第6章 8 ジェシカの元婚約者?登場
令嬢3人が去った後、私はブラブラ町を散策する事にした。
美味しそうなケーキ屋さんを覗いたり、雑貨屋さんに入ったり・・・。
そして一際大きな本屋さんを見つけた。
ここならアカシックレコードに関する本を見つけられるかな・・・?
私は中へ入ると、本を探し始めた。
・・・う〜ん、無いなあ・・・。
やっぱり特殊な本だから、中々書店では取り扱いしていないのかな?
私はアカシックレコードの本探しは諦めて、何冊かロマンス小説を手に取り、パラパラと試し読みしてみた。うん、この小説なんか面白そう。
早速カウンターに行って2冊の本を購入すると、私はアダムが働いているビル迄戻ってきた。
何処かにカフェが無いかな・・・。辺りを探すと、カフェが目に止まった。よし、あの店に入ろうかな?
店に入ると、上品な音楽が流れていて中々雰囲気のある店内だった。
私は窓際の席に座ると、コーヒーを注文し、読書にふけった。どれくらい時間が経過しただろうか。私の向かい側に誰か座る気配を感じた・・・が、私は顔を上げる事も無く読書を続けていると、ゴホンと何故か咳払いが聞こえた。
「?」
顔を上げると、私のテーブルの向かい側に見知らぬ男性が1人座っている。そして何故かその男性は私の顔をじっと見つめていた。
もしかすると、このカフェは混んでいるのかな?
辺りをキョロキョロ見渡してみると、うん。確かにほとんどの席が埋まっている。
そうか、だから相席になったのか。なら気にせずに読書を続けよう。
そして私は再び本に目を落した。
「ゴホン」
するともう一度男性は咳ばらいをする。変な人だな・・・うん、知らんふりしておこう。
その時だ。
「おい、お前・・・ジェシカ・リッジウェイじゃないのか?」
突然男性が声をかけてきた。
「え?」
突然名前を呼ばれて私は驚いて顔を上げた。
灰色の髪に、黒い瞳の男性は何故か私を睨み付けるように見ている。ひょっとして・・、また以前のジェシカの関係者なのだろうか?
「うん・・・?何かお前、顔つきもそうだが、随分雰囲気が変わったな・・?着ている服も今までとは何だか違うし・・本当にジェシカ・リッジウェイなのか?」
男性はマジマジと私を見つめながら言った。
その一言で分かった。ああ、やっぱりね・・・。以前のジェシカの知り合いか・・。
「はい・・ジェシカ・リッジウェイですけど?」
「な・何だ?やっぱりそうだったんだな?俺を覚えているだろう?まあ、残念だったな。お前の婚約者候補から俺が外れて・・・。」
目の前の男性は何故かニヤニヤしながら言った。
ふ~ん・・・そうか、この男性は私の婚約者候補だったんだ・・・えええっ?!婚約者候補?!
私は驚き、改めて目の前の男性をまじまじと見つめた。それを何を勘違いしたのか男性は言った。
「何だ?今になって俺の事が惜しくなったのか?でも生憎だったな。俺は幾ら美人でもお前のような悪女はお断りだからな。お前が以前虐めていた心優しい令嬢と親しくなって、彼女と婚約する事になったんだ。」
名前も知らない男性はぺらぺらと勝手に喋っている。要約すると、つまりこの男性の話では私はある貴族令嬢を虐めていたのだが、それを見かねたこの男性がその令嬢を庇い、その事がきっかけで2人は急速に親しくなっていき・・・晴れて婚約をする事になったと言う訳か。つまり・・・ジェシカは2人のキューピッドになったんじゃないの?
「それはおめでとうございます。どうぞ彼女とお幸せになって下さいね。」
私はにっこり微笑むと言った。
「!」
何故かその男性は身体を強張らせて私を見る。やっぱり日頃のジェシカの行動から、今の私の態度が信用出来ないのだろう。そこで私は続けた。
「では、その御令嬢に伝えておいて頂けますか?今まで貴女を虐めてしまい、申し訳ございませんでしたと。」
私は深々と頭を下げた。
男性は少しの間呆気に取られていたようだった。
「ところで、式はいつ頃挙げられるのですか?今までの非礼のお詫びも兼ねてお2人に結婚祝いのプレゼントを送らせて頂きたいと思いますので。」
「・・・おい、ジェシカ。」
男性は私を睨み付けるように言った。
「はい。」
「お前・・・・今度は一体何を企んでいるんだ?」
「企む・・・?」
うん?この男性は一体何を言い出すのだろう?
