アラン・ゴールドリック ⑤
16
「父上っ!」
俺は父の書斎へ向かうとノックをし、返事を待たずに部屋へと入った。しかし、父の姿は何処にもない。
一体何処へ消えたというのだ?この緊急事態に・・・。
慌てて城中を探し回った。そしてようやく見つけた場所が騎士達の訓練場だった。
「どうした、アラン。そんなに慌てて。」
父は剣を振るいながら俺に尋ねて来た。
「どうもこうもありませんっ!父上、今すぐ学院に戻る許可を与えて下さいっ!」
俺の只ならぬ様子に流石におかしいと思ったのか父は真剣な表情になると言った。
「落ち着け、アラン。何があったのか詳しく話すのだ。」
「何と・・・お前の想い人のジェシカ・リッジウェイ嬢がセント・レイズシティで誘拐されただと?」
いつも冷静沈着な父も流石に驚いたようだ。
「はい、彼女の従者のマリウスと名乗る者から呼ばれました。実は・・・その従者がジェシカに付けていたマーキングを・・・俺が上塗りしてやったのです・・。」
「ほう?」
父はそれを聞くと嬉しそうな顔をする。
「そうか・・・ひょっとするとお前とジェシカ嬢は婚前交渉をしたと言う訳だな?」
「・・・。」
俺はその質問に黙ってしまったが、顔が赤らんでいるのが自分でも分かった。
「まあ、別にそんな事はちっとも構わないさ。お前がどれだけ彼女に本気なのか今までの態度で良く分かっているからな。いいだろう、すぐに学院へ戻れ。ついでに騎士を数人連れて行くと良い。ああ、早急に戻る必要があるな。飛行船では時間がかかるかもしれない。アラン、お前は移動魔法は使えるようになったのか?」
「は、はい。学院で学び、使えるようになりました。」
「よし。それなら移動魔法に特化した騎士達を同行させよう。しかし移動魔法は魔力消耗が激しいから一気にセント・レイズ学院まで飛ぶのは難しい。途中途中、中継地点を通り、そこで魔力補給をしながら学院へ向かうと良い。」
「はい、ありがとうございますっ!」
流石は父。何て素晴らしい考えなのだ。それでは早急に準備をして学院に戻らなくては。その仲間に何処で聞きつけたのかは知らないが、グレイとルークも加わったのは言うまでも無かった・・・。
夕方—
何度目かの移動魔法を使い、俺達はようやくセント・レイズシティへと到着する事が出来た。流石に移動距離約3000Kmは疲れた。途中途中で休憩を挟んだものの、今はもう魔力も枯渇し、立っているのがやっとであった。
グレイとルークに至っては立つこともままならないのか地面にへたり込んでいる。
そして俺達についてきた5名の騎士達は若干表情に疲れが滲んでいるものの、疲労困憊している様には見えなかった。
「よし・・・みんな。あともう少しだ。今から学院へ向かうぞ・・・。」
俺達は気力を振り絞ると全員を引き連れて町へと向かった・・・。
俺達が学院の門を通り抜けた所、門前に腕組みをしたマリウスが立っていた。
ひょっとすると、何処かで俺達がここに戻って来たのを知り、ずっと待っていたのだろうか?
マリウスは俺を見ると言った。
「お待ちしておりましたよ。アラン王子。思ったよりもお早いお付きでしたね。ひょっとすると移動魔法を使い、こちらにいらしたのでしょうか?」
「ああ、そうだ。その通り。」
立っているのもやっとだったが、こいつにだけは舐められたくない。俺は気力で答えた。
「そうですか、それはさぞかしお疲れでしょう。立ち話もなんですからセント・レイズシティのカフェにでも参りましょうか。」
「何だって?」
マリウスは何処か意地の悪い笑みを浮かべると言った。こ・この男は・・・・っ!
俺達がフラフラになりながら、セント・レイズシティからこの学院へやって来たのを知っていて、また町へ行こうと言っているのか?何て嫌みな男なのだ・・・っ!
