第9章 8 頼りになる人
ナターシャがノア先輩の子供を妊娠・・・一体彼女は何処の教会に今いるのだろうか?出来れば会って話をしてみたい。もしかして・・・ナターシャならノア先輩の記憶が残っているかもしれない。しかし、もし記憶が消えていたとすると・・・こんなに気の毒な事は無いだろう。自分に全く身に覚えが無い妊娠をしてしまったのだとすると・・今のナターシャの心境を考えると、哀れに思えて仕方が無かった。
もし・・もし、ノア先輩が今この世界にいたとして、ナターシャが自分の子供を身籠っている事を知ったら、どうするのだろう・・・・。
その時、部屋のドアがノックされた。
「ハルカ、ボクだけど・・・入ってもいい?」
アンジュの声だ。
「うん、鍵はかかっていないから中へどうぞ。」
カチャリとドアノブを回す音と共に、アンジュが部屋の中へ入って来た。
頭には大きな青いリボンが付けられ、襟元がキュッと絞られた青いストライプのフリルたっぷりのロング丈のワンピースを着た彼女はまるでフランス人形のように可憐な姿であった。
「キャ~ッ!な、なんて・・・可愛いの・・・!」
私は感動のあまり、アンジュをギュウウウッと抱きしめてしまった。
「ハ、ハルカッ!お、落ち着いてってばっ!」
私の腕の中でもがくアンジュ。はっ!いけない、興奮してつい・・・。
「アハハハ・・・・ご、ごめんね。あまりにもアンジュが可愛い姿でつい・・。」
アンジュから離れると照れ笑いをした。
「うううん、まあ別にいいけどさ・・・・。まさかハルカの家でこんな格好をさせられるとは思いもしなかったなあ。」
「どうして?すごくよく似合ってるのに?」
「そう?・・・・ボクに似合ってる・・・の?」
ここでも何故か躊躇う様子を見せるアンジュ。どうしたのだろう?女の子なら誰でもこういう格好に憧れるはずだと思っていたけど・・・?
「ところでハルカ。今何をしていたの?」
「うん。学院の皆から手紙が届いてそれを読んでいた所。」
「へえ・・・すごく沢山お手紙来ているね。こっちの手紙は読まないの?」
アンジュは未開封の手紙の束を指さして言った。
「うん、後で読むことにするよ。それより今はアンジュとのお話の方が大事だものね。」
私はアンジュを自室のソファに座らせると自分も向かい側に座った。
「ねえ、アンジュは魔法使いのような恰好をしていたけど魔法については詳しいの?」
「魔法・・・?うん、そうだね。魔法の事は詳しい方かな?」
「アンジュは言ってたよね。魔界では人間かで通用する魔法が一切使えなくなるって・・・。私は元々魔法なんてものは使えないけど、それはマジックアイテムについても同じことが言えるのかなあ?」
私は頬杖を付きながらアンジュに尋ねた。
「マジックアイテム?何の為に使うの?」
「う~んと・・・。つまり、魔界へ無事に行けたとして・・魔族たちに見つからずに連れされれた人を助け出せることが出来るようなマジックアイテムが無いかと思って・・・。」
しかし、私の期待とは裏腹にアンジュはバサッと切り捨てるように言った。
「人間界にあるマジックアイテムで魔界で使用できるものなんてある訳ないでしょ。」
あ、やっぱりね・・・。
「そ、それじゃあもう無事にその人を見つけ出せたとしても・・・逃げ切れる事は難しいって事なのかな・・。」
私は溜息をつきながら言うと、アンジュは私をじっと見つめながら尋ねた。
「そう言えば・・・ハルカはまだ一度もボクにどうして魔界へ行かなくてはならない羽目になったのか教えてくれた事は無かったよね?どうしてなの?」
「実はね・・・。」
私はついに今迄の事を全て説明する事にした。
ある日、突然目を覚ましたら海賊に連れされれた事、助けに来た仲間達の目の前で毒の矢を受けてしまった事、そして私を助けるために魔界から花を摘んで貰ったけれども、それを管理している魔族の女に見つかり、花と引き換えに自分の身を差し出した男性が居た事・・・。
