第3章 10 用意周到な男
え?何故ダニエル先輩が私の部屋に泊まった事を知っているのだろうか?先輩が喋ったのか?
警戒するようにノア先輩を見つめると彼は言った。
「ああ、何故ダニエルがジェシカの部屋に泊まった事を知っているのか不思議に思っているんだね?」
先輩の言葉に私は頷いた。
「ダニエルが怪しい動きをしているようだったから、彼にマーカーを付けておいたのさ。」
え?マーカー?も、もしや・・・。
「そ、それはマーキングの事でしょうか?」
「うん、似たようなものだね。」
それを聞いた私は一瞬よろめいた。
そんなまさか・・・。2人はマーキングをし合うよな仲だったのか・・・?だから最近急接近を・・・。それにしても以外だ。でもお互い美系同士だから、それはそれで絵にはなるかも・・・?私は2人の関係を想像して、頷いた。
な〜んだ。今は男性に興味があるならノア先輩は別に危険人物では無いか。
でも小説の中ではそんな設定は無い。もしや、まるで悪女のソフィーに幻滅して・・・。
「ねえ、どうしたの?さっきからブツブツ独り言を言って。」
ノア先輩が私の顔を覗きこんできた。
「い、いえ。何でもありません。」
「それじゃあさ、外は寒いからホテルに入って2人で温め合おうよ。」
冗談にしては質が悪い事を言う先輩だなあ。
「お断りします。」
即答する私。
「何故?!」
かなりショックを受けたかのような反応をする先輩。意外な程反応してるなあ・・。私はため息をつくと言った。
「何故ノア先輩が私の所に来たのか、理由が分かりました。いいですか?昨夜確かにダニエル先輩は私の部屋で一晩一緒に過ごしました。」
「・・・そんな事、もう分かってるよ。」
不機嫌そうに言うノア先輩。
「ですが、安心して下さい。」
「え?」
「昨夜、私とダニエル先輩の間ではノア先輩が心配しているような事は一切ありませんでしたから。」
黙って私を見つめるノア先輩。
「応援してますから。」
「はい?」
ここでノア先輩が訳が分からないと言うような表情になる。え?何かマズイ事をいってしまったのだろうか?
「好きなんですよね?・・・・・ダニエル先輩の事が。」
「はああ?!ジェシカ、一体何を言ってるのさ?!」
「え・・・?ノア先輩とダニエル先輩は・・恋人同士なんですよね?」
その言葉を聞き、顔色を変えるノア先輩。
「ねえ、ジェシカ。君、本気でそんな事言ってるの?僕が?ダニエルを好きだって?
冗談じゃないっ!僕は生まれてこの方男を好きになった事なんて一度も無いからな!」
私の両肩を掴んでガクガク揺さぶるノア先輩。
「お、落ち着いて下さい・・・。ノア先輩。」
肩を揺さぶられながら、何とか先輩を宥めた。ノア先輩は深呼吸すると言った。
「大体、どうして僕とダニエルが恋人同士だなんて思ったのさ。」
私を恨めしそうな目つきで見る。
「だ、だってダニエル先輩にマーキング・・したんですよ・・ね?」
「マーキングじゃなくて、マーカーだけどね。ダニエルが履いている靴に相手の居場所を知らせる魔法をかけといたのさ。」
え・・・?靴に?
「大体、マーキングにしたって似たようなものさ。相手の身体の一部に触れて魔法をかけるだけなんだから。それが掌だろうと、頭だろうと、何処だっていい。ねえ、君は何かマーキングについて誤解していない?」
「だ、だってマリウスは・・・。」
マリウスはいつもマーキングと言っては私にキスをしてきたではないか。だからてっきり相手にキスをしなければマーキングをかけられないと私は思っていたのだ。
「マリウスがどうしたのさ?」
再び私の両肩に手を置き、尋ねてくるノア先輩。
「・・・・。」
言えない、言える訳が無い。私は口を閉ざした。
「早く教えないと他の連中にアラン王子との事・・・。」
「わ・・・分かりました!言います、言いますから!」
必死でノア先輩を止めた。
「マリウスは・・・いつも私にマーキングをかける時は・・そ、その・・キスを・・。」
「何だって?」
ピクリと反応するノア先輩。あ、マズイ。また危険な目付きになってるよ。
「待って、ジェシカ。マリウスはマーキングと言っては君にキスをしてきたんだね?」
言いながら、先輩は私の肩を掴む手に力を込めてくる。
い、痛い・・・。私は痛みで顔をしかめる。
「そこ迄にして頂きましょうか?ノア先輩。」
「マリウス・・・。」
憎悪を込めた目でマリウスを見るノア先輩。
マリウスは大股で私達に近づくと、ノア先輩の手を払いのけると言った。
「私の大切なお嬢様に狼藉を働くのはやめて頂けますか?」
私を腕に囲い込むと冷たい声でマリウスは言った。
「狼藉を働くだと?君の方が余程ジェシカにとって危険人物だと思うけど?」
ノア先輩はマリウスを指差しながら言った。
「マリウス、君はマーキングと称してジェシカにキスをしていたらしいじゃないか?本来、マーキングはそんな事をしなくてもかけられるのに・・・。」
え?私はノア先輩の言葉に耳を疑った。一体どういう事なのだろう?
「マ、マリウス・・・今の話しは本当なの・・・?」
マリウスを見上げながら恐る恐る尋ねた。
「ええ、そうですよ。」
マリウスは悪ぶれもせず、笑みを浮べる。
な?!なんて男なの・・・!私はカッとしてマリウスに言った。
「酷いじゃないの!今迄私を騙していたのね?!キ、キスしなくてもマーキング出来たんでしょう?!」
私は真っ赤になってマリウスに抗議した。
「ええ、確かにそうですが決して嘘をついていた訳ではありません。一番効果があるマーキング方法は相手にキスをする事なのですよ。と、言う訳で・・・ノア先輩。」
マリウスは再びノア先輩を睨みつけると言った。
「これ以上、私の大切なお嬢様の傍をうろつくようなら・・・容赦しませんよ?」
私を腕に捉えながらマリウスは怒気を込めた声でノア先輩に言い放つ。
「ク・・・。」
悔しそうな表情を浮かべてノア先輩は帰って行った。
「さて、お嬢様。今夜はここのホテルに泊まるのですか?」
マリウスは、私の方を振り向くとにこやかに微笑んだ。
「そ、そうよ!大体女子寮は、もう誰もいないのよ?あんな広い寮で夜独りきりで過ごせるわけ無いでしょう?」
半ばマリウスを責めるように言う。
「それは申し訳ございませんでした。お嬢様を不安な気持ちにさせてしまいまして。では参りましょうか?」
マリウスは当然の如く私の腕を取ると、ホテルの中へ入って行く。しかも教えてもいないのに私の取った部屋の前で足を止めた。
え?ちょっと待って。
「ねえ・・・何故私の部屋を知っているの?」
するとマリウスは意味深に微笑む。
「当然です。私はお嬢様の事なら何でも知っていますから。」
マリウスの言葉に私は身体中に悪寒が走る。やだ、怖いっ!目の前に立つこの男はストーカーだっ!逃げたい逃げたい逃げたい・・・。
私のそんな気持ちを知ってか、知らずかマリウスは言った。
「さあ、お嬢様。中へ入りましょう。寒い外にいてすっかり身体が冷えておりますよ。」
私の背後に立ち、耳打ちしてくるマリウス。ブワッと鳥肌が立つ。
「も、もう大丈夫だからマリウスは寮に帰ってよ。」
マリウスの胸元を押す私に彼は言った。
「何を仰るのですか?私も今晩はこちらに宿泊致しますよ。」
「な、何を言ってるのよ!ホテルに止まるんだから、もう大丈夫に決まってるでしょう?!大体貴方何も準備してないじゃない。」
「いいえ、してありますよ。」
マリウスの台詞に私は彼の足元を見て絶句した。何故ならマリウスはボストンバッグを持ってきていたのだった・・・。
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