのにソフィーは一度私に攻撃魔法を与えて来た事がある。だとしたら、本物のソフィーは一体何処にいるの・・・?


「どうした、ジェシカ!しっかりしろ!」


 ライアンに揺さぶられて、ハッとする私。見上げるとライアンが心配そうに私の事を見つめている。

駄目だ・・・もうこれ以上黙っていられない。最早私とマシューだけで秘密を共有していられる段階では無い。

私は覚悟を決めた。

「み・・皆さん・・・。聞いて下さい・・。わ、私・・実は本日マシューに魔界の門まで連れて行って貰う約束をしているんです。そして、門を開けて魔界へ向かう事になっていて・・。」


「え?!」

「何だって!」

「ほ・・・本気なのか?!」


ライアン、ケビン、テオがそれぞれ驚愕の声を上げた。でも、それは当然の事だろう。


「おい、ジェシカ!何故魔界の門を開けると言うんだ?!一体そんな事をしてどうするつもりなんだよ!」


テオは私の両肩を持って激しく揺さぶる。


「お前・・・やっぱり・・悪女だったのかよ・・・?」


「ち、違いますっ!」

テオの言葉を強く否定した。


「当たり前だ、ジェシカが悪女のはず無いだろう?俺は良く知っている。」


ライアンはテオの前に立ちふさがった。


「さあ、ジェシカ。何故魔界へ行くんだ?何か事情があるんだろう?」


ライアンは優しい声で語りかけて来た。


「ラ、ライアンさん・・・。私・・・。」

私は俯くと、今迄の経緯を全て話した。

かつて、この学院にはノア・シンプソンという名前の学生が居た事。生徒会の副会長を務めていた事・・・。そして昨年私がソフィーの策略により、海賊に誘拐されたのをノア先輩、ダニエル先輩、アラン王子、マリウス、グレイ、ルーク達が助けにやって来た事。

誘拐した海賊と心を通わせていた私がレオという青年を庇って毒の矢で射抜かれて死にかけ・・・万能薬を取りにノア先輩たちが魔界へ向かい、万能薬の元となる花と引き換えにノア先輩は魔界へ行ってしまった事・・・それら全てを私は3人に話した。


 彼等は私の話を黙って聞いていたが、話しの終わりの方では3人とも顔色を変えて話を聞いていた。

話し終えた私に、一番初めに声をかけてきたのはライアンであった。


「ジェシカ・・・それじゃ、本当にこの学院にノア・シンプソンという学生が居たのか・・?俺達が何一つ覚えていないのは彼が魔界へ行ったからだって言うのか?」


「はい・・・そうです。私もノア先輩の事はすっかり忘れていました。何故思い出す事が出来たのかは・・・私にも良く分からないんです。」


「それで、今夜マシューが門番の時に一緒に魔界の門へ向かう事になっていたのか・・・。」


テオが腕組みをしながら呟く。


「ジェシカ!俺はお前と一緒に行くぜ!」


突然ケビンが私の両手を握り締めると言った。


「え?ケビンさん?!」


「魔界の門を通り抜けた先はどんな事が待ち受けているのか全く分からないんだろう?それにマシューは門番の仕事があるからジェシカに付いて行ってやる事が出来ないのなら・・・俺はお前の護衛として何処までも付き合うぜっ!」


「なら俺も当然行く。」


ライアンが言う。


「仕方ねーな・・・。お前達が行くっていうなら、俺だって名乗り出なくちゃ決まり悪いだろうが。」


テオが頭を掻きながら言う。


「そ、そんな・・・!皆さん、本気で言ってるんですか?!門から先の世界がどんな世界かも分からないのに・・・!それに、今ソフィーは神殿で聖女として神官や聖剣士達を洗脳してるかもしれないんですよ?!捕まったらどんな目に遭うか・・・。」


そう、犠牲になるのは私1人でいい。これ以上・・・誰かを巻き込む事なんて私には出来ない。


「だから、尚更だ。」


ライアンは私の正面に立つと言った。


「お前と・・後レオだったか?たった2人で魔界の門まで辿り着けると思うか?恐らくソフィーはお前が今夜マシューと一緒に門へ向かう事を知っていたんだと思う。多分・・・あの女の事だ。追手を放つはずだ。その追手と言うのは勿論・・・。」


そこまで言いかけた時、背後で声が聞こえた。


「そう、追手は聖剣士になると思うよ。」


「「「「!」」」」


私達は全員後ろを振り向いた。

そこに立っていたのはマシューだった・・・。


「マシューッ!ど、どうしてここに?!」


私はマシューに駆け寄った。


「さっき、女子寮に行ったらジェシカがいなかった。・・・恐らく生徒会室に来ているんじゃなかいと思ってね。」


「おい、マシュー。お前・・・こうなる事・・気付いていたのか?ソフィーが聖女に選ばれる事を・・・。」


テオがマシューに詰め寄る。


「少し、予想外だったけど・・・最近一段とあの女から溢れ出す邪悪な黒い影が濃くなっていたから、注意を払っていたつもりだったんだけどね・・・。まさかこちらの動きを読まれていたとは思わなかった。・・・これは俺の誤算だ。」


マシューは俯いた。

それじゃ・・・やっぱりマシューはソフィーが聖女に選ばれる事になるのは分かっていたのだろうか・・・。


「ね、ねえ。マシュー。こうなったら、今夜決行するのは無理なんじゃ・・・。」

しかし、マシューは言った。


「ジェシカ、今夜予定通り『ワールズ・エンド』へ向かう。先輩達も・・・当然来てくれますよね?」


そしてマシューはライアン達を見渡した—。












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