「私は彼を何としてでも魔界から助け出したい。誰かを犠牲にしてまで自分だけが平和に生きていくわけには・・いかないから。」
そう、あの夢の通りなら私は確実にノア先輩を助け出して戻って来れる。でもその後待っているのは・・流刑島への島流しの刑・・。
アンジュは黙って私の話を聞いていたけれども、やがて言った。
「分かったよ、ボクもハルカの為に何か良い方法が無いか探してみるね。大丈夫、きっと何とかなるよ。」
「ありがとう、アンジュ・・・。」
何だろう、不思議な感じだ。アンジュは私よりも年下なのに時々すごく頼りがいのある大人に見える時がある。
「だって、ハルカはこんなにもボクに良くしてくれるんだもの。恩返し、しなくちゃね?」
そう言ってアンジュは笑った・・・。
その日の夜、仕事から帰って来た父とアダムはアンジュを見て、かなり驚いた様子ではあったが、アンジュの博識の凄さにすっかり感動したのか、夕食に席でかなり盛り上がり、その後もリビングで夜が更けるまで3人は盛り上がった様だった。
私は届いた手紙を読まなければならないと思い、先に退出して自室へ戻り生徒会長の手紙を除いた男性陣全ての手紙に目を通した。
手紙の内容は誰もが殆ど同じ内容であった。
早く年が明けて新学期になって欲しい。私に早く会いたいと言った内容ばかりであった。けれどもグレイやルークに関してはアラン王子についての問い合わせだろうと思っていたのに、彼等の手紙でさえ他の皆と変わらない内容だったのには呆れてしまった。
う~ん・・・ひょっとするとアラン王子は周囲の人間からどうでもよい存在と思われてしまっているのでは・・・?流石に心配になってしまった。
あれでも一応、アラン王子はこの小説の主人公だ。来学期からは聖騎士に抜擢される予定になっている。(あくまで私の小説の中の設定では)
しかし、最近のアラン王子は何と言うか・・・クールなキャラが段々崩壊してきている。やはりここは王道の小説の中のヒーローらしく振舞って貰わなくては。
よし、今度アラン王子に会う事があれば、すぐに国へ戻るように言う事にしよう。
最期に私はダニエル先輩の手紙を読んでみる事にした。
私のお見舞いに来てくれた時、先輩は言っていた。
あの日以来、何だか胸の中で何かが欠けてしまったかのような感覚を感じているんだ・・と。今もそう感じているのだろうか?
けれどもダニエル先輩の手紙にはそのような内容は一切書かれていなかった。
冬休みはこういうふうに過ごしているだとか、1学期の学院での思い出・・・2学期に私に会えるのを楽しみにしていると言った当たり障りのない内容の手紙だった。
ひょっとするとダニエル先輩は完全にノア先輩がいたという記憶の断片すら無くしてしまったのだろうか・・・?
溜息をついてダニエル先輩の手紙を封筒にしまう。そして私は最後に残った生徒会長からの手紙を・・・・読まずに引き出しにしまった。
どうせ暴君生徒会長の事だ。ろくでも無い事が書いてあるに決まっている。
それにしても、後半月で学院が始まってしまう。その前に何とか魔界への行き方とノア先輩を救出する方法を考えなければならない。そして・・他にも私にはやるべき事がある。
リッジウェイ家から私の戸籍を抜いてもら事。本当なら今すぐ抜いてしまいたいところだが、それをしてしまえば学院に戻る事も出来なくなってしまう。
書類だけ作って置いて、タイミングを見計らって戸籍を抜くしかない。でもそんな方法があるのだろうか?
「誰か信用出来る人にお願いするしかないかな・・・・。」
ポツリと呟くと、私は腕組みをして天井を見上げるのだった—。
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