アラン・ゴールドリック ①

1 


セント・レイズ諸島から東の海にある広大な大陸—それがゴールドリック王家が代々守り抜いて来た「トレント」王国。

この王族から生まれて来た王子は、18歳になるとセント・レイズ学院に入学する事が代々からの掟だ。


 かくいう俺も18歳と言う年齢を迎え、いよいよ明日セント・レイズ学院へ旅立つと言う日、父から呼び出された。


「お呼びでしょうか?父上。」

王族の執務室とは思えない簡素な造りの部屋で父は黙々と書類に目を通し、サインをしていた。


「来たか、アラン。」


父は書類に目を通すのをやめ、ペンを机に置くと俺を見た。

俺の父であるセオドア・ゴールドリックは今年40歳を迎えたばかりで、上になでつけた金の髪、堀の深いキリッとした眼差しは若々しく、下手をすれば俺と兄弟に間違われてもおかしくないほどだ。


「アラン・・・お前はまた見合いした隣国の姫君を断ったそうだな・・・。一体どういうつもりだ。普通であれば、お前の年齢の王子であれば婚約者がいて当然なのだぞ?これで見合いを断ったのは何回目なのだ?お前が学院へ入学する前に婚約者を決めておこうと思っていたのに・・・全く。」


父は眉間に皺を寄せながら言った。


「そうですね・・・。」

父に言われ、指折り数えてゆくが両手で数えきれなくなったのでやめてしまった。

「恐らく10回以上でしょうか?」

ニコリと笑みを浮かべて言う。


「10回以上・・・。」


父は呆れたように俺を見ると言った。


「一体、彼女達の何が気に入らないのだ?つい先日お前と見合いをしたヴィオレッタ姫は伯爵家の姫として家柄も申し分なく、女性としての嗜みを全て心得ていた人物では無いか?見目も麗しい姫だったと聞くぞ?」


「ああ・・・ヴィオレッタ様ですか・・・。」


 俺はその時の見合いの事を思い出した。確かにお淑やかな美少女ではあったが、とに角会話がくだらなさ過ぎた。やれ女性同士のお茶会の話だの、ピアノや刺繍の話などされても、こちらはちっとも楽しくは無いし、欠伸を堪えるのが必死で会話の内容等殆ど記憶していない。

あんなつまらない女を妻にしても退屈なだけだ。一生連れ添って生きていくなんて冗談じゃない。


「どうした?聞いているのか?アラン。」


俺が黙り込んでしまったのを見て、父は声をかけてきた。


「ええ、聞いておりますよ。父上。」


「一体これからどうするつもりなのだ?アラン、お前は弟のクリストフがいるから自分は結婚もせず、跡継ぎも必要ないと思っているのか?」


「まさかっ!そんな風には思っておりませんよ。」

俺は大袈裟に手を振った。しかし・・父上には見透かされていたか・・・。大体俺は王族なんて地位には全く興味など無いのだ。いっそ、平民生まれだったらどんなにか良かっただろうと思う時もある。まだ幼い子供だった頃は、よくグレイやルークと変装して城下町へ遊びに行っていたものだ。あれは俺にとって全てが新鮮で、胸躍る体験だった。


「それなら・・こういうのはどうだ?お前は明日からセント・レイズ学院へ入学する。そこでお前がこの女性なら伴侶にしたいと思える女性を見つけるのだ。だが卒業するまでの4年の間に見つけられなければ、この私が決めた相手と結婚してもらう。

但しだ、適当な女性を見つけるのではないぞ?それ相応の身分の女性を選ばなければ認めないからな。」


父は言葉を一度切ると、さらに続けた。


「それだけではない。常に成績は上位を維持しなけらばならない。もしそれが出来ないのであれば、即刻国へ呼び戻し、お前には婚約をして貰い、帝王学を学ばせる。

分かったな?」


う・・・。父は本気だ。4年以内にだと?そんな簡単に言わないで欲しい。大体俺は貴族社会が気に入らないのだ。どうせ選ぶなら、貴族社会に染まっていない庶民的な女性の方が俺には合っている。