「そうか、あれだろう?お前、他にも何人かの婚約者候補に断られたから、焦りを感じて、俺の心を取り戻そうと演技しているんだろう?」
男性は私を指さしながら言った。・・・人の事を指さしては失礼に当たる事を知らない訳じゃあるまいし。それにどうもこの男性は自意識過剰のようだ。こういう男性は正直苦手なタイプである。
「いえ、別に演技をしているつもりはありませんよ?それに・・・実は今まで黙っておりましたが、私はセント・レイズ学院に入学直後、事故に遭って記憶喪失になってしまったので、正直言いますと・・・貴方のお名前も分からないですし、私が虐めた令嬢の記憶も全く無いのです。それに性格も変わったと家族や下僕にも言われました。」
まさか、別の世界からやって来た人間だとは言う訳にいかないしね・・。
「お、おい・・待てよ、今の話は本当なのか?!じゃあ、さっきから取っているその態度も・・演技じゃ無いと・・・。」
男性は何故か顔面が蒼白になっている。
「はい、演技ではありません。でも記憶が無いとは言え、私は貴方にも、令嬢にも酷い事をしていたようですね・・。本当に申し訳ございませんでした。」
「おい、ジェシカ・・・。お前・・・。」
男性の声は何故か震えている。
「はい?何でしょう?」
私は愛想笑いをした。まだこの人は私に用事があるのだろうか?もうそろそろ私を解放してくれないかな~。読書の続きも読みたいし、何よりアダムとの待ち合わせが近いんじゃないかな?私はチラリと店の壁にかけてある時計を見ると、もう12時になろうとしている。そろそろ行かなくては・・。
ガタンと私は椅子から立ち上がった。
「おい?どうしたんだ、ジェシカ?」
男性は焦ったように私に声をかける。
そこで私は目の前の男性に言った。
「あの、すみません・・・。そろそろよろしいでしょうか?人と待ち合わせをしておりますので。」
「え?お前・・・誰かと約束があったのか?誰だ?トビーか?それともあいつ・・・ルーカスか?!」
何やら聞いたことも無い男性の名前が飛び出してくるが、私にはさっぱり何の事だか分からない。
「いえ、すみません・・・。今の方達のお名前も覚えていないのですが・・・。」
はあ・・・勘弁してよ、もう。
「それでは失礼します。」
今度こそ本当に行かなくては。
私はにっこり微笑むと、名前も聞いていない男性を1人残してカフェを後にした。
「はあ・・・。全く何だったんだろう、今の男性は・・・。アダムに聞いてみれば何か分かるかな?」
よし、2人で一緒にお昼を食べる時、先程の話を尋ねてみよう。
そして私はアダムの働いているオフィスへと向かった。
コンコン。
アダムに教えて貰った部屋のドアをノックすると、すぐにドアが開けられた。
「ああ、ジェシカ。時間ピッタリだったね。それじゃ食事に行こうか?」
「あの・・・一緒に働いている方はいないのですか?」
「そうか。ジェシカは知らなかったね。このオフィスは私が1人で仕事をしているんだよ。もう少し事業が拡大したら何人か人を雇うつもりなんだけどね。」
アダムは少し照れたように言った。
おおっ!アダムはなんて凄い人なのだろう!公爵家の人間でありながら、その身分に甘んじる事も無く、王都で事務所を抱える起業家なんて・・・!おまけにイケメンとくれば世の女性達もきっと放って置かないはずだ・・・・。
アダムが連れて来てくれたお店は肉料理がメインの上品な店だった。
「ジェシカは肉料理が好きだろう?何でも好きなメニューを選ぶといい。」
「ありがとうございます。お兄様。」
そこで私はビーフシチューとパンのセットを注文した。兄のアダムは角切りステーキのランチセットを注文し、二人で上品な味わいのお肉料理に舌鼓を打った。
食後のコーヒーを飲みながら、私は先程カフェでの出来事を話すとアダムの表情が曇った。
「そうか・・・あの男・・チャールズに会ったのか。」
「え?チャールズっていう名前なんですか?」
知らなかった・・・。最も私も名前すら尋ねなかったけどね。
「ああ、一応ジェシカの婚約者候補だったんだよ。でも・・チャールズが心変わりをして、断りを入れてきたんだ。他にも何人か婚約者候補がお前にはいたんだけどね・・。」
ははあん。つまり、ジェシカが余りにも悪女だから相手から一方的に断られてきたっていう訳ね。ほんと、どれだけ嫌な女だったんだろう。
「大丈夫ですよ、お兄様。それは記憶を失う前の私の話ですよね?今の私には婚約者とか、結婚という話には全く興味が無いので、気にもしていませんから。」
そう。今の私の目標は将来的にやがて訪れる破滅への道を回避する為、誰も知らない場所へ逃げて、自立した生活を送る事なのだから—。
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