第11章 3 私の護衛騎士

 私は今1人でカフェへと来ていた。

本来なら公爵と一緒に学食へ食事に行く予定だったのだが・・・。


 話は少し前に戻る。



「・・・すまない・・・。」


 キスを終えると公爵は私の両肩を掴んで、顔を真っ赤にさせたまま横を向いて視線を合わせない。


「ドミニク様・・・?」


「こ、こんな事・・・本当はすべきでは無かったのに・・・。お、お前の気持ちが完全に俺の方を向いてくれた時にするべき事であって・・。なのに俺は・・・つい感情が高ぶって・・。」


 あくまでも生真面目な公爵。

年中発情男のマリウスとは偉い違いだ。ついでに言うとアラン王子もだけど・・。

 けれど、逆にこのような態度を取られてしまうとかえって困ってしまう。

何か声をかけなければ・・。

「あの、ドミニク様・・・。」


「す、すまない!い、今はジェシカの顔をまともに見る事も出来そうにない。悪いが・・・1人で食事に行ってくれないか・・・?お、俺は何処かで頭でも冷やしてくる。」


 そう言うと、公爵は転移魔法を使い、一瞬で姿を消してしまった。


「え・・?ええ~っ?!」




 こうして今私は1人、カフェで遅めのランチを取っていた。

いつものように窓際の席に座り、外の景色を眺めながらハンバーガーを食べていると・・。


カタン。


 椅子を引く音がして誰かが私の向かい側に座る気配を感じて、顔を上げた。


「やあ、ジェシカ・リッジウェイ。」


そこに座っていたのは見知らぬ男子学生だった。

え・・・?誰・・?


「あ、あの・・・。どちら様でしょうか・・?」

彼の制服の肩章をチラリと見ると私より1学年上だと言う事が分かった。


「あれ?俺の事覚えていないのか?あ~・・・。ま、それは無理も無いか。昨日少しだけ会ったばかりだもんな?」


 あ・・・そう言えば・・確かこの男性はソフィーが私に手を挙げそうになった所を止めて、私の味方だと言ってくれた男子学生だった。



「あ、ああ!思い出しました。あの時はお世話になりました。」


「お?俺の事思い出してくれたのか?それは良かった。今食事をしていたのか。随分遅めのランチだな?」


見ると彼が手にしているのはコーヒーのみである。


「ええ。少し用事をすませていたので。」

当たり障りのない答えをしておいた。


「それにしても・・・今日はソフィーさんと一緒では無いんですね。と言うか、何故彼女の親衛隊なのに私の味方だと言ったのですか?」


「え?親衛隊?何の意味だ?」


「いえ、特に意味はありません。」

私はコーヒーを飲むと言った。

「ソフィーさんの取り巻きという意味です。」


「ああ、あんな女のか?よしてくれ、冗談じゃ無いよ。あんな性悪女、俺の全く趣味じゃない。しかも化粧が濃いのも気に入らないし、むやみに香水を使って匂いがきつすぎるのも耐え難いよ。」


彼は溜息をつきながら言った。・・・何だか随分ソフィーの事をディスっているなあ・・・?とことん謎だらけの男だ。

「それじゃ伺いますけど、何故そこまでソフィーさんを毛嫌いしているのに彼女の側にいるのですか?」


「ああ、あれはあの女を監視する為に張り付いていただけさ。」


「監視?」


「そう、俺は生徒会の裏メンバーなんだ。昨年からソフィーによって酷い目に遭わされたと言う訴えが多く生徒会に寄せられて・・・それで俺が生徒会の連中から頼まれて、あの女の動向を探っていたのさ。そしてその一番の被害者として浮上してきたのがあんただよ。ジェシカ・リッジウェイ。」