しかし、そのような女性があの学院にいるとは思えない・・。何せ俺がこれから入学するのは世界的に有名な、選ばれた人間しか入学できない一流の学院なのだから。

 多分、これは父からの温情なのだろう。

おまけに成績上位を維持しなければ退学させるにとどまらず、俺の意に添わぬ婚約をさせて、帝王学を学ばせるとは・・・・あまりにも横暴過ぎる。しかし、この国の国王に逆らう事は出来ない。


「はい、承知いたしました。父上。」

俺は恭しく頭を下げると執務室を後にした。

しかし、この父の言葉で俺のこれから始まる学院生活が窮屈な物になるのは目に見えていた。

そう思うと憂鬱で仕方が無かった・・・。




翌日—


「アラン王子、もう全ての荷物は飛行船に詰め終りました。」


「飛行船の部屋は王族専用の個室があったようなので、そちらを手配致しました。」


飛行船乗り場で大勢の人々が行き交う中、ルークとグレイが駆け足でやってきた。

「そうか、悪かったな。お前達までセント・レイズ学院へ入学する羽目になってしまって・・・。」


「何言ってるんですか、俺達はアラン王子のお陰でもっと高度な学問を学ぶ事が出来るんですよ?こんな幸運、滅多にありませんよ。」


グレイが快活に笑いながら言う。


「はい、俺もグレイと同意見です。」


グレイよりは真面目気質のルークが頭を下げる。

その時だ。


「兄上ーっ!」

弟のクリストフが息を切らしながらこちらへ駆け足で向かって来る。


「クリストフッ!見送りに来てくれたのか?」


「はい、兄上。どうしても父上に無理を言って来てしまいました!」


まだあどけなさを残す俺の弟。クリストフは俺と同じ金の髪だが、ストレートな髪質の俺とは違い、クルクルとした巻き毛で、幼い頃はよく周囲の人間からまるで天使の様だともてはやされていた。

どこか冷たい雰囲気を持つ俺とは違い、弟は女性の母性本能を擽るタイプである。


 それにしても・・・。


「おい、周囲に城の者が付いている気配は無いが・・・。まさか、お前1人でここまでやってきたのか?」


クリストフの肩に手を置くと、俺は尋ねた。


「ええ、そうです。でも大丈夫ですよ!馬に乗って駆け付けたのですからっ!」


「おい、お前は王族としての自覚が足りなさすぎるぞ?供を付けないで何かあったらどうするつもりなのだ?」


後ろでグレイとルークが、あのアラン王子が自覚が足りないと言うなんて・・・等ほざいているが、そこは無視だ。


「はい・・・すみませんでした。」


項垂れるクリストフ。う・・・そんな顔をされると・・。俺はどうも昔から弟にだけは弱い。

「わ・・分かった。次回からは気を付けろよ?」

咳ばらいをしながら言う。


その時。出発を知らせる鐘の音が鳴り響いた。


「アラン王子!そろそろ出発です!飛行船に乗らないと!」


ルークに声をかけられた。


「ああ、分かった!」

返事を返すと、改めてクリストフに向き直る。


「手紙、書くからな。元気でいろよ。」


「はいっ!兄上!」


そして俺はクリストフに別れを告げ、飛行船に乗り込んだ。

セント・レイズ諸島へ―。




「ほう、ここがセント・レイズ学院か・・・。」

俺とグレイ・ルークは今学院の正門の前に立っていた。さすが名門校というだけあって、その校舎の建物の造りは立派だった。まるで巨大な城の建造物のようにも見える。俺は今日から4年間、この学院で学術や魔法を学び、ゆくゆくは魔界の門を守る聖騎士となるのか・・・。


「アラン王子。どうされましたか?中へ入りましょう。」


グレイに促され、俺は答えた。

「あ、ああ。そうだったな。部屋番号は俺達にはすでに割り当てられていたはずだったし・・・。」

通常、部屋番号が分かるのは入学式後に貼り出されることになっているが、身分が高い者達には特別室が割り当てられるので、部屋が事前に決められている。


 どうやら荷物は先に学院側から部屋へと運ばれていたらしく、俺達は手ぶらで寮の廊下を歩いて行く。


「アラン王子、どうやらこの部屋の様ですね。」


ルークが一つの部屋の前で足を止めた。そうか、これが俺の部屋・・・か・・・?

その部屋は何故か部屋番号が無く、『特別室』と記されている。

くっ・・・学院め・・。こんな事で気を遣う事は無いのに・・・。『特別室』とされている部屋を利用するこちらの身にもなってもらいたいものだ。


「ハ・ハハ・・・。き、きっと気配りですよ、気配り。」


グレイは乾いた笑いで言うが、冗談じゃない。こちらとしてはちっとも笑えない。

仕方が無い・・・無理を通してでも部屋番号を入れて貰おう・・・。


「アラン王子、今日はこれからどうされますか?」


不意にルークが声をかけてくる。

窓の外をみると、すでに夕暮れになっていた。


「そうだな・・・。学食で適当に夕食を取ったら荷解きをして、今夜は早めに休むことにする。明日は入学式だからな。」


グレイとルークも俺の意見に賛同し、3人で学食へ向かうとこの店のお勧めメニューとやらを注文し、口に入れてみた。

美味い!流石貴族達の通う学院だけあって、料理が美味い。これなら味にうるさい我等も満足できる。

そして俺達は明日から始まる学院生活に向けて、色々な話をして帰路に着いた。


 夜、部屋に戻ると俺は明日の入学式で読み上げるスピーチの練習をしていた。

一応王族という身分であるので試験では下手な点数を取る事は出来ない。

俺は死に物狂いで勉強し、全問満点での入学を果たしたので代表スピーチに選ばれたのだ。

そして、今回特例な事にもう1人スピーチをする人間がいる。

「ふ~ん・・・・ジェシカ・リッジウェイねえ・・・。公爵令嬢で同じく満点での入学と・・・。女のくせになかなかやるな・・。でもどうせお高くとまった女なんだろうな。」

生意気な女だ。

女は少し馬鹿なくらいが可愛げがあって好ましいものなのに。

俺は首を振って雑念を払うと、再びスピーチの練習を始めた—。 






2



翌朝—


「アラン王子、式が始まるまでまだ時間がありますが、どうされますか?」


入学式へと向かう学生達に混ざり、講堂へ向かって歩きながらルークが尋ねて来た。

俺はルークと、さらに隣を歩くグレイをチラリと見た。

それにしても・・・この2人、片時も俺から離れないつもりか?!ほんの少しでもいいから1人の時間が欲しいのに、この2人がそれを許してはくれない。

全く、グレイもルークもご苦労な事だ。彼等だって1人になりたい時だってあるだろうに・・・。

そうだ!


「悪い、部屋に忘れ物をしてしまったようだ。取りに戻るのでお前達は先に講堂に向かっていてくれ。」


「え?アラン王子。それなら俺達が取りに行きますよ?」


グレイが言ったが、俺はそれを止めた。

「いや、俺じゃ無いと分からない品物だから、構わないでくれ。」

2人はまだ何か言いたそうだったが、有無を言わさない俺の態度に納得したのか、頷くとルークは言った。


「分かりました。ですがアラン王子、必ず式が始まる前には戻ってきて下さいね。」


「ああ、分かってる。」

俺は返事をすると元来た通路を引き返し、ブラブラと外を見ながら歩き始めた。

空は雲一つない真っ青な色をしている。

良い天気だな・・・少し外を散歩してみるか。そう思った俺は通用口を通り抜け、外へと出てみた。


 学院の正門を抜けると、何処までも広い草原が広がっている。しかし・・・こんな何も無い場所にこれから4年間も閉じ込められたような生活を送らなければならないのか・・・。最も学院とセント・レイズシティという巨大な町をつなぐ門があるようだが、これも週末しか開かない。

まるで籠の中の鳥状態だ。しかし学院の施設は娯楽施設が十分整っているので学生達からは不満が出ていないのが現状なのだろう。


その時・・・俺は上空から一筋の光がある一点に降り注いでいる事に気が付いた

あれは一体何だ?あの場所に何があるというのだろう?

