第1章 6 王家の別宅
私がアラン王子に連れられてやってきたのは立派な門構えに紋章が刻まれた巨大な屋敷であった。屋敷の前には1人の門番が立っており、アラン王子を見ると素早く敬礼した。
「これはアラン王子様!よくぞいらっしゃいました!」
「ああ、今夜この屋敷で休ませてもらうぞ。」
「はい!承知致しました!すぐに執事を呼んで参ります!」
門番は素早く屋敷の奥へと走り去って行く。
「あ、あの~ここは何処なのでしょう?」
私が恐る恐る尋ねると、アラン王子は当然のように言った。
「ああ、この屋敷はセント・レイズシティにある王家の別宅だ。」
「そ、そうなんですね・・。」
ああ~やはりそうでしたか。けれどいくら静かな場所で話がしたいと言ったけど、わざわざ王族の別宅に私を連れてこなくても良かったんじゃ無いの?その辺のカフェで十分だったのに・・・。
そんな事を考えていると、奥からバタバタと誰かが走って来る足音が聞こえてきた。
そして髪をオールバックにしたロマンスグレーのおじ様が現れた。
おおっ!これはなんと・・・渋い方なのでしょう・・。
黒の仕立ての良い上下のスーツに真っ白なワイシャツ。きちんと結ばれたネクタイ。
極めつけはその顔だ。今も十分素敵なお顔だが、若い時は相当モテたのではないだろうか?
「これは、アラン王子様。お久しぶりでございます。入学されてからはまだ1度しかこの屋敷に足を運んで頂けておりませんでしたので、もういらして頂けないのではと思っておりましたが・・・、再びこちらにお越し頂き、感謝致します。」
深々と頭を下げる。そして私をチラリと見ると、早速アラン王子に尋ねてきた。
「あの・・アラン王子様、こちらの女性はどちら様でしょうか?」
「ああ、彼女の名前はジェシカ・リッジウェイ。俺の大切な客人だ。今日はもてなしをしたくて彼女をここに連れて来たのだ。」
「何と!ついにアラン王子様にそのような女性が・・・!はい、承知致しました!すぐに応接室にご案内させて頂きます!」
すると何故かそれを制するアラン王子。
「いや、応接室には俺が連れて行く。お前はお茶のセットを用意してくれれば良い。それじゃ行こうか。ジェシカ。」
「はい、承知致しました。」
ロマンスグレーのおじ様は深々と頭を下げると、すぐに去って行った。
「あの・・・今の方は・・?」
アラン王子に案内され、歩きながら私は尋ねた。
「ああ、彼はこの屋敷を管理している執事だ。」
なるほど・・・執事ですか。道理で品のある方だと思いました。
それにしても何と立派な屋敷なのだろう。日本にいた時に私が一時夢中になって見ていた王宮ラブロマンスドラマに出てくるような作りだ。廊下の床にはビロードの真っ赤な絨毯。天井には立派なシャンデリア、大きなガラス窓からは温かな日差しが差している。
こんなに立派な別宅があるのに、何故アラン王子は1度しか訪れていないのだろう?この屋敷を管理している人達の為にも、もう少し足しげく通って上げても良いのに。私がアラン王子の立場だったら、きっと休暇の度にこの屋敷へ来ては泊まっていくのにな・・・。
等と考え事をしている内に、アラン王子に声をかけられた。
「着いたぞ、どうしたんだジェシカ?何やら考え事をしていたようだが・・?」
突然顔を覗き込まれて私は驚いた。
「ア、アラン王子・・。お、驚かさないで下さいよ。」
「いや?別に驚かせたつもりは無いが・・・それじゃ、中に入ってくれ。」
アラン王子はドアを開けながら言った。
そして目の前に広がった光景に私は思わず感激の声を上げてしまった。
「う・・うわあ・・!何て素敵な応接室・・・!まるで一流ホテルみたい・・!」
巨大な室内は清潔そうな真っ白なカーペットにはアクセントの赤いラグマット、柄の美しい2脚のソファセットの中央にはこれまた豪華な丸テーブルが置かれている。
大きな掃き出し窓からは外へと出る事の出来るバルコニー。そこからは庭園が見える。
部屋に中は大きな暖炉が赤々と燃え、室内を温めていた。
アラン王子は私がこの屋敷に感動しているのを見てか、照れ臭そうに言った。
「そう・・・か、こんなにジェシカが喜ぶならもっと早くここに連れて来るべきだったな。」
「いえいえ、そんな恐れ多い事ですよ。でも・・王族の別宅に私みたいな者を招き入れても良かったのですか?」
すると何故か顔色を変えるアラン王子。
「な・・お、お前・・本気でそれを言っているのか?ジェシカは王族の次に爵位が高いじゃないか。ジェシカを連れてこずして、他に誰を連れて来ると言うのだ?!」
あ、そうか。自分で自分の爵位の事すっかり忘れていた。何せ最近は私とマリウスの主従関係が崩れてきているような気がしていたからなあ・・。
「と、とに角座ってくれ。」
アラン王子に勧められてソファに座る私。おおっ!さすがは一流の家具!座り心地が全然違うっ!
