第12章 1 今度は幸せな夢を・・・
翌朝—
私はすっかり寝不足の状態で目を覚ました。昨日の公爵とソフィーのガゼボでの2人の件が自分でも思っていた以上にショックを受けていたらしい。
そのせいか、昨夜は夜の食事もせずに寮へ戻り、そのままお風呂に入って眠ってしまった。それなのに、殆ど眠る事も出来ずにウトウトする状態が続き気が付いてみると朝になっていたのだ。
「朝ご飯は・・・食べに行かなくちゃ・・。」
そう思って起き上がろうとするも、身体がふらつく。それに何だか身体が熱っぽい。
「まさか・・・風邪引いたのかな?」
念の為に体温計で熱を測ると、自分でも驚く程高熱が出ている。
「38度・・・。」
これでは授業に出る事も出来ないな・・・。仕方が無い。
私はふらつく身体で寮母宛てに手紙を書いた。
『本日、熱がある為授業を欠席させて頂きます。学院側にどうぞよろしくお伝えください。
ジェシカ・リッジウェイ』
それだけを書くと、ドアの隙間に挟んだ。
これには理由がある。風邪などの理由で授業を欠席する場合の連絡事項は全て寮母にお願いする事になっている。寮母は毎朝、部屋の見回りにやってくる。ドアの隙間に手紙を挟んでおけば、寮母がそれを見つけて内容を読み、学院側に届け出てくれる事になっている。中には親しい友人同士で連絡を取り合っている場合もあるが、大抵の学生は寮母を通して休みの届を出すのが決まりとなっている。
手紙をドアの隙間に挟み終えると、ふらつく身体でベッドに戻る。
グウ~・・・。その時私のお腹が派手になった。
「お腹空いたな・・・。」
具合が悪くてもお腹が空くなんて、どういう事だろう?でも考えてみれば昨夜
何も食べないで寝てしまったからな・・・。
ぼんやり天井を見つめながら考えているとカタンと部屋に取り付けてある郵便受けから音が聞こえた。
「・・・・?」
何だろう?今まで手紙は寮母が直接届けてくれていたので、郵便受けに手紙が入ってくるなんて初めてだ。
取り合えず手紙の内容を確認しなくちゃ・・・。壁伝いに歩きながら郵便受けから手紙を取り出してみる。
「あ・・・。エマからだ。」
早速開封して読んでみる事にした。
ジェシカさんへ
本日熱がある為、授業をお休みする事を寮母さんから聞きました。
朝ご飯も食べにいらっしゃる事が出来ないだろと思い、朝食をテイクアウトしてきました。大目に持ち帰ってきましたので、昼食の分も間に合うかと思います。
お大事にして下さい。
エマ
「エマ・・・・。」
私は手紙を握りしめると、ドアをそっとあけた。するとドアノブにバスケットが吊り下げられている。
バスケットを自室に持ち帰ると、中身を確認してみる。
そこには瓶に入った飲み物に、サンドイッチやおかずの詰め合わせ、テーブルパンやスコーン、リンゴ等のさまざまな美味しそうな食事が沢山詰め込まれていた。
「エマ・・・ありがとう。」
手紙を握りしめるとバスケットをテーブルに運び、エマに感謝しながら私は食事をすませた。
そして再び、ベッドに潜り込むと今度こそ私は眠りに就いた・・・。
あ・・・また私は夢を見ている・・・。
私の足元には傷だらけになって血を流した男性が倒れている。なのに、肝心の顔が靄に隠れて全く見る事が出来ない。
彼は私に言う。
「お・・・俺の事は構わず・・・に、逃げろ・・・ジェシカ・・・あいつらに捕まったら、恐らく君は・・・・ゴホッ!」
男性は口から大量の血を吐く。
「い・・・嫌ッ!貴方を置いて1人で逃げるなんて・・・!」
私は泣きながら頭を振っている。
「だ・・駄目だ・・。彼等はもう・・君の知ってる・・以前の彼等では無いんだ・・つ、捕まったら、きっとただでは・・・。」
すると、そこにもう1人誰かが現れたのか、駆け寄って来ると私の右手をギュッと握りしめて来た。
この人物も顔が霞んで誰なのかが分からない。
「そうだ、ジェシカ!俺達が・・・必ずお前を逃がしてやるから・・・!」
言うや否や、私の手を引いて走り出す。しかし私は泣きながら叫ぶ。
「嫌!は・・離して・・・!××××が・・・!」
誰かの名前を叫んでいる。一体私は誰を見捨てて逃げようとしているの?誰が私を連れて逃げようとしているの・・・・?