好奇心に駆られた俺は、急いでその場所へと駆け足で向かった—。



「何だ・・・・これは・・・?」

俺はその場所に到着するなり驚いた。光が降り注いでいた場所に俺と同じ学院の制服を着た女が横たわって眠っていたからだ。肩章を見ると同じ色をしている。

一体何者だ?この女は・・・。人間・・・なのだろうか・・・?

俺は注意深く眠っている女を観察してみた。


 女は両手を胸の前に組んで眠っている。髪の色は栗毛色でとても長くウェーブがかかっている。

良く見ると全身が薄っすらと金色に光り輝き、女の周囲には光の粒子がまとわりついているようだ。

瞳を閉じてはいるが、相当美人だという事は分かる。

何とか目を開けてくれないだろうか・・・いや、このまま眠り続けていたら入学式に遅刻してしまうだろう?

コホンと咳ばらいをすると、俺は少し意地悪な台詞を言ってみた。

「珍しい女だな。こんな所で眠っているとは。」


すると、思った通り女は目を開けた。上から女の顔を覗き込んで不覚にもドキリとした。物凄い美人だ・・・・・。

女は暫くボンヤリと俺を見つめていたが、やがて口を開いた。


「天使がいる・・・。」


天使だと?この俺の事を言っているのか?今まで誰にもそんな事は言われた事が無い。むしろ、天使なのはこの光に包まれた女の方では無いだろうか?けれど女は自分の身体が光り輝いているのに気が付かないのか、再び目を閉じた。

おい?嘘だろう?こんな状況で何故眠れるのだ?


「誰が天使だ。仮にも女性が外で昼寝とはあり得ない。全くなんて下品な女なんだ。」

何故か意地の悪い言葉が飛び出してしまう。

すると女は意識が覚醒したのか、突然起き上がると腰に手を当て、俺に詰め寄って来た。


「あなたねえ、幾ら何でも初対面の相手に対して失礼だと思わないの?それに年上の相手にはもう少し丁寧な言葉遣いをしないと駄目でしょう?」


は?何を言っているのだ?この女は。寝ぼけているのでは無いだろうか?

おまけに女の口から飛び出してくるのはコスプレイヤーだとか、ニホンだとかさっぱり訳の分からない事ばかりだ。おまけに自分の髪の毛を突然引っ張ったと思ったら、パニックを起こしたりと・・・これ程の美人が慌てふためく姿を見るのはある意味新鮮だ。

おまけにもう行くと言いつつ、自分が何処へ行くのか全く分かっていない。

兎に角入学式にだけは遅れないようにと女に忠告し、その場を後にした。

でも今までにないタイプの女に、俺は俄然興味を持ってしまった。こんな事は初めてだ。しまった、名前を聞いておけば良かった。

まあいい。どうせ同じ学年だ。すぐに再会出来るだろう・・・。


 これが俺とジェシカとの初めての出会いだった—。

 




3


「アラン王子、どちらに行かれていたのですか?もうすぐ式が始まるのに戻られないので心配していましたよ。」


俺が講堂に着くなり、グレイが慌てた様子でやって来た。

「ああ、悪かったな。」

椅子に座ると、ルークが声をかけてきた。


「どうされたのですか?アラン王子。何だか楽しそうですね。」


「ああ、ちょっと面白い出会いが会ってな。」


「面白い出会い・・・?」


ルークは首を傾げるが、それ以上の事を伝えるのはやめた。この2人もあの女に興味を持たれたら都合が悪いからな。


 やがて式が進み、俺のスピーチの番が回って来た。名前を呼ばれ、壇上に上がる。

何、昨夜散々練習したのだ。どうってことはない。

緊張する事も無く、スピーチを終えるとやがて次は俺と同じく全科目満点で入学を果たしたジェシカ・リッジウェイと言う公爵令嬢の番だ。

さて、一体どんな女なのか・・・。


 やがて、俺は壇上に震えながら上がって来る小柄な女子学生の姿を見た。

おい・・・嘘だろう?まさか・・・外で呑気に眠っていたあの女が・・公爵令嬢の

ジェシカ・リッジウェイなのか?