「お、おい!マリウス!勘弁してくれよ!これ以上俺達を歩かせないでくれっ!」
何とも情けない声を上げるのはグレイだ。ルークも何か言いたげではあったが、俺同様に相当マリウスの奴が気に入らないのか青ざめた顔で黙っている。
「わ・・分かった。いいだろう・・・何処へなりとも行ってやる・・・。」
こうなれば俺も意地だ。この男にだけは絶対に弱い所を見せてなるものか。
「流石はアラン王子、話しが早くて助かります。では、参りましょうか?」
言うと、マリウスはさっそうと門へと向かって歩き出す。それを無言で後を追う俺達。
覚えてろよ、マリウス。この借りは絶対に返してやるからな—。
マリウスに連れてこられたカフェへとやって来た俺達は驚いた。
なんと、そこにはダニエルとノアが椅子に座って俺達を待っていたからだ。
「やあ、待っていたよ。」
ノアは右手を上げて俺達を手招きするように言った。
「驚いたよ。マリウスが手紙を出したのが今朝だって聞いていたのに、もう学院へ戻って来るなんてね。」
ノアは足を組みながら言う。
「そんなのは当たり前だ。何と言ってもジェシカの危機なんだからな。」
椅子に座るとルークが真っ先に返答した。
俺達も順次席に座った。俺が連れて来た5名の騎士たちは俺達から少し離れた場所の席に座る。
「マリウス、詳しい話を聞かせてくれ。」
俺がマリウスの方を向いて尋ねると、ジロリと物凄い目で睨まれた。
「その前に・・・まずは私の質問に答えて頂きます。アラン王子・・・何故私がお嬢様に付けたマーキングを上書きされたのですか?貴方のせいで私はお嬢様を今迄見つける事が出来なかったのですよ?」
うっ!早速その質問をしてくるのか?
全員の冷たい視線が集中する。それにしても・・何故だ?!何故俺がまるきり悪者扱いされているんだ?!
「そ、それは・・・。」
俺は重たい口を開く。
「マリウス、お前がいつも必要以上にジェシカの行動を監視出来ないようにする為に・・。俺が代わりにマーキングを上塗りしてやっただけだ。」
何か文句でもあるのかと言う目で俺はマリウスを睨み返した。
「いけませんか?私はジェシカお嬢様の下僕ですよ?私にはお嬢様が何処にいるのかを把握しておかなければならない義務があります。マーキングはその為の措置です。アラン王子・・・貴方にはお嬢様にマーキングする資格など無いのだと言う事がまだ分からないのですか?」
俺とマリウスの口論をグレイとルークはハラハラしながら見守っている。
そんな不毛な言い合いを終わらせたのはダニエルだった。
「ねえ、そんな話はもうどうだっていいよ。それよりも今はジェシカが何処へ連れされれたのか探す方が先決だと思わないの?」
ダニエルはすごくまっとうな事を言った。
「僕もダニエルの意見に賛成だよ。アラン王子とマリウスの口論なんてどうでもいい。」
ノアはどこか冷めたような口調で言った。
それにしても・・・まだこの3人が学院に残っていたとは驚きだ。一体冬休みに入った学院に残って何をしているのだろう?
「そうですね・・・。こんな事をしていても刻一刻とお嬢様の身に危険が迫る一方ですから・・。さあ、アラン王子。お疲れだとは思いますが早速お嬢様の行方をスキャンして下さい。あれだけ濃厚にマーキングされたのですから、探す事等お手の物ですよねえ?」
マリウスの提案に俺は驚いた。
「な・・・何だって?!今からスキャンしろと言うのか?!」
無茶苦茶な話だ、と言うかはっきり言って無理な話だ。今の俺はもう魔力がすっかり枯渇している。こんな状況でジェシカを探すなど不可能に決まっている!
「お、おい・・・。俺達はついさっき3000Kmも移動して来たばかりなんだぞ?せめて・・・今夜一晩休ませてからにしてくれないか?魔力切れで、椅子に座っているだけでもやっとなんだ。」
俺は正直に自分の今の状況を白状した。もう男のプライド等どうだっていい。
「チッ!」
するとマリウスの奴め、これ見よがしに大きな舌打ちをしてきやがった。王子に向かって舌打ちをするなんて、恐れを知らない男だ。
「分かりました・・・いいでしょう。無理に魔力を使い、アラン王子が倒れられても困るので。」
マリウスは立ち上がると言った。
「私は寮へ戻りますが・・・他の皆さんはどうされますか?」
「僕も寮へ戻るよ。まだ里帰りの準備が終わっていないからね。」
ダニエルは・・・意外と呑気な男だったのだろうか?