その時、ドアがノックされて声が聞こえてきた。
「アラン王子様、お茶のセットをお持ち致しました。」
「そうか、入ってくれ。」
直ぐにドアが開けられ、姿を現したのは先程の執事と少し年配のメイド長・・さんかな?がお茶のセットが乗ったワゴンを押して入って来た。
「失礼致します。」
メイド長(仮)さんは次々とお茶のセットをテーブルの上にどんどん乗せて行く。
スコーンにプチケーキ、小ぶりサイズのサンドイッチ、クッキー、マカロン・・
あれよあれよという間にテーブルの上は一杯になってしまった。
あの~まだ朝ですよ?私朝食を摂ってまだあまり時間が経過していないのですが?
アラン王子も何故か渋い顔をしている。
きっとあの顔は・・・私と同じ事を考えているのかもしれないな・・。
「アラン王子様、他に御用命は・・・?」
執事さんが言いかけたのをアラン王子は手で制すると言った。
「ああ、後は大丈夫だ。それと・・この後は誰もこの部屋に来るなよ。」
「は、はい・・。承知致しました・・・。」
執事さんは首を傾げながらも承諾し、メイドさんと一緒に頭を下げると退出して行った。
「ジェシカ・・・。朝食を食べて間もないと思うが・・気が向いたら適当に食べてくれ・・。」
アラン王子はげんなりした顔で言う。そういう私だってこんなに沢山甘い食べ物ばかり並べられても困る。飲んべの私としてはどうせならしょっぱいものが欲しいなあ・・・。そう、この間食べ損ねてしまった<ラフト>みたいな物を・・。
「ま、まあ食べ物は置いておくとして・・・話と言うのは何だ。」
コホンと咳払いするとアラン王子は私に尋ねてきた。
「アラン王子がアメリアさんを好きになった経緯を教えて頂きたいのですが・・。」
「な・・・何故またその話を蒸し返すのだ?!お、俺はもう彼女の事は何とも思っていないのだぞ?!」
思いきり否定するアラン王子。しかし、傍から見るとこれでは最低な男では無いだろうか?自分からあれ程アプローチをしていたにも関わらず、あっという間に興味を無くして、まだ私に未練を残しているなんて。
まあそれはアラン王子に限らず、生徒会長やノア先輩、ダニエル先輩にも言える事なのだが・・。
しかし私が聞きたいのは言い訳とかそんなものでは無い。
「アラン王子・・・アメリアさんを見た時に何か感じませんでしたか?抗ってはいけない雰囲気とか、後は例えば、甘い香り・・とか・・?」
「甘い香り・・・?」
「はい。」
そう、私の考えではひょっとするとアメリアをアラン王子達が一瞬で恋に落ちてしまったのは催眠暗示をかけられたのではないだろうか?
以前私をこの町で襲って来た4人組の学生・・・ソフィーからお金を受け取り、私を怖い目に遭わすように依頼を受けた時に漂っていたという甘い香り・・・。
それでも腑に落ちない事には変わりは無いのだが。アメリアがそんな真似をするとは到底思えない。
「言われてみればそんな気がしないでも無いが・・・すまん。よく覚えていない。」
「そうですか・・・。」
まあ、あれからひと月以上も時が流れているのだ。覚えていなくても仕方が無いのかもしれない。
それなら後聞きたい事は・・・。
「アラン王子、本当に学院を辞めなくてはならないのですか?たった1度成績が上位から落ちだけで退学しなくてはならないのですか?」
今王子に学院を辞められては・・・正直困るっ!私の小説の展開が全く変わってしまう!仮に魔界の門が開いてしまった場合・・・唯一門を封印する事が出来るアラン王子がいなくては、この世界はとんでもない事になってしまう。
するとアラン王子は急に立ち上がり、私の傍へ来ると突然ギュッと手を握りしめて言った。
「そうか、ジェシカ。お前はそれ程迄に私に学院を辞めて欲しくは無いのだな?そこまでしてこの俺を・・・思っていてくれたのか・・・っ!」
何だか果てしなく勘違いをされてしまっているような気がする・・・・。
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