 俺は固唾を飲んで見守った。

大丈夫なのだろうか?顔色が真っ青だぞ?今日自分がスピーチをするのは分かり切っていたはずなのに、何故そんなに震えているのだ?


 しかし、ジェシカ・リッジウェイは大きく深呼吸するとスピーチを始めた。

そのスピーチ内容に俺は衝撃を受けた。一体何だ?あの斬新なスピーチは。女のくせにまるで男勝りのあのスピーチは。

悔しい事にあのスピーチには完敗だ。どのような発想をすればあのようなスピーチを考え付くのだろうか・・・。




「アラン王子、一体先程から何をされているのですか?」

 

ルークが見兼ねたように声をかけてきた。


「え?あ・・いや。ちょっと人を探していて・・な。少し話をしたい人物がいて。」

昼食の時間、俺はジェシカ・リッジウェイがこの学食にいないか、ずっと探し続けていた。どうしても、もう一度会って話をしたいと強く思っていたからだ。


「話?誰とですか?」


 グレイが尋ねて来るが、俺は返事をしない。彼女を探すのに集中したいからだ。

しかし、待てど暮らせどジェシカ・リッジウェイは姿を見せない。

俺に付き添っている彼等も退屈そうだ。

仕方が無い、もう今日は諦めるか・・・そう思った矢先、俺は人もまばらになった学食でついに彼女を発見した。

 やったっ!ついに見つけたぞ!

しかし、その瞬間顔が曇る。

何だ?彼女と一緒にいるあの男は。銀の髪が特徴のやたら顔が整っている男は・・。

やけに仲が良いのも気に入らない。ひょっとするとジェシカ・リッジウェイの恋人なのだろうか?

じゃれあっている姿を見ていると、俺の中で嫉妬心が沸き起こって来る。

よし・・・!彼等に近付こう!


ガタンッ!

いきなり席を立った俺を見て、グレイとルークがギョッとした様子で俺を見る。


「ア、アラン王子。一体どうしたのですか?」


グレイがオロオロしたように声をかけてくる。


「少し用事が出来た。」

早口で答えると、俺は足早にジェシカ・リッジウェイの元へ近づき、声をかけた。


「そこの2人。先程から何をそんなに騒いでいるんだ?」


「え?」


途端に驚いた様に俺を見上げるジェシカ・リッジウェイ。

ああ・・・やはり・・・彼女は何て魅力的な美女なのだろうか。


「何だ、あの時の奇妙な女か。入学式が始まると言うのに外で眠っていた挙句、コスプレだとか訳の分からない事を口走る。かと思えば成績優秀でまさか新入生代表の挨拶に選ばれるとはな。それにしてもあのスピーチ、中々面白かったぞ。女ながら勇ましくて笑えた。」

白々しく俺は言った。

嘘だ、本当は彼女を探していたくせに・・・何故素直にお前に会いたかったと言えないのだろう。


 その後の彼女も傑作だった。いきなり90度に頭を下げたり、面を上げよ等と奇妙な台詞を俺に言わせようとしたり・・・。

本当に何て愉快な女なのだろう。そうだ、俺が求めていたのはこういう女性なのだ。

しかも、今目の前にいるジェシカ・リッジウェイは物凄い美女の上、公爵令嬢と申し分のない身分だ。

それなら・・・。

彼女の右手を取り、手の甲にキスをすると露骨に迷惑そうな顔をする。

何故だ?今まで俺はそんな顔を女にされた事は無いのに?少なくとも俺は自分の顔に自信を持っていた。それが否定された様で、一気に自信がガラガラと崩れ落ちていく。

 もしかすると・・・隣に立っている男は彼女の恋人で、それで迷惑がっているのだろうか?

しかし、ジェシカ・リッジウェイは言った。

マリウスは自分の付き人だと・・・。成程、恋人では無いのか。しかし、少なくとも男の方は彼女に対して特別な感情を持っている事はすぐに分かった。

従者が主に恋をしているという訳か・・・。

でも、悪いな。俺は彼女に興味を持ってしまった。誰にも渡したくない程にな。


これから先の学生生活・・・・

とても楽しめそうだ。

俺はジェシカに出会い、初めてこの学院に来て良かったと心から思えたのだった—。























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