意味深な言い方をして私を見ると笑みを浮かべた。


「え・・?わ、私・・・?」

私がソフィーの一番の被害者?そんな自覚は一切無かった。


「ど・・どういう事ですか?」


「ジェシカ・・・昨年は何度か襲撃されただろう?あれが全部ソフィーの仕業だと言う事は気が付いていたよな?」


「はい。それは知っています。」


「それじゃ誘拐された件は?あれの黒幕もあの女だって事は?」


え?な、何・・その話は・・・。全身から血の気が引くのを感じた。


「その様子だと、本当に知らなかったようだな?あの女はかなりあんたを憎んでいるようにも見えるが・・・何か心当たりがあるのか?」


心当たりがあるも何も無い。私はソフィーが何を考えているのかさっぱり分からない。本来の小説の通りなら、本来悪女ジェシカの名を語った女生徒達がソフィーに嫌がらせをしていたのに、ヒロインがジェシカに悪質な嫌がらせをするなど、あり得ない話だ。


「わ、分かりません。私にはさっぱり・・・。」


「そうか、そうだろうな。まあこれは俺の考えだが、多分あの女があんたに嫌がらせをするのは嫉妬だろうな?」


「嫉妬?」


「ああ、嫉妬だ。知っての通り、あの女は準男爵令嬢と身分が低い。その為普通の学生寮に入る事すら出来ない。だから必死なんだよ。極上の男を手に入れて、成り上がろうと。それなのに、ソフィーが狙っていた男は軒並み、あんたに夢中になっている。挙げ句に公爵令嬢と身分が高い。だからターゲットにされたんだろうな?」


「た、確かに・・・。」


言われてみればそうかもしれない。一時的にソフィーに夢中になったアラン王子達は学院の中でも注目の人物達だった・・・。けれども、そのせいでノア先輩は・・・犠牲になってしまったんだ・・・。酷い、酷すぎる・・・!

私は唇を噛んだ。


「俺の役目はソフィーがあんたに手を出す前に食い止めること。これはな、生徒会長の命令なんだ。」


「え?生徒会長の?」


「ああ、あんた・・・随分あの生徒会長に気に入られているようだな?」


男は何処か面白そうに言う。


「はっきり言って、迷惑ですが。」


「アハハハ・・・。面白い事を言うな?」


「そうでしょうか・・・?」


「ああ、あんたは色々興味深いよ。でも今後は俺がソフィーを監視するから、もう二度とあんな目に合わせないようにするからな?」


「ありがとうございます・・・。」


「あと、今後はあまり今日みたいに1人きりにならない方がいいな。出来れば、魔力が強い人間の傍にいた方がいいな。」


「はい・・。」


「と、言うわけで助っ人を呼んできたよ。」


「え?」


 すると窓をコンコン叩かれた。

驚いて振り向くと、そこにいたのは聖剣士のマシューであった。


「あの男は強い。昼休みが終わるまでは守ってもらえよ。俺はあの女の所へそろそろ戻らないとならなくてな。あまり離れていると色々疑われるんだ。」


男は肩をすくめると立ち上がった。


「それじゃ、俺はそろそろ行くよ。」


「あ、あの!お名前・・・教えて頂けますか?」


「名前?ああ、そうか。それじゃ、テオって呼んでくれ。」


「テオさん・・・ですか?テオさん、色々ありがとうございました。」


「ああ、それじゃあな。」


テオが去ると、入れ替わるようにマシューが店内に入って来た。


「また会ったね。ミス・ジェシカ。」


「こんにちは、マシュー。あの・・何故貴方が私の護衛に?」


「うん、生徒会長が声を掛けて来たんだよ。と言うか、彼ってかなり強引だよね?君を守れと聖剣士全員に頼んできたんだよ?」


クスクス笑いながら言うマシュー。


「え?ええっ?!そ、それ本当に?!」

な、なんて大胆な事を・・・!よりにもよってこの学院のエースを・・!


「それは皆当然断るよ。だって大切な役目があるからね。」

 

「それじゃ、何故マシューは引き受けてくれたの?」


「それは君と知り合いだからさ。それに俺が門を守る時は自分1人だからね。でも・・・。」


マシューは真剣な表情で私を見た。 


「俺はいつも君を護衛出来るわけじゃないんだ。だから・・・なるべく1人になるなよ?幸い周りには君のナイトになりたがっている男達が大勢いるようだしね。」


そしてマシューは私にウィンクをした―。











 




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