第9章 2 王立図書館の美少女
何?この状況。
私は今王室のサンルームの丸テーブルを前に椅子に座らされている。
そしてアラン王子とフリッツ王太子もニコニコしながら椅子に座っている。
「あの〜。」
「「何だ?」」
2人が同時に身を乗り出して返事をする。
「で、ではアラン王子・・・。」
「うん、うん。何でも聞いてくれ?」
満面の笑みを浮かべるアラン王子。それにしてもアラン王子って、こんなキャラだったっけ・・・?最初に出会った頃はもっとクールなタイプだったのに・・・段々キャラ崩壊している気がするなあ。
「まだ、この国にいらしたんですね。いつまで滞在されるかは存じませんが、そんなに国をあけていて大丈夫なのですか?」
「ジェ、ジェシカ・・・お前、そんなに俺に国に帰って欲しいのか?」
あ、何だかアラン王子の目が涙目になってるよ。参ったなあ・・・。
「い、いえ。あの、ほら。グレイやルークも心配してるんじゃ無いですか?」
「あの2人の名前は口にするな。」
何故か不機嫌になる。
「何故ですか?」
「お前の口からあの2人の名前は聞きたくないからだ。」
「えええっ?!そんなあ・・・。」
無茶苦茶だ、何と横暴な。
それを黙って聞いていたフリッツ王太子がクスクス笑いながら言った。
「全く・・・お前がそこまで嫉妬深い男だとは思いもしなかったぞ。」
「う、煩い!大体、俺はお前にジェシカには手を出すなとあれ程言っておいたのに・・!」
すると私を舐めるような視線で見るフリッツ王太子。
「別にまだ手は出したつもりは無いがな?」
何故か含みを持たせた言い方をする。
ゾワリ。
背筋に悪寒が走る。何だかすごく嫌な予感がする・・・。
「そ、それではフリッツ王太子にお尋ねします。何故私はこちらに呼ばれているのでしょうか?私はこちらの王立図書館に閲覧に来たのですが・・・。」
「将来の俺の后がわざわざこの城に来てくれたのだぞ?手厚くもてなしたいと思うのは当然の事だ。」
え?今のは聞き間違いだろうか?
「おいっ!誰がお前の后になるだと?!言っておくが、ジェシカと結婚するのはこの俺だっ!もう既にリッジウェイ家に親書も出してあるのだ。」
「はいいっ?!な、何言ってるんですか?アラン王子!第一私はプロポーズすらされていませんけど?」
するとこちら振り向くアラン王子。その頬は少し赤く染まっている。
「そうか、お前は俺から直接言葉が欲しかったのか。気が利かなくて済まなかった。」
はい?何を言い出すのだろう。この俺様王子は。
アラン王子は私の前に跪き、右手を取ると言った。
「ジェシカ、俺は誰よりもお前を愛している。・・・一生大切にする。どうか俺と結婚してくれ。」
「おいっ!勝手な事を言うなっ!」
フリッツ王太子はその脇で抗議する。
「い、いい加減にして下さいっ!私は今から図書館に閲覧に行きたいのです。そんなどうでも良い話で私をわざわざここに呼んだのですか?!」
取られた右手を振り払うと私は言った。
ハッ!い、いけない・・・思わず本音が飛び出してしまった。
「「どうでも良い話・・・。」」
2人の王子は明らかにショックを受けているようだった。
特にアラン王子は私へのプロポーズを断られたショックのせいか、背もたれに寄りかかり、呆けたように天井を見つめている。
だが今の私には彼等に構っている暇など無い。
「それでフリッツ王太子。私に閲覧許可は出して頂けるのでしょうか?」
私はフリッツ王太子を見ると尋ねた。
「あ、ああ。それは勿論大丈夫だが・・・。」
「ありがとうございます。それではお二人共、失礼致します。」
私は頭を下げると2人をサンルームに残し、図書館へと向かった。
「魔界についての記述の書籍ですか?それならYの棚に保管してあります。」
図書館司書の女性に尋ねると、彼女は恐らく探しきれないだろうからと言って私を案内してくれた。
高さ7階建てにもなる図書館はとても巨大で、目当ての書籍は4階にあった。
「こちらになります。」
「ええっ?!こ、このフロア全てですか?!」
私は仰天してしまった。何万冊あるか検討もつかない本の中から、魔界の門を開ける為の鍵の在り処を掴むなんて・・・。
こんな事なら自分で書いた小説の世界で、魔界の門を開く鍵は聖騎士達によって破壊されているなんて設定にしなければ良かった。
「はああ・・・。私は馬鹿だったわ・・。」
思わず本棚に手を付き、頭を擦り付けていると、声をかけられた。
「ねえ、そこの貴女。何の本を探しているの?」
頭を上げて、声のする方向を振り向くと、まだ幼さの残る少女が机に向かって座っていた。ウィル位の年齢かな・・・?
