第7章 3 突然のプロポーズ

 ドミニク公爵との見合い?が済んで、サンルームへ出た時に、ミアが慌てて私に向かって駆けてくる姿が見えた。


「ああ!ジェシカお嬢様っ!お見合いが終わったのですね?!」


「うん・・・まあ、お見合いと言うか?顔合わせ?らしきものは一応終わったけど・・・。」


「それは丁度良かったですっ!お願いします!ジェシカお嬢様を尋ねていらしたアラン王子と名乗る方が・・・キャアッ!」


 その時、突然マリウスとアラン王子が目の前に現れた。どうやら転移魔法を使ってこの部屋へとやってきたらしいが、心臓に悪い事この上ない。

おまけにアラン王子は興奮しまくっている。


「ジェシカッ!!」


「キャアッ!な、何ですか?アラン王子?」


突然ガシイッと私の両肩を掴むと言った。


「マリウスに聞いたのだが、お前今日は見合いだったって言うのは本当なのか?!」


くっ・・・!マリウスめ・・・。何故アラン王子に余計な話を・・・。私はマリウスを恨めしそうに見たが、肝心のマリウスは知らんぷりをして視線を合わそうとしない。


「どうなのだ?!早く答えろっ!」


アラン王子は興奮のあまり、私をガクガク揺さぶる。目、目が回る・・・。


「そ、そうですっ!たった今お見合いというか、顔合わせを済ませた所ですっ!は、離してください。目が回りますからっ!」


私が叫ぶとようやくアラン王子は私を離したが、興奮収まらぬのか、荒い息を吐いている。


「どういう事だ?!何故俺に黙って見合いなどした!」


アラン王子は突然意味の分からないことを言い出した。


「はい?何故お見合いするのにアラン王子に報告をする義務があるのですか?と言うか、そもそも昨夜突然父からお見合いをするように言われたのです。私の意思でお見合いをしたわけではありませんよ?」


「見合いをするのに俺に報告する義務は無い・・・だと?」


アラン王子は私の言葉に相当ショックを受けたのか、大きくよろめくとカウチソファに、ドサリと座り込み、まるで魂が抜けてしまったかのようになり果ててしまった。


私はマリウスをキッと睨み付けると言った。

「マリウスッ!どうしてアラン王子に私がお見合いした事を話したりしたの!と言うか、それよりも何故アラン王子からの手紙を私に渡さなかったのよ?!」


「そんなのは簡単な事です。アラン王子の手紙をお嬢様に渡したくは無かったからですよ。」


「はあ?」

私が呆れた声を出すと、アラン王子も反応した。


「おいっ!マリウスッ!お前だったのか?ジェシカに送った手紙を勝手に盗んでいたのは?!」


「嫌ですねえ。盗むなどとは人聞きの悪い・・・ただお預かりしていただけですよ。何せお嬢様は昨日まで体調を崩されてお休みされていたのですから。」


「何?!それは本当の話か、ジェシカ?」


アラン王子は私に向き直るとじっと見つめた。


「確かに・・・良く見ればジェシカ・・。随分やつれてしまったじゃないか。大丈夫だったのか?」


アラン王子が私の両頬に手を添えると、マリウスがその手をはたき落す。


「馴れ馴れしくお嬢様に触れないで頂けますか?アラン王子。」


「マリウスッ!貴様・・・ッ!」


激しい睨みあいをする2人。


 その時、突然廊下がバタバタと騒がしくなり、サンルームへ飛び込んできた人物達がいた。

現れたのは父、母、それにメイドのミアだった。

どうやらいつの間にかミアが彼等を連れて来たようだ。


「ジェ、ジェシカッ!」


父が私を呼ぶと、何故か素早くアラン王子が父の前に立つと言った。


「初めまして。俺はトレント王国の王太子、アラン・ゴールドリックと申します。この度はジェシカ嬢に大切なお話があり、この城へ参りました。」


「ええ、ええ。先程貴方の父であらせられます国王陛下から直々に親書を頂きました。その内容に大変驚いております。」


父は汗を拭きながら言った。え?その内容とは?一体何が書かれていたのよ?!


「本当に、まさか王太子様自らが私達のジェシカを・・・!」


母もかなり興奮しまくっている。何だか非常に嫌な予感がする・・・っ!

マリウスも何かを感じたのだろう。眉を潜めて難しい顔をしている。

一方のアラン王子はご機嫌だ。


「そうか、なら早速・・・。」


アラン王子が言いかけた時、そこへアリオスさんが飛び込んできた。


「お取込み中の所、失礼致します。フリッツ王太子からたった今連絡が入り、ジェシカお嬢様を城へ連れてくるようにとの事です。もう迎えの車が到着しております。」


「な、何だって?!フリッツが?一体ジェシカに何の用事があるというのだ?!」


アラン王子は焦っているし、マリウスはイライラしながら爪を噛んでいる。

一方の両親は慌てふためいて右往左往している。


「一体、何なのよ・・。」

訳が全く分からない私はポツリと呟くのだった・・・・。




「フリッツ王太子様からの御達しではジェシカお嬢様を御1人で城へ寄こすようにとの事でした。」


「何だって?!一体どういう事なんだ?俺はフリッツから何も聞かされていないぞ!第一俺は今フリッツの城に、滞在中の身だ!その俺を差し置いてジェシカだけ寄こせとは納得いくはず無いだろう?!」


アリオスさんの言葉に、アラン王子は納得がいかないのか喚いた。


「しかし、そのように駄々を捏ねられても・・・先方からそのように仰られましたので・・・。」


アリオスさんの言葉にアラン王子は益々激怒した。


「なっ・・・!駄々を捏ねるだと?!俺がいつそのような真似をしたっ!」


う~ん・・・流石はアリオスさん。やはりマリウスのお父さんなんだと改めて感じさせられた。言い方に何となく毒を感じるものなあ・・・。

 

「何をしているのですか、ジェシカッ!もう着替えはいいので、すぐに迎えの車に乗りなさいッ!」


私は母に背中をおされるように車の所まで連れて行かれた。


「お嬢様ッ!」


「ジェシカッ!」


マリウスとアラン王子が同時に私の名前を呼んだが、私にはどうする事も出来なかった・・・。


「ジェシカ・リッジウェイ様でいらっしゃいますね?」


城の前に待機していた運転手は恭しく私に挨拶をした。

「は、はい。私がジェシカですが。」


「フリッツ王太子様がお待ちです。どうぞお車にお乗り下さい。」


ドアを開けられ、私は車に乗り込むとドアが閉められ、車は出発した。

城の入口では恨めしそうな目でこちらを睨んでいるマリウスとアラン王子。

そして両親が心配そうにこちらを見つめていた。


 はあ・・・。勘弁してよ・・・。私は溜息をついた。

一体フリッツ王太子が何故私を呼んだのかさっぱり理解出来ない。大体私とフリッツ王太子は一度も会った事が無く、面識が無い。そんな私をどうして・・・?

ひょっとするとこの間フリッツ王太子が主催したダンスパーティーに参加した令嬢達が全員呼ばれたのだろうか?そう言えば、確かあのパーティーはフリッツ王太子の花嫁選びが目的だと言っていたし・・・。


 それにしても今頃リッジウェイ家では大騒ぎになっているのではないかと思うと憂鬱で堪らなかった・・・。よりにもよってあの場にアラン王子が居合わせたと言うのは最悪のタイミングだと言える。



「こちらでお待ち下さい。」


 私が城に着くと、黒の燕尾服を着た男性が部屋へと案内した。てっきり私はこの間パーティへ招待された令嬢達全員が集められるのかと思っていたのに、どうやら呼び出されたのは私1人きりのようだった。

広さが30畳ほどの部屋・・・ここは執務室だろうか?

まるで家具自体が立派な芸術作品のような美しい作りに思わず目を奪われ、キョロキョロしていると、奥の扉がカチャリと開けられ、1人の若い男性が部屋の中へと入って来て、私に話しかけて来た。



「やっと再会出来たな。ジェシカ・リッジウェイ。」


「え・・・あ、貴方は・・・?」

私の前に現れたのは、青い髪にオレンジ色の瞳の男性・・・私がダンスパーティーの夜に出会った青年だった。戸惑っている私に青年は語りかけて来た。


「そう言えば、自己紹介をしていなかったな。俺の名前はフリッツ・アイオーン。ヨルギア大陸、リマ王国の第一王位継承者だ。よろしく、ジェシカ?」


「こ、これは・・・ま、まさかフリッツ王太子様だとは知らず、とんだ失態を・・・っ!」

私はさっと頭を下げた。ああ!思い出すだけで恥ずかしい。いくら知らなかったとは言え、仮にも王子様の前で、ドレスをたくし上げて塀を乗り越えたり、ハイヒールを脱ぎ棄てて飛び降りたり・・・。

まさか、王太子の目の前で無礼な態度を取った為に不敬罪に問われて、呼び出されてしまったのだろうか・・・?!


 しかし、フリッツ王太子はクスクス笑うと言った。


「いや、あの日の夜程楽しかった事は今まで一度も無かった。本当にお前のお陰で刺激的な夜を過ごす事が出来た。」


そしてフリッツ王太子は急に真面目な顔になると言った。


「俺があのパーティーを開催したのは何故か知っているだろう?」


「ええ・・・。結婚相手を探す為だと伺っておりますが・・・?」

最も私は家の名誉を守る為だけに参加したんだけどね。


 すると、突然フリッツ王太子は私に歩み寄ると、右手を取って私に跪いた。

え?えええっ?!い、一体何?!


フリッツ王太子は私を見上げると言った。


「ジェシカ・リッジウェイ。俺は貴女が気に入った。貴女さえよければ、どうか私と結婚して頂けないだろうか?」


そしてフリッツ王太子は私の手の甲に口付けしてきた―。









 








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