「あ・・・。」
目が覚めるといつものベッドの上だった。夢の中で相当泣いていたのだろうか?手で触れると、頬は涙で濡れ、頭痛がより一層酷くなっている。
時計を見ると11時半を指していた。
「な・・・なんて・・嫌な夢・・・。」
全身に汗がべったり張り付いている。
「気持ち悪い・・・シャワーを、浴びて着替えなくちゃ・・・。」
バスルームへ向かい、シャワーを浴びると清潔な下着とパジャマに着替え、再び私はベッドに入った。
あの夢の中で・・・私は誰かを見捨てて、また別の誰かに手引きをされて逃げようとしていたのだろう。
ひょっとすると・・・逃げていた相手はアラン王子と公爵?そして・・あそこに倒れていたのは・・・。もしかすると・・?
そこで私は考えるのをやめた。何故ならその人物の名を思い浮かべるだけで正夢になってしまいそうで怖かったから。
私は、自分の未来を結局変える事は出来ないのだろうか?
公爵が出てきたあの夢・・・夢の中で私は公爵を拒絶した。でも、現実世界では公爵の事を拒絶せず、その証としてキスまで受けたのに結局公爵はソフィーとガゼボの中で・・・。あの時の事を思い出すだけで全身に震えが走り、胸の動悸が早くなっていく。
駄目だ、私。もうこれ以上余計な事は考えるな。今はノア先輩を救う事だけを考えなくては。だけど・・夢の中ではノア先輩を救出する為に、少なくとも誰か1人が犠牲になっていた。
どうすればいいのだろう?私は誰の事も巻き込まず、1人でノア先輩を救出しようと思ったのに。
私の場合、仮にジェシカの命が尽きたとしても恐らく元いた世界で目を覚ます事になるのだろう。でも、この世界の彼等は?死んだら別の場所で目覚めるという訳では無いのだ。死んでしまったらきっと終わり。
「そんなの・・・駄目だよ・・。」
私はシーツを握りしめ、いつまでも嗚咽を堪えていた・・・。
それから暫くの間―
ベッドの上でウトウトしていると、ドアのノックの音に気付いた。
「ジェシカ・リッジウェイさん。起きてらっしゃいますか?」
「は、はい!」
私は慌てて返事をすると、寮母が部屋に入って来た。
「ジェシカ・リッジウェイさん。医務室のマリア・ペイン先生が風邪に良く効くハーブティーを貴女に渡してくださいと預かってあります。」
「あ・・ありがとうございます」
私は寮母から小さな紙袋を受け取った。
「それでは何かありましたらブザーを鳴らしてください。体調が悪い学生さん方には寮母室に直結するブザーがありますので。」
言いながら寮母は小さなブザーを手渡してきた。ブザーを受け取り、お礼を言うと寮母はすぐに部屋から立ち去って行った。
「へえ~こんなブザーがあるんだ・・。ちっとも知らなかった。」
私はブザーを手に取り、かざしてみた。まるでナースコールみたいだなと思ったが・・うん、寮母さんの迷惑になるので鳴らすのはやめておこう。
早速、気だるい身体に鞭を打ち、私はマリア先生が擁してくれたハーブティーを淹れる事にした。
やかんに水を入れ、ガスコンロに乗せて火を付ける。
湧いたお湯をポットに注ぎ入れ、マグカップについでフウフウ冷ましながら一口ゴクリ。
「美味しい・・・・。」
このハーブティーは身体も温まるし、何より眠気を誘って来る。
私はベッドサイドのテーブルにブザーを置くと布団をかぶり再び、眠りに就いた。
今度夢を見る時は幸せな夢が見られますように・・。
しかし、今回の私は夢を見る事は無かった―。
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