第2章 5 意外な関係
マリウスが怒涛の勢いで学院へと向かった後、私は静かに食後のコーヒータイムを味わっていた。
グレイ、頑張ってね。・・・骨は拾ってあげるから!マリウスは強い。グレイの実力は知らないが、二日酔いで体調不良ならマリウスに勝つのは難しいだろう。
でもルークやアラン王子が一緒なら何とかなるかな?最も彼等が手を貸してくれるかどうかは怪しいけれども・・。
私が今日ジョセフ先生と約束していなければ、こんな事にはならなかったのかもしれない。しかし、今回は申し訳ないがグレイに犠牲になってもらうしかない。
でもやはり心配だから明日様子を見に行く事にしよう。
私はコーヒーを飲み終えると立ち上がった。
時刻は午前10時を少し過ぎた所だ。この時間なら恐らく店も開いているだろう。
重いトランクケースを引きずるように、私はカフェをでると昨日とは別のリサイクルショップへと向かった—。
約1時間後—私はリサイクルショップの店を出た。
「どうもありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
店員たちが私の事を見送る為に全員外に出て、頭を下げている。
いやいや、そんな事迄されるとかえって恐縮してしまうのですが・・・。
どうも私は上客だったらしく、お金に換金したところ大金貨8枚に金貨6枚と言う値段が付いた。おお~今日は220万円になったよ。昨日はグレイとお酒を飲みに行ったりして金貨を3枚程使ったけど、それでも残金は日本円で397万円。
す、素晴らしすぎる・・っ!
明日、残りのトランクを全て売ってしまえば500万円はくだらないだろう。
これだけあれば逃亡資金はおろか、1年位は何とか暮らしていけるかもしれない。
ウキウキする気持ちを押さえて、私は町を散策する事にした。
雑貨屋さんを覗いたり、本屋さんに立ち寄ってロマンス小説を立ち読みして、何冊かお気に入りの本を見つけて購入したり・・・。
気付いてみると、もうお昼を過ぎていた。
「う~ん・・。今日はどうしようかな?何食べようかな?」
ポツリと呟くと、背後から声をかけられた。
「そこのお嬢さん、ラフトはいかがかな?」
え?聞き覚えのある声に振り向くと、そこに立っていたのはラフトの屋台のお兄さんだった。
「あ、ラフト屋さん!」
「こんにちは、お嬢さん。」
ラフト屋さんは帽子を取ると、笑顔で私に挨拶をした。
彼はいつものエプロン姿では無く、普段着を着ている。おまけにこの時間なら屋台で働いているはずだ。なので気になって尋ねてみた。
「どうしたんですか?今日はお仕事休みなんですか?」
「ほら、今夜は流星群が降る日だろう?だから夜中まで祭りが行われるから今日の仕事は夕方から夜中までなのさ。」
「え?それじゃ仮眠取らなくちゃならないんじゃいですか?」
「アハハハ。大丈夫さ。何も一晩中仕事をするわけじゃ無いから。所でお嬢さんはセント・レイズ学院の生徒さんなんだろう?」
お兄さんは笑いながら言う。
「はい、今年入学したんです。」
「ふ~ん。そうなのか。どうりであんまり見かけたことが無いって思っていたよ。お嬢さん程の美人はそうそう見ないからね。」
「いえいえ、そんな事は無いですが・・・。」
このお兄さん、どこまで本気で言ってるのだろう?