「僕も寮へいくよ。それに・・・どのみち自宅へ帰るつもりは無かったからね。」
ノアの何気なく言った言葉に俺は少なからず驚いた。嘘だろう?冬期休暇に自宅へ帰らない学生がいたのか?!思わずノアを見ると、彼は吐き捨てるように言った。
「何?文句でもあるの?全員が当然の如く実家へ戻ると思わないで欲しいよ。中には僕のように家の事情で戻らない学生だっているんだからね。」
そしてフンッとそっぽを向いた。
「アラン王子・・・俺達はもう寮へ戻る気力が無いので、どこかホテルに泊まりませんか?」
げっそりした様子のグレイが俺に声をかけてきた。ルークの顔色もますます酷くなってきている。
「あ、ああ・・・そうだな。どこかホテルを取ろう。」
するとマリウスがそれを聞いていたのか、俺達に声をかけてきた。
「ええ、そう仰ると思っておりまして、ここから3軒先のホテルの部屋を念の為に5部屋押さえておきました。よろしければそちらのホテルをお使いください。私もついてまいりますので。」
く・・・どこまで用意周到な男なのだ。しかし・・・知らなかった。マリウスがこれ程優秀な従者だったとは・・・。
「そ、それは手間をかけさせたな。ありがとう、マリウス。」
俺は素直に礼を述べると、マリウスが言った。
「ホテルまでご案内致しますよ。アラン王子には個室を用意しました。」
そして俺達の意見には耳を貸さず、さっさと歩きだして行く。
そんなマリウスを俺とグレイ、ルークに連れて来た5人の騎士たちはぞろぞろと後をついて行った―。
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「おい、マリウス。お前いつまでこの部屋にいるつもりなのだ?」
ホテルの個室に入った俺はいつまでもマリウスがうつむいたまま無言を貫き通し、部屋から出て行かないのでイライラした口調で言った。
するとようやく顔を上げるマリウス。
「アラン王子・・・。貴方はジェシカお嬢様を抱きましたね?」
「なっ?!」
いきなりマリウスは何を言い出すのだ!
「どうしました?答えてください。」
マリウスは尚も食い下がって来る。
「な・・何故お前にそんな事を答えなくてはならないのだっ?!」
「必要な事だからですよ。私はお嬢様の忠実な下僕ですから。」
マリウスは何処か狂気めいた光を目に宿すと言った。その気迫に俺は思わず押されそうになった。ちょっと待て、下僕が主の行動を全て把握する必要が何処にある?
「何故・・・俺がジェシカを抱いたと・・思うんだ・・?」
「そんなのは簡単な事です。あれ程強く、はっきりマーキングが残っているんですよ?生半可な接触ではあんなに濃くマーキングをする事は出来ない・・・。」
マリウスは俺に一歩近づくと言った。ゾクリと俺の背筋が寒くなる。
「どうなんですか?アラン王子。答えて下さいよ。」
気付けば驚く程至近距離にマリウスは立っていた。
「だ・・・だとしたらどうすると言うのだっ?!」
俺は一歩後ずさると言った。
こうなれば俺も開き直るしかない。
「ああ、そうだ!俺は確かにジェシカを抱いたっ!いいか、でも無理やりでは無いぞ?ちゃんとジェシカに確認したし、途中で嫌がればいつでもすぐに辞めるつもりでいた!だが、ジェシカは俺を拒む事もせず、最期は俺の背中に手を回してきてくれたっ!これでどうだ?ちゃんと話したぞっ!何か文句でもあるのかっ?!」
俺は早口で一気にしゃべった。くそっ!何故こんなプライベートな事までこいつに話さなくてはならないのだ?!あまりに理不尽だ・・・!
「アラン王子・・・。」
「何だ?」
「困りますね・・・遊びなら他の女性を当たって頂かないと。」
相変わらず、狂気めいたマリウスはとんでも無い事を言い出してきた。
「何だと?今何と言った?」
「ですから、遊びなら他の女性をあたって下さいと申し上げているのです。お嬢様は軽々しく手を出して良いようなお方ではないのですから。」
マリウスの言葉にカッとなった。
「あ・・遊びでだと?ふざけるなっ!俺はそんな男じゃないっ!ジェシカの事が本当に好きだから望んだ事だっ!」
「それは・・・ますます質が悪いですねえ。」
気の弱い人間ならその視線だけでも射殺されそうな恐ろしい瞳でマリウスは俺から目を離さない。不覚にも俺の額に冷汗が浮かんできた。
「いいですか・・・?ジェシカお嬢様は私だけの物です。どんな男であろうと、絶対に渡すつもりはありません。」
全身から怖ろしい殺気を放ちながら言うマリウス。な・・何だ、この男は。とても正気とは思えない。
「おい、マリウス・・・。もし、仮にジェシカが・・お前を受け入れなければどうするつもりだ?」
ダンッ!!
俺の言葉にマリウスは拳で部屋の壁を激しく叩いた。
ピシッ
マリウスの叩いた部分から小さな亀裂が走っている。マリウスは壁のヒビを見つめていたが、俺に向き直った。
「アラン王子もお疲れでしょうから、私は本日これにて失礼致します。明朝9時にセント・レイズシティの港でお待ちしております。ではお休みなさいませ。」
深々と頭を下げると、マリウスは俺の部屋から出て行った。
「や、やっと行ってくれたか・・・。」
俺は溜息をつくと、自分の両手を開いて見た。両手が小刻みに震えている、と言うか全身が恐怖で震えていたのが分かる。
「な・・・何て恐ろしい男なんだ・・・。マリウス・・。ジェシカを救い出せたら、何としてもマリウスから引き離さなければ・・・。」
翌日—
ホテルでゆっくり身体を休めたお陰で完全とはいかないが、俺は殆ど魔力を取り戻していた。これならジェシカの居所をスキャンする程度なら問題無いだろう。
「アラン王子、起きてらっしゃいますか?」
ルークが部屋のドアをノックしているのが聞こえた。
「ああ、起きている。入っていいぞ。」
ルークはドアを開けて部屋の中に入って来ると言った。
「アラン王子、皆で流星群を見た時、ジェシカの隣に立っていた天文学の教師の事を覚えておいでですか?」
天文学の教師・・・ああ、そう言えばいたな。妙にジェシカと仲睦まじ気だったが・・。
「その教師がどうしたと言うんだ?」
「実は、今このホテルにいる俺達を尋ねて来たんですよ。どうしても会って話がしたいと言って。」
「天文学の教師が俺達に・・・?」
一体どういう事なのだろう?俺達に用事があるとは・・・。
「そうか、折角尋ねて来てくれたのだから会ってみよう。」
俺は着替えに手を伸ばした—。
ホテルに併設してあるカフェに、その教師は俺達を待っていた。
そして俺達を見つけると、片手を上げて笑顔で手招きをしてくる。
「悪かったね。朝早くから尋ねてしまって。」
俺達が席に着くとジョセフと名乗る教師が言った。
「いえ、どのみちマリウスに9時に港へ来るように言われていたので大丈夫ですよ。」
グレイはモーニングセットを頬張りながら返事をする。
「俺達に話があると言っていましたが、一体どのような内容なのですか?」
ルークは俺の代わりに質問をした。
「うん、君達・・・リッジウェイさんを助けに学院に戻って来ただよね?」
「え?!何故それをっ?!」
ひょっとすると・・・マリウスがこの教師に話したのか?いや、恐らくマリウスの性格上、教師に相談するとは思えない。
「うん、実はね。僕はリッジウェイさんに自分の居場所を相手に教える為の魔石が埋め込まれたイヤリングを渡しているんだ。そして、これがそのレーダーを受信するアイテム。」
ジョセフ教師は懐中時計のようなものをポケットから取り出し、俺達に見せて来た。
そこには、ジェシカの今居る現在地なのだろうか、点滅している光が映っている。
「ほら、分かるだろう?ここから東の方角にリッジウェイさんはいるんだ。もう1週間も同じ場所に留まっている。けれど、ここから東の方角には大小様々な島々が点在しているんだ。とてもこのレーダーだけではどこの島にいるのかは分からないけれど、間違いなくリッジウェイさんは近海の島に囚われているみたいなんだ。」
ジョセフ教師の言葉を俺は信じられない思いで聞いていた。だとしたら何故この教師はマリウスにその事を今迄伝えなかったのだろうか?
「何故・・・マリウスには教えなかったんですか?」
ルークが俺が考えていた事と同じ質問を投げつけて来た。
「ああ、それはね・・・。僕がこのアイテムをリッジウェイさんに渡したのは、グラント君から彼女を守る為だったんだよ。」
え?一体どういう事だ—。
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「先生。それはどういう意味なんですか?」
流石に能天気なグレイもただ事では無いと気づき、焦りを感じているように見えた。
「うん・・・。言葉の通りなんだけど・・・彼、グラント君は何処か危険な男だ。だからいざという時に僕が彼女の居場所を把握しておく為に渡したものなんだよ。まさか早速役立つ事になるとは思わなかったけどね。」
「そうだったんですか。先生、感謝します。」
俺は素直に頭を下げた。何せ、これから俺がジェシカの居場所をスキャンしなくてはならないのだ。おおよその方角と位置が分かれば、捜索も大分楽になる。
「いいや、君達の役に立てて良かったよ。あと、この事はグラント君には・・・。」
「ええ、口が裂けても言いません。安心して下さい。」
俺が応えると、ジョセフ教師は安堵の表情を浮かべた。
「そうか、良かった・・・。それじゃ僕はもう行くけど、どうかリッジウェイさんを無事に助け出して欲しい。」
そう言って、ホテルを出ようとしたジョセフ教師に俺は声をかけた。
「待って下さいっ!先生は・・・何故そこまでジェシカを?一介の教師にしては、少々彼女との関わりが強い気がするのですが?」
「ああ、それはね・・・。僕はリッジウェイさんの事が好きだからだよ。」
邪気のない笑顔で答える。
「なっ?!」
何だってっ?!教師のくせにジェシカの事を・・・・?!くそっ!何処までライバルが増えていくのだ?それともこの教師のように大人びた男の方がジェシカのタイプなのだろうか・・・?
俺はまた一つ、悩みの種が出来てしまった。
「ああ、いらっしゃいましたね。おはようございます、アラン王子に、皆様方。」
俺達が港へ行くと、既にマリウス、ノア、ダニエルが防寒着に身を包み俺達を待っていた。
「良かった、てっきり自信が無いとでも言って逃げ出してしまい、ここには来ないのではと思って心配しておりましたよ。」
マリウスはどこか人を小馬鹿にしたような言い方で俺を挑発して来た。
いちいち気に食わない話し方をしてくる男だ。しかし、ここで奴の挑発に乗る訳にはいかない。
「いや、そんな心配は不要だ。では早速ジェシカの居所をスキャンしてみる。」
俺はジョセフ教師に教えて貰った方角を見据えると、意識を集中させて自分の魔力の位置を辿る―。
スキャンを始めて1時間が経過した頃・・・俺はようやくある一点の方角を感知した。
「ついに見つけたぞっ!」
俺はその場に居た全員に振り返ると言った。
「そうですか。やっと見つけたようですね。どの島なのかは目星がついたという訳ですね。」
マリウスは腕組みしながら言った。
「ああ、船でその近くまで行けば、はっきり分かる。」
俺は自身を持って頷くと、マリウスは言った。
「では夜になったら出発しましょう。」
「え?今から行かないのかい?」
ノアは意外そうな顔をした。
「ええ、こんなに明るいうちから船を出せば目立って相手にバレてしまいますからね。夜襲をかけます。」
「夜襲・・・?」
ダニエルが眉を潜める。
「まさか、暗闇に乗じて相手を襲うって事か?」
俺は試しに聞いてみた。
「ええ、そうですよ。奇襲をかけるには夜が一番最適です。相手がどんな奴等で、何人位いるのかは分かりませんが、闇夜に襲えば相手は怯みます。そうですね・・・こうなったら徹底的に何もかも燃やし尽くすのも良いですね。ジェシカお嬢様に手を出せばどのような目に遭うか、この際相手に知らしめないと。」
そして氷のように冷たい笑みを浮かべるマリウス。
俺は心底、マリウスを恐ろしいと感じた—。
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