彼女は三角帽子を被り、ローブ姿である。その姿はまるでゲームの世界に出てくる魔法使いのような姿だ。そして極めつけは・・。物凄い美少女である事だった。白銀の髪は肩先で切り揃えられ、切れ長の赤い瞳は宝石のように輝いている。
私は彼女の美しさに一瞬息を飲んでしまった。
「あ、あの・・・ちょっと魔界について詳しく記述されている本を探していて・・・。」
「うん、それならここのフロアに置いてある本全てだよ。」
「それは分かってるんだけど、こんなにたくさん本があると、どれを読めばいいか分からなくて・・・。」
私は頭を抱えて言った。
「ふ~ん・・どんなジャンルの本を探しているの?」
うっ!言いにくい事を突っ込まれてしまった・・・。でも全く知らない相手だし、まだ子供だから話してみてもいいかな・・・?
「実は・・・魔界とはどんなところか・・・詳しく書かれている本なんだけど・・・。」
私は目を伏せながら言った。これは流石に相手に引かれてしまうだろうな・・・・。
しかし、彼女からは意外な台詞が返って来た。
「それなら、向こうの棚の本がいいと思うよ。ここにある本は全部作り物や子供向けの絵本ばかりだから。」
その美少女は私の前方にある書棚を指さした。
「ええ?!ま、まさかこのフロアの本・・・全て内容を知ってるの?!」
すぐに答えられた彼女にすっかり驚いてしまった。
「うん、まあね。8割ほどは読んだかな?時間はたっぷりあるし、毎日ここに通っていたから。」
「本当?どうもありがとう!」
私は咄嗟に彼女の手を取ると、お礼の握手をしてすぐに教えて貰った書棚に向かった。
手始めに1冊の本を取り出してみる。
「・・・・・。」
物凄い分厚い本だ。パラパラとめくってみると半分以上は魔界についての歴史?的な事ばかりが記述されており、とても私の知りたい情報が載っているとは思えなかった。
溜息をついて本を戻すと、隣の本に手を伸ばした。その本は魔界に住む魔族達について記述されていた。
魔族には異形の姿を持つ者や、人間とさほど変わらない外見をしている魔族など多種多様な種族がひしめき合っている・・・・。
ううう・・・。こんな情報ばかり知っても意味が無い。何と言っても私が知りたいのは魔界へ行く方法。そして無事にノア先輩を探し出し、人間界へ連れて帰る方法を知りたいのだから。
「これも駄目かな・・・。」
首を振って本を書棚に戻し、次の本に手を伸ばす。
今度の本は魔界と人間界の魔法について。この本によると魔界は人間界とは全く違うエネルギーに満ちているので、人間が魔界では魔法の力を使う事が一切出来ないと書かれている。しかし、魔族は力が半減こそしても、人間界でも魔法を使う事が出来る。その為、過去の長い歴史の中で魔族は人間界に度々襲撃をかけてきたという。
「ちょっと待ってよ・・・。私、小説の中でこんな設定していないけど・・?」
思わず言葉に出して言うと、背後から再び声をかけられた。
「へえ~何だか随分意味深な言葉だね。」
「え?!」
慌てて振り向くと、いつの間にか先程の美少女が私の後ろに立っていた。
「ねえ、お姉さん。本当はどんな本を探しているの?正直に教えてくれる?」
そして彼女はニコリとほほ笑んだ―。
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