第3章 2 命がけの鬼ごっこ
「ハアッ、ハアッ」
息を切らしながら私は何とか女子寮まで走り切る事が出来た。振り返っても生徒会長の姿は見えない。良かった・・・・何とか無事に撒くことが出来た。
時計を見ると18時15分を指している。
何とかグレイとルークとの約束の時間に間に合った・・。
私はノロノロと重い身体を引きずるように自室へと向かう。
さて、私がどうしてあの生徒会長の魔の手から逃げる事が出来たかと言うと・・。
時間は今から約10分程前に遡る―。
「おい、随分髪型が乱れているぞ?」
生徒会長が私の髪の乱れに気が付き、私の頭に手を伸ばした。
ズルリ。
カツラが完全に外れてしまい、私の栗毛色の髪の毛がバサアッと広がる。
し、しまった—!
生徒会長が驚愕の表情を浮かべる・・・。
「お、おい!お前・・・ジェシカだったのか?!」
驚愕の表情から途端に喜びの表情へと変わる生徒会長。
「そうか、お前は他の連中の目を気にして変装までしてこの俺にわざわざ会いに来てくれたのだな?やはり俺の事が忘れられなかったのだろう?」
何処をどう解釈すれば、その様に自分本位の考えに至るのだろう?冗談じゃないっ!
生徒会長など死んでもお断りだ!
私はフルフルと無言で首を振って後ずさる。
そして、再び踵を返して猛ダッシュで逃げだした。
「おい?!ジェシカッ!逃げるなっ!」
生徒会長の怒声が響き渡り、私の後を追っかけて来るのが分かった。
ヒイイイイッ!こ、怖いっ!
私は咄嗟に目の前に見えた校舎の建物の陰に隠れる。
しかし・・・。
「どうした、ジェシカ?そんな校舎の陰に隠れて逃げられるとでも思っているのか?観念して出て来い。」
最早完全に悪役のような台詞を吐きながらゆっくりと近づいてくる生徒会長。
「見つけたっ!」
生徒会長は私が隠れた校舎の建物を覗き込む。
が、しかし・・・。
「うん・・・?何故いないのだ?」
木の陰や茂みの中等、私の事を一生懸命探し回る生徒会長。
そして私はそんな彼を他所に、ケビンにプレゼントしてもらった指輪で自分の姿を消して、反対側から抜け出していたのだ。
生徒会長から十分距離を取ると、今度は一気に女子寮に向かって駆けだす。
早く、早く指輪の効果が切れる前に・・・。
こうして私は無事に生徒会長の魔の手から逃げ出す事に成功した。
まさか、こんな場面でも指輪が役に立てるとは・・・ケビンには本当に感謝だ。後で何かお礼をしないと・・。
「それにしても・・・本当に心臓に悪い鬼ごっこだった・・・。」
私はまだバクバクしている心臓を押さえながら言った。出会ったのが生徒会長だったのは本当に不運だった。これがまだノア先輩やダニエル先輩だったらマシだったのに・・・。
その後、私は約束の時間まで荷造りを済ませて7時少し前に防寒着を着て女子寮の入り口まで出てみた。
「「ジェシカッ!」」
2人は既に待ってくれていて、同時に私の名前を呼ぶ。
「良かった、2人一緒に出てこれたんだね。」
「ああ、全ての荷造り作業が終わったからな。あ~それにしても肩が凝ったよ。」
ルークは首をコキコキ鳴らしながら言った。
「ごめんね、疲れている所呼び出しちゃて。」
「何言ってるんだよ、今夜は誘ってくれて嬉しかったぜ。」
グレイはニコニコしながら言う。
「それじゃ、何処か食事でも行くか。」
伸びをしながらグレイが言うと、ルークが提案して来た。
「セント・レイズシティの門の近くに安くて美味いステーキハウスが出来たんだ。そこへ行って見ないか?」
「おお~それは素敵ね!私、行ってみたいな。」
「ああ、それはいい考えだな。よし、行って見ようぜ。」
グレイも迷うことなく賛成した。
こうして私達3人はステーキハウスで夕食を取る事になったのだ。
「うん、美味しい!このカットステーキ!」
私は熱々の一口大のお肉を口に入れると、うっとりした。
「俺のも美味いぜ。このサーロインステーキ、最高だぜ!ルーク、お前良い店知ってたんだな?」
グレイも嬉しそうに肉を口に頬張っている。
「だろう?偶然この店が目に入って一度だけ食事したことがあったんだ。その時はランチの時間帯だったが、余りに安くて美味くて感動したんだよ。」
ルークの頼んだメニューはロースステーキ。こちらもとても美味しそうだ。
暫くはお互いの肉がどれだけ美味しいかの議論をしながら3人でテーブルを囲んでのディナータイムを楽しんだ。
そして、食後のコーヒーを飲む頃にようやく本題へ。
「ジェシカ、俺達を今晩呼んだのはアラン王子の事だろう?」
ルークがじっと私の目を見ながら尋ねて来た。
「うん、そうなんだけど・・・・。どう?アラン王子の様子は。今日は色々とショッキングな1日だったからね。」
私がため息交じりに言うと、グレイとルークは2人で目を合わせ、ルークが口を開いた。
「ああ・・・。その事なんだけどな、ジェシカ。実はアラン王子・・・すごく不機嫌な顔で帰って来たんだよ。一体町で何があったんだ?」
隠していても仕方が無いか・・・。それにグレイもルークも私達が出掛ける時のエマ達の様子を見ているのだから、おおよその見当はついているかもしれない。
「実は・・・。」
私は事の全てを話した。見る見るうちに青ざめた顔になっていくグレイとルーク。
それは当然だろう、何せ一国の王子に攻撃魔法をしかけているのだから。おまけに男と女のド修羅場事件まで現場では起こったのだ。
「そうか・・・それでか・・。」
ルークは頭を押さえて言った。
「何?何があったの?」
「ああ、実は寮に戻ってから少しして、ソフィーから呼び出された様でアラン王子は一度外出したんだ。けれど、1時間も経たないうちに寮に戻って来てからはずっと機嫌が悪く、話しかけてもろくに返事すらしてくれなくて・・・。」
グレイはげんなりした表情で語る。
「そうだったんだ・・・ご苦労様。」
私は2人にねぎらいの言葉をかけた。やはり俺様王子のお守は大変だね。
そこで私はある事に気が付いた。
「ねえ、そんなにアラン王子が機嫌悪いなら、勝手に出てきたらまずかったんじゃ無いの?!」
「「・・・。」」
グレイとルークは同時に顔を見合わせたが、すぐにルークが応えた。
「ああ、確かにそうかも知れないが・・・俺達にとってはジェシカからの誘いの方が大事だからな。」
「だ、だけど・・・っ!」
今日のあの騒ぎを実際に彼等は目にしていないから、そんな呑気な事を言っていられるのだ。恐らくアラン王子は相当イラついているに違いない。
「ね、ねえ!すぐに学院に戻ろう?アラン王子の機嫌が悪くなる前に。」
私は2人を促すと、会計を済ませて早々に店を後にした。
門を抜けてセント・レイズ学院に戻ると・・・案の定、アラン王子が気難し気に暗闇のなか、門の付近で腕組みをして立っていた。
「おい!グレイにルークッ!お前達・・・明日は国へ帰ると言うのに一体何処へ行っていたのだ?!」
グレイとルークは私をアラン王子の視界から隠す様に立っている。
「申し訳ございませんでした、アラン王子。外で外食をしてきたもので・・・。」
ルークは頭を下げる。
「申し訳ございませんでした!」
グレイも頭を下げた時に、アラン王子は私に気が付いたのか声をかけてきた。
「うん?誰かと一緒だったのか?」
どうもアラン王子からは逆光になっているのか、私の姿が見えない様だ。
仕方が無い・・・・。私は溜息をつくと一歩前に進み出て声をかけた。
「こんばんは、アラン王子様。私が彼等を夕食に誘ったのです。なので2人を責めないで頂けますか?」
「ジェシカ・・・・。」
アラン王子は呆然とした顔で、その場に立ち尽くしていた—。
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