第11章 11 良いお友達でいましょう

 あの後・・・

私はアラン王子を始め、3人から詳しく事情を聞かされる事になった。別に私としては彼等の恋愛事情など聞く気も無かったのだが、強引に話をするので渋々聞いてあげる事にしたのだ。


 ダンスパーティーでアメリアを見た途端、アラン王子は雷に打たれたような衝撃を受け(自分でこの表現をして語った)、もうアメリカしか目に入らなくなってしまったそうだ。そこで翌日の休暇に強引にデートに誘った所、そこを偶然通りかかった生徒会長が、アメリアに一目ぼれして強引に町まで付いてきてしまった。

そして今度はたまたま一緒にいたダニエル先輩とノア先輩が(逆に私としては何故この2人が町で一緒だったかの方が気になって仕方が無い)アメリアを見て、これまた強く惹かれてしまい、恋に落ちた?らしい。

 彼ら曰く、何故あの時自分がそのような気持ちになってしまったのかはいまだに理解できないと語っている。

そして今朝もアメリアを取り合っていた所に、彼等が私とマリウスが一緒の所を目撃して再び私への愛情が募ったそうだ。


 けれども突然手の平を返すには体裁が悪いのでこのような手段を取ったらしいのだが・・断じて!私は彼等を許す訳にはいかない。

 彼等がアメリアを好きになった事等は私にとってどうでも良い。ただ、今回の紛らわしい態度だけは頂けない。

ある意味、この小説の展開を知っている私にとってはこの呼び出しは寿命が縮まる物だったのだ。なので自分たちの都合だけで、あのような脅迫?めいた態度を取る彼等の身勝手さが許せない。


 それにしても・・・アラン王子の話しぶりから、昨夜の出来事が出てこなかったと言うのはやはり、確実に記憶を消されているに違いない。本当に一体誰なのだろうか?一晩で大勢の記憶を消し去る事が出来る人物なんて・・・。この人物が味方についてくれればこの先も私は裁きを受けなくても済むのではないだろうか?

 

 私が黙りこくって考え事をしていると、突然生徒会長の爆弾発言が飛び出した。


「で、どうだ?ジェシカ。当然俺達の事を許してくれるのだろうな?人間誰しも過ちは犯すものだ。そしてそれを許す事が人としての度量を試されるのだと思わないか。」


はあ?何言ってるの?このポンコツ生徒会長め。

あのですねえ・・・許しを請いたいならそのような相手を威嚇するような眼つきに、そんな傲慢な態度を取ってはいけないのですよ。本当にこんな人間が会社にいたとしたらすぐにリストラ確実だろう。


「別に・・・もういいですよ。」

私は溜息をつくと言った。こんな男に言い聞かせても時間の無駄だ。


「本当だね?それじゃ今まで通り・・・。」


ダニエル先輩が嬉しそうに身を乗り出してきた。先輩・・・世の中そんなに甘くはありませんからね。


「はい、これからも皆さんとは でいたいですね。」


「「「「お友達・・・。」」」」


4人全員がショックを受けた顔で私を見る。でも当然でしょう?どうか私以外で素敵な恋人を見つけて下さい。


「あの・・・。そろそろいいですか?お腹が空いたのでお昼を食べに行きたいのですけど・・。」

もうこんな無駄な時間を過ごしていたら貴重なランチタイムが無くなってしまう。


「そ、それなら俺達と一緒に・・・っ!」


生徒会長の言葉を私は制した。

「いいえ、遠慮致します。お昼は私抜きで皆さんで食べて下さい。それでは失礼致します。」

冗談じゃない。彼等と一緒に食事など気疲れするだけだ。

丁寧に頭を下げると、呆気に取られる彼等を残し、教室の鍵を開けると出て行った。

後に残された教室からは男達の叫び声が響き渡るのだった。

あー煩いなあ・・。



 全くあの4人のせいで色々酷い目に遭ってしまった。厄病神どもめ。

何故あのままアメリアの元にいてくれなかったのだろう?ひょっとすると誰かに何らかの暗示でもかけられていたのだろうか?

それとも本来のヒロインであるソフィーが、私というイレギュラーな存在によって話のバランスが崩されてしまい、強い補正力が働いた結果ヒロインがアメリアにとって代わった・・・?


 けれどもどのみち、私はもう彼等と必要以上に親しくするつもりは無い。でも夢で出てきたジェシカが裁かれる場面では一生懸命彼等は(ただし、アラン王子を除く)ジェシカを庇ってくれていたから、あまりつれなくするのはやめておこうかな。


 そう言えば・・・何故あの時、マリウスやグレイ、ルークが居なかったのだろう?彼等は一体どこへ・・・?

「まあ、いっか。それより何処かでランチを・・・。」

食べる場所を探す為にキョロキョロしていると、目の前に今週オープンしたばかりのカフェが目に入った。ガラス張りの店内はピーク時を過ぎた為か、まだ座席に余裕がみられたので、此処に入る事に決めた。


店内に入ると、メニュー表の横に内容が詳しく説明されていた。

あ、これなんか良さそう。私はミートパイとサラダにフライドポテトとスープのランチセットを注文した。 




 「美味しい〜っ。」

私は熱々のミートパイを食べながら、思わず声に出してしまった。このカフェ、気にいった。また来ようかなと考えていた時だ。


「よう、ジェシカ嬢。昨夜は大変だったな?」


突然声をかけられた。見上げると、そこにはニヤニヤと笑っている男子学生が立っていた。

あれ・・・何だか何処かで見たような顔だな・・・?

すると男子学生は私が何も言う前から勝手に椅子を引くと、目の前の席にドカッと座ってくるではないか。

「あの〜・・・。どちら様でしょうか?」

って言うか、何故そこに座る?空いてる席なら他に沢山あるでしょう?!


「まあ、いいから、いいから。」


よく見ると、その男子学生もランチを食べるつもりなのか、目の前にはキングサイズのハンバーガーセットが乗っていた。


「ほら、コーヒーあるぞ。確か、コーヒー好きなんだよな?」


男子学生は追加でコーヒーを頼んでいたのか、私のトレーに乗せた。


「この店はな、セント・レイズシティでコーヒー豆を扱っているカフェなんだ。学生達に好評だったから、新しくこの学院内にチェーン店として出店してきたんだぜ。」


「うわあ、そうなんですか?随分詳しいんですね。それではありがたく頂きます・・って言うか。貴方誰なんですか?私の事知ってるみたいですけど・・・。」

いけない、いけない。ついコーヒーで絆されそうになってしまった。どうも私は飲食物につられやすい。


「あれ?それは寂しいなあ・・・。本当に俺の顔、見覚えが無い?」


え・・・・?私は改めてマジマジと顔を見つめて・・・。

「あ〜っ!!」

思わずガタンッと立ち上がって指を指してしまった。


「なんだ、やっと思い出してくれたみたいだな?」


一方の男子学生は何だか嬉しそうだ。

お、思い出したっ!この男は昨夜私とライアンがサロンにいた時に入り口付近でお酒を飲んでいた人物だ。

そして途中でアラン王子達が乱入してきて、揉め事に・・。

彼等にバレない様にこっそりライアンと2人で逃げ出そうとした所、私達の存在をバラし、そのお陰で私達は酷い目に・・・!


「あ、貴方ねえ・・・っ!昨夜は一体どういうつもりだったんですか?!貴方のせいで酷い目にあったんですよっ!」

私はテーブルをバンッと叩いて目の前の男を睨みつけた。


「うん、実にいいな〜美人に睨まれるのは。何だかゾクゾクする。」


妙に嬉しそうに言う男。え?何それ?もしかしてこの男もマリウスみたいにヤバイ性癖の持ち主なのだろうか?私の相手を見る目がドンドンと冷めていく。


「あれ?今俺の事、こいつヤバイ奴じゃね〜?みたいに思ったりした?その冷たい視線もそそられるね~」


あ、駄目だ。この男もマリウスと同類のM男だ。私はジト目で相手を見ると言った。

「貴方、そう言えば見覚えがあると思っていたらライアンさんの友達の1人ですよね?何故親友のライアンさんを困らせるような真似をしたのですか?」


「そんなの簡単だ。吊り橋効果だよ。」


「吊り橋効果?」


「ええ?あんたもしかして吊り橋効果を知らないのか?」

男は驚いたように目を見開いた。


「いいえ、知っていますよ。一緒にいた相手と危険を共有し、ピンチを切り抜けた時に芽生える恋愛感情の事ですよね?それが何か?」


「鈍いな~ジェシカ嬢は。そんなの決まってるだろ?ライアンの為さ。何せライアンはあんたにベタ惚れしてるから何とか力になってあげたかったのさ。」


何だか飄々と話す口ぶりはどこか軽い男のように見えてしまう。ライアンは真面目なのに、どうしてこういうタイプが親友なのだろう?

けれども、昨夜の事を覚えていると言う事は、この目の前の人物が『忘却魔法』を使ったに違いない。


「まあ、もうその話はいいです。ところで、貴方が使った忘却魔法について教えて頂きたいのですけど・・・。」


「え?忘却魔法?何の事だ?俺がそんな魔法使える訳無いだろう?」


男はきょとんとした顔で言った。

え?それではあの魔法を使ったのは一体誰なのだろう―?















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