グレイの独白 ①

 朝、俺は見知らぬ部屋で目が覚めた。二日酔いだろうか?頭がズキズキする・・・。部屋の中を見渡すが、ジェシカの姿は無い。

そうか、俺は途中で眠ってしまったのか・・・。でも昨夜の事は、はっきり覚えている。


 昨夜、とうとう俺は自分の今迄抑えていた理性がアルコールのせいで飛んでしまった。

ジェシカが俺の顔を、覗き込んだ時・・・いつもの白い肌とは違い、アルコールで

薄っすら赤く染まった上気する肌。おまけに人を扇動するかのように見上げた時の情欲をそそるようなあの表情・・・。

我慢の限界だった。アルコールで頭がボンヤリしている所に間近で覗き込むジェシカの瞳。それを見ていたら、もうジェシカを自分の物にしたいという感情しか沸き上がって来なかった。


 気が付いてみたら俺はジェシカにキスをし、ソファの上に押し倒していた・・・。

あの後すぐに自分の意識が無くなってしまって本当に良かったと思っている。

そうでなければあのまま俺は自分の本能のままにジェシカを無理やり奪っていたかもしれないからだ。

 俺はつくづく自分の事を恐ろしいと思った。まさか、あのような激しい感情が自分の中に眠っていたなんて・・・・。

俺が意識を失ったのは幸いだが、ただあの時のジェシカの表情だけがどうしても思い出せない。

驚いていた?それとも俺を怖がっていたのだろうか・・・?

どちらにしろ、俺はジェシカを傷つけてしまった事に変わりはない。

 


 ああっ!くそっ!今日からどの面下げてジェシカと顔を合わせればいいんだ?!

もうジェシカは俺の事を獣だと思って二度と会ってくれないかもしれない・・・っ!

俺だってあんな乱暴な真似をするつもりなんて初めは全く無かったのに・・。

こんな事なら昨夜のアラン王子の付き添いの番をルークと変わって貰えば良かった。あいつは幾らアルコールを飲んでも酔えない体質だから、俺のような失態をする事は絶対に無かったはずだ。


 しかし、昨夜のジェシカは何故あんなにも沢山アルコールを飲ませて、俺を酔わそうとしたのだろうか?何か考えがあったから?それとも俺を誘惑して・・いや、それだけは絶対に無いな。

何しろジェシカはあれ程色んな男達から言い寄られても、誰か1人になびく事など、今まで一度も無かったからだ。

俺にアルコールを飲ませたのには絶対何か理由があったはずだ・・・。そう言えばあの時、しきりにアラン王子の事を俺に聞こうとしていたな・・・。


ん?待てよ?ま、まさか・・・っ!それならジェシカの本命の男はアラン王子だったと言うのか?! 

だからあれ程アラン王子の事を俺に尋ねてきていたのだろうか・・?

何だかそう考えると、非常に空しくなってきた。俺はアラン王子とジェシカの仲を取り持つために昨夜は動いて、失態を犯してしまった事になる。


いや、違うな。それは無いか。何せジェシカはアラン王子の事を様付で呼んだりして、妙によそよそしい態度を取って、距離を置くような話しかたしかしていなかった・・・。



 それにしても本当の所、アラン王子は何処までジェシカの事を思っているのだろうか?アメリアが現れるまでは確かにジェシカ一筋だった。

なのに彼女が現れてからは、時々まるで何かに憑かれたかのようにアメリア一筋になってしまう。時にはジェシカを平気で傷つけるような真似をしてでも・・。

 そのくせ、少し時間が経過すると突然目が覚めたかのようになり、ジェシカの事で思い悩む。

あれではまるで何者かにアメリアを好きになるように強制的に暗示か魔法をかけられているようにも思える。



 でもどちらにしても、もう駄目だ。ジェシカはきっと俺の事をすごく怒っているに違いないからジェシカの本心を聞きだすなんて不可能だ。

 

アラン王子、俺達はもう終わりましたよ・・・。ジェシカに完全に嫌われてしまったのですからね・・・。


ああ、早く里帰りして失恋の傷を癒したい―。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る