第10章 6 後1週間で・・・
「ド、ドミニク様・・・?」
戸惑いながら名前を呼ぶと、ますますきつく抱きしめてきた。
「ジェシカ・・・。やはり、俺のような人間は・・・誰にも愛されないのだろうか・・?この忌まわしい瞳が、人目を引く黒髪が・・・人々を怯えさせてしまうのか?」
震える声で言う公爵。
「そ・・・そんな事はありませんっ!ドミニク様のご両親が彼女を貴方から引き離したのは・・ドミニク様を思っての事です!貴方の事が心配だから・・愛しているから、ドミニク様を傷つける存在の彼女を追い払ったのです!私は・・・そう信じています。」
「本当に・・・そうなのだろうか・・?」
公爵は私から身体を離すと、縋るような目で私を見つめた。
「はい、少なくとも・・・私はそう思います。第一私は一度もドミニク様を怖いと思った事は無いと言いましたよね?その黒髪も、オッドアイの瞳も・・・とても神秘的で・・・素敵ですよ。」
私の言葉に公爵はピクリと反応して、じっと見つめて来た。
続けて私は語った。
「それに、ドミニク様に仕えているお屋敷の人達もドミニク様を心配しておりました。だから・・・大丈夫ですよ。」
私は微笑んだ。
「お前も・・・。」
「え?」
「お前も俺の事をそう、思ってくれているのだろうか・・?」
「ドミニク様・・・?」
「い、いや。何でもない。引き留めて悪かったな。王都に用事があったのだろう?」
公爵は私から視線をそらすと言った。
「いいえ、大丈夫です。それよりもドミニク様・・・。ひどくお疲れの様ですので、今日はもうお部屋でお休みになられた方が良いですよ。」
本当に真っ青な顔色をしている。今にも倒れてしまうのではないかと心配になってきてしまう程だ。
「あ、ああ・・。ありがとう。それじゃお前の言う通り、休むことにする。何所へ行くかは知らんが、気を付けて行けよ。」
公爵は少しだけ笑うと言った。
「はい、ありがとうございます。」
私は挨拶をすると、公爵に見送られて屋敷を後にした。
自転車を押しながらいつものリサイクルショップの帰り道・・・。
何気なく通ったカフェの前で私はチャールズとエリーゼがテーブルに向かい合わせに座り、何事か話をしている姿を目にした。
うん、うん。きっと2人は仲直りしたのだろう。良かった良かった・・・と思い、少しだけ遠目から様子を伺っていた。
すると突然エリーゼが立ち上がり目の前の水の入ったコップに手をかけると、バシャアッと向かい側に座っているチャールズに水をかけたではないか!
エリーゼは何やらヒステリックに喚いているようだし、チャールズはそれを必死になだめようとしている。
あ~あ・・・。相変わらずだなあ、あの2人は・・・。店の中の客の視線を一気に集めているじゃないの・・。
あ!エリーゼが店から出ようとしている。見つかったらまずい!
私は急いで自転車にまたがると、必死でこいで逃げるようにその場を後にした・・。
「ただいま戻りました。」
王都から戻ると父と母の話声が応接室から聞こえてきたので、私は挨拶の為に部屋を訪れた。
「まあ!ジェシカ・・・貴女ったら貴族令嬢のくせに、又そんな地味な洋服を着て・・・本当に一体どうしてしまったのかしら?」
母は溜息をつきながら私を見た。
「・・・そんなにおかしいでしょうか?」
私は自分の着ている服を見ながら言った。今着ている洋服は襟首がぴっちりしまったケープのついた薄紫色のワンピースである。私的にはすごく気に入ってるんだけどな・・・。
しかし、母は違ったようだ。
「いいですか?ジェシカ。貴女は公爵令嬢なのですよ?本来は王族の次に爵位が高い存在なのです。それなのにそんな庶民的な服ばかり着て・・・。」
母は溜息をつきながら言った。
「まあ、服の話は今はどうでもいい。それより大変だぞ、ジェシカ。いいか、落ち着いて良く聞くのだぞ?」
落ち着けと言いながら一番落ち着きが無さそうな父が言った。
「はい、私は落ち着いておりますので、どうぞお話を続けてください。
「あ、ああ。実はお前と以前見合いをして一度は婚約までして破棄したチャールズが何ともう一度婚約を申し込んできたのだ。しかも今すぐにでも結婚をしたいと訴えに来たのだぞ?!」
「え?えええっ?!ちょっと待って下さい!その話は本当ですか?」
「ああ、つい先ほど親子でこちらへやって来たのだ。さて・・・どうする・ジェシカよ。」
どうもこうも・・・まさかチャールズが直接我が家へ結婚の申し込みをしにやって来るとは考えてもいなかった。
私が断ったから今度は父と母に訴えに来たと言う訳か—。全く余計な真似を・・・。
こんな事をして私がこの話を受けるとでも思っているのだろうか?
ああ・・・それで先程カフェでエリーゼと喧嘩していたのだな?挙句に水までかけられて・・・。
「お父様・・・その話はお断りして下さい。」
「うむ・・やはり・・・そう言うと思っておった。」
「え?お父様?」
「考えても見ろ。一度は婚約までしたのに理由も言わずに一方的に婚約を破棄して別の女性と婚約したくせに、今度はその令嬢との婚約を破棄して、もう一度お前と婚約したいと言う男など・・・そんな不誠実な男に大切な娘を嫁に出すことなどする訳がなかろう?」
「お父様・・・。」
「二度とこの土地に足を踏み入れるなと言っておいたわっ!」
そして豪快に笑った。
「そうよね。ジェシカにあんな男は似合わないわ。何せ私に似てこんなに美人だし、ましてや2人の王子から求婚までされたんですから・・・。あんな男性はジェシカには不釣り合いです。」
母もピシャリと言う。
「あ・・はは・・。そうですね。」
「ところで、ジェシカ。話は変わるのだが・・・どうもアリオスとマリウスの領地の滞在がもう暫く長引くそうなのだ。それで新学期なのだが・・・本来はマリウスと2人でセント・レイズ学院に戻って貰おうかと思っていたのだが、どうやらそれが難しそうになって来た。すまないがジェシカ・・・1人で学院へ戻って貰えるか?荷物は先に全てこちらから向こうの学院へ送るように手配はしておくので。」
父の話に私は多少なりとも驚いていた。
未だに領地から戻って来れないなんて・・・何か2人の身に良く無い事でも起こったのだろうか?
「あの・・・・お父様。アリオスさんやマリウスは大丈夫なのでしょうか?向こうで何かあったのでは・・・?」
「いや?そういった話では無いようだ。ただビックニュースがあるそうだぞ?それが何かは私も聞いてはいないが・・・今から楽しみだ。」
父は嬉しそうに言う。
「そうね・・・。私も今から楽しみだわ。アリオスはいつも私達を突然驚かすのが得意な人だから。」
ホホホ・・・と母は笑いながら言うが、私はそれを聞いて乾いた笑いしか出なかった。
ねえ・・アリオスさん。仮にも主を突然驚かすなんて失礼な事をして大丈夫なのでしょうか?
流石はマリウスの父・・・中々恐ろしい一面を持っているなあ・・・。
それにしてもビッグニュースって何の事だろう?まあいい、しかしセント・レイズ学院へ1人で戻る事になるとは思いもしなかった。
ここへ戻ってきた時はいきなりのマリウスの転移魔法で彼は大変な目に遭ってしまったけど・・・今回はゆっくり1人で飛行船に乗って向かう事になるのか。
でも色々頭の中で整理したい事があったから、丁度良かったかもしれない。
いよいよ・・・後1週間で学院が始まる―。
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