第3章 8 ダニエルからの手紙

 朝、目が覚めると今度こそ本当にダニエル先輩はいなくなっていた。

風邪引いてないといいんだけど・・・それにしても昨夜はあんな場所で一体先輩は何をしていたのだろうか?

ふと、ベッドサイドに置かれたテーブルの上に手紙が乗っているのが目に留まった。

まさか・・・この手紙を渡す為に?寮母さんが居なかったから頼めなくて私が偶然窓を開けるまであんな寒い場所で待っていたと言うのだろうか?


ペーパーナイフで封を切って、手紙を取り出した




ジェシカへ


 今日は本当にごめん。

君を傷つけるつもりなど僕には全く無かったんだ。

僕がどうしてアメリアという女性に、次にソフィーに惹かれたのかは分からない。

最初に会った時にはソフィーに対しては嫌悪感しか持っていなかったのに。


 ある日突然アラン王子がアメリアを連れて歩いているのを見た時、何故か僕の意識は一瞬飛んで、気が付いたら彼女しか目に入っていなかった。

何故なんだろう?僕はジェシカの事が好きだったはずなのに・・・。

常にアメリアと一緒に行動していたソフィー。

邪魔な女だと思っていたのに、いつの間にか僕を含めた全員がソフィーの虜になっていたんだ。


 あの雪のパレードの日、君が僕たちの前に姿を現したのを見た時は本当に驚いた。

ジェシカを見た途端、僕の意識が君の方に一気に向いたのを感じたよ。

それなのに・・・僕はまだソフィーに縛られていたのかもしれない。

だって君がソフィーの攻撃に晒されて危険な目に遭いそうだった時も、ソフィーに平手打ちされた時も身体が動かなかったのだから。


 でもようやく目が覚めたよ。

最期にソフィーに騙された男達を見た時のあの女の醜態を見せつけられた時に。

何故僕はあんな女の虜になっていたのか、自分で自分が許せなかった。


 だから、どうしてもジェシカにもう一度会って話をしたいと思っていた矢先に、君がアラン王子と深い仲になってしまった事を知り、嫉妬心からついあんな酷い態度を取って君を怖がらせてしまったね。

本当にごめん。


 もし、僕を許してくれるなら・・・友達としてでも構わないから、もう一度初めからやり直したい。


                           ダニエル・ブライアント


 私は手紙を読み終えると・・・溜息をついて天井を仰いだ・・・。




—ダニエルの心情—


 愚かな事をしたと思っている。

ジェシカと距離を置くようになってから、何故か自然と僕はノア・シンプソンと行動を共にする事が増えていた。

一時の気の迷いからアメリアとか訳の分からない女に夢中になってしまい、挙句にあれほど嫌悪していたソフィーに心奪われてしまうなど・・・。

ジェシカに呆れられても当然だ。


 でも・・・正直ショックだった。

まさか自分の知らない所でジェシカとアラン王子が・・・その事を想像するだけで胸が苦しくなってくる。嫌だ、どうか嘘だと言って欲しい。

それなのに・・・彼女はアラン王子との仲を認めた。

何故?!アラン王子だって僕たちと同じじゃないか。彼だって君から離れて行った男だろう?なのに何故アラン王子を受け入れたんだ?


 ああ・・・でもアラン王子と僕たちは違っていたんだね。

ジェシカははっきり言った。

アラン王子は自ら自分に声をかけてきたと。そして助けて欲しいと。

そこが僕たちとアラン王子の違いだったんだね。

僕も彼と同じように行動していたら今とは違う関係に・・・もう一歩踏み出した関係になれたのかな?


 ジェシカにアラン王子を愛しているか尋ねた時、彼女の返事を聞くのがすごく怖かった。どうしよう、愛していると聞かされたら。もう僕は正気ではいられないかもしれない。

だけどジェシカは言った。すごく困ったように、同情だけでは駄目ですか?と。

同情・・・僕も君から深く同情してもらえたら・・・君はアラン王子と同様に受け入れてくれるのかい?

ジェシカは優しいから、多分受け入れてくれるのは間違いないだろうね・・。


 あの日の夜・・・まだジェシカが女子寮に残ると知った時、思い余った僕は手紙を書いて届けようと思ったのに、寮母室はもぬけの空。

どうしようとジェシカのいる部屋の窓を見上げていたら、偶然窓を開けてくれたのだから本当に驚いた。


 寒さで凍えて震えている僕を躊躇なく自室に入れてくれたジェシカ。

部屋を暖めてくれて、熱い紅茶も出してくれた。

それでも寒がる僕に最後にお風呂を用意してくれるなんて・・・。

でも、ジェシカは本当に無防備すぎる。

そんなだからアラン王子に付け込まれたのでは無いかと僕は確信した。


 お風呂から上がって出てみるとジェシカは暖炉の傍で居眠りをしていた。

あれ程、恋い慕っていたジェシカが今僕の目の前に、手を伸ばせばすぐ届く距離にいる。


 ごめん、ジェシカ。僕はやっぱり卑怯な男だ。

眠っている彼女に顔を近付け、そっとキスする。そして抱き上げるとベッドへ寝かせた。

本当はこのまま帰ろうかと一瞬思ったけど、ジェシカが心細いと言っていたのを思い出す。

小さなソファに身体を横たえ、僕は夜明けまでこの部屋にいようと決めた。



 薄暗い部屋の中—

不意に僕は目が覚めた。すると何故かジェシカも起きて僕の方を見ているじゃ無いか。挙句に場所を交換しようと言って来た。

でも・・・・ごめん。ジェシカ。僕は君に付け入らせて貰うよ。


 2人で一緒にベッドで寝ようとジェシカを誘った。

大丈夫、絶対何もしないと誓うから。そう言ってジェシカを安心させる。


ジェシカのベッドで2人背中合わせに寝る。

僕は緊張で眠気なんかとうに何処かへ行ってしまったのに、ジェシカは余程疲れていたのか、それとも完全に僕を信用しているのかすぐに寝息を立てて寝てしまった。


「ごめん・・・。これ位は許して貰えるよね?」

今日何度目かの『ごめん』


僕はジェシカの方に向き直ると、背後から彼女を抱きしめて眠りに就いた—。















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