「ところで、今日は1人なのかい?この間一緒にラフトを食べに来ていた彼氏は一緒じゃ無いのかな?」
ああ・・・このお兄さん、私とアラン王子が彼氏彼女の関係だと思っている様だ。
「私と彼は単なるクラスメイトですよ。」
そう、もはや友人とも呼べない・・・ね。
「え〜?そうなの?ただの友人が2人で屋台に来るかなあ?しかも俺とお嬢さんが話してた時、彼物凄い目付きで俺の事睨みつけていたし。流石にあれには殺気を感じたよ。」
「それはとんだご迷惑を・・・。」
私は代わりに頭を下げた。
「いいって、いいって。お嬢さんが謝らなくても。」
お兄さんは笑いながら手を振って言った。
「ところで、お嬢さんはこんなところで1人で何をしていたんだい?」
「えっと、今から何処かでお昼にしようかと思っておりまして。」
「ふ〜ん、そうなのかい?俺でよければおすすめの店を案内してもいいけど?実は、今からそこに食事に行くつもりだったんだ。あ、でも仮にもセント・レイズ学院のお嬢さんを連れて行くような場所じゃないかな?」
お兄さんは考え込むように言った。
「ちなみにどんなメニューなんですか?」
「それはね、串に刺した分厚い肉や、シーフード等を食べられる屋台なのさ。あんまりお嬢様が好むような場所じゃないかもね。」
なんと!もしや・・・それはいわゆる串焼きのようなものでは?!串焼きは私に好物のメニューの1つでもある。よく仕事帰りに串焼き屋さんでお酒を飲んで帰った事もあったし・・。
「い、行きたいです!連れて行って下さいっ!」
「ええ?いいの?そんな場所で?」
お兄さんは私の気迫に押された様子ではあったが、快く承諾してくれた。
そして、歩く事約5分。私達は串焼きの屋台へとやってきたのだ。
「う~ん・・・!おいしいっ!この肉汁たっぷりのお肉・・・!」
私は顔をほころばせながら無心で食べていた。
「ははは・・・お嬢さん、いい食べっぷりだね。この町の女性だってあまり来ないような屋台なのに。」
お兄さんは私の様子を見ながら笑って言った。
確かに見渡してもこの屋台で食べている人達は皆男性ばかりだ。明らかに私の姿は周囲から浮きまくっているかもしれない。
「どうしてなんでしょうね?こんなに美味しいのに・・・女の人達だって食べに来るべきですよ。」
串に刺した大きなウィンナーを手に私は言った。
するとそこの屋台のおじさんが私に声をかけてきた。
「嬉しいね~っ!あんたみたいな若くて別嬪さんが俺の屋台に来てくれて、こんなに喜んでくれるなんて・・!おいっ!兄ちゃん、感謝してるぜ!」
そしておじさんはラフトのお兄さんの手をむんずと掴んで握手して来た。
思わず苦笑するお兄さん。
それにしても・・・
「こんなに美味しいと、思わずお酒を飲みたくなってしまいますよ~。」
冗談めかして言ったのだが、店主のおじさんがそれを聞きつけると、私にお酒を注いだグラスをグイッとよこした。
「お嬢ちゃん、これは俺の奢りだ!飲んでくんな!俺の店で唯一若い女の子に出せるお酒ってこれぐらいしか無いが・・・!ご当地限定の果実酒だ。」
「えええっ!そんな、ご馳走してもらう訳にはいかないですよ!お金なら支払いますから。」
私は慌てた。そんなつもりでお酒が飲みたくなるなどといったつもりではないのに!
「まあ、いいから。ここの店主さんの言う通り、ご馳走になった方がいいよ。」
お兄さんは笑いながら言う。
「あの・・・お兄さんは飲まないんですか?」
「ああ、俺はこの後仕事だから飲むわけにはいかないさ。でも俺の事は気にせず飲むといいよ。」
「・・・ありがとうございます。」
ここはお兄さんの言う通り素直にお酒を頂く事にしよう。
それにしても・・・私はお兄さんの横顔をちらりと伺った。この人、何歳ぐらいなんだろう?もしかすると実際の私の年とあまり違いが無いかもしれない。妙に落ち着いているし・・・。
二人で食事をしながら会話をしていると、ふいにお兄さんが言った。
「そう言えば、俺の友人がセント・レイズ学院の教師をしているんだよ。」
「ええっ?そうなんですか?」
私はお兄さんの発言に驚いた。
「うん。年齢も俺と変わらないし・・・すごくいい奴なんだよ。頭が良くて、あまり学問の知識が無い俺にも色々な事を教えてくれるんだ。」
お兄さんの話しぶりから、相手の男性に尊敬の念を抱いている事を感じられた。
「そうなんですか、それじゃきっと良い先生なんでしょうね。」
「ああ、勿論さ!だけど、あいつ寂しい人間なんだよ。ちょっと昔色々あってね。でも最近は明るくなってきたんだ。何かいい事でもあったのかなあ?」
「ちなみにその先生の名前は何と言うんですか?」
「ああ、お嬢さんは知ってるかい?ジョセフ・ハワードっていう名前なんだけど。」
え?
私は思わず手に持っていた串焼きを落しそうになってしまった・・・。
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