第9章 5 受難は続く

「え~と・・ライアンさん・・。今のはどういう意味・・なんでしょうか?」

私は首を傾げながら尋ねた。俺の住む領地に来て欲しい?つまり遊びに来て欲しいって事だよね?2日間・・・って事は泊まりにおいでって事ですよね?


「あ、ああ・・・。正確に言えば・・その、クリスマスに俺の住む領地に遊びに来ないかって誘ってるんだ・・。」


 若干顔を赤らめ、私から視線を逸らすように言うライアン。う・・・この賭けって受けて良い物なのだろうか・・?でも、待てよ?賭けって事は私からも何か条件を提示しないと駄目だよね?そこでライアンに尋ねてみた。

「あの・・・ちなみに私が賭けに勝った場合はどうなるのでしょうか・・?」


「あ、そうだよな。賭けって事はお互いに何かを賭けないと成り立たないよな?

そうだな・・・。俺には思いつかないから、ジェシカが決めてくれないか?」


そんな事言われてもなあ・・・。困ってしまう。あ、いい事を思いついた。ライアンに知り合いの女生徒がいるなら生徒会長に紹介してもらおう!


「ライアンさんは親しくしている女生徒って大勢いるんですか?」


「・・・・。」

すると、何故かライアンは白けた表情で私を見る。


「どうしたんですか?いるんですか?いないんですか?」

さらに問いかける私。


「ジェシカ・・・仮に、俺に親しい女生徒がいるとしたら・・どうするつもりだ?」

少し口を尖らせるようにライアンが言った。


「それなら、彼女候補にして下さい!」


「え・・?か、彼女候補って・・・・?」


何故か青ざめていくライアン。うん?何かまずい事を言ってしまっただろうか?


「彼女を作れって・・言ってるのか・・?」


酷く傷ついたように項垂れるライアン。

「ええ、生徒会長に彼女を作って貰いたいんです。」


「え?生徒会長に・・・か?」

パッと顔を上げるライアンに先程の陰りの表情が消えていた。


「はい。生徒会長には本当に迷惑してるんです。何故か気にいられてしまったらしく、しつこく付きまとってくるんですよ。でも、こんな言い方は良くないと思うのですが、正確に致命的な欠陥がある生徒会長には困り果ててるんですよ。だから誰か別に生徒会長が興味を持てる女生徒が現れないかと、ずっと考えていたんです。」


「そうか、ジェシカは生徒会長には全く興味が無いって訳か?」


何やら嬉しそうなライアン。やはりライアンも生徒会長が苦手なのだろう。私とは気が合いそうだ。


「ちなみに・・・ですけど、アラン王子も無いですね。」

ばっさり切り捨てる私。


「え?お前・・・アラン王子まで嫌だったのか!そうか、って事は・・・相手の男の身分など関係無いって事なんだな?」


妙に食いついてくるライアン。でも確かに彼の言う通りだ。

「当然じゃ無いですか。いくらお金や権力があったって、人格に問題があったり、致命的な欠陥があるような人間は駄目ですよ。」

そうそう、性格第一。


一方のライアンは、そうか、それなら俺にも望みがまだあるはずだとか、何やらブツブツ独り言を言って、勝手に納得している。


「で、どうなんですか?ライアンさんはお友達多そうですし・・・女性友達も大勢いるんじゃないですか?」

私はグイッと身を乗り出して尋ねた。


「あ・・ああ・・。まあ何人かはいるけど・・でもどうだろうなあ・・?」


しきりに首を捻っている。確かにあの生徒会長はその人柄を知れば知る程にドン引きしたくなる人間だ。その証拠に、顔は強面だがイケメンの分類に入るのに、4年目の学院生活になるのに恋人の1人としていないのだから。


「そうですか、いないなら仕方が無いですね。じゃ、賭けも無しにしましょうか。」

他に賭ける対象物が思い当たらなかった私は仕方なしに言うと、何故か非常にライアンが焦ったように言った。


「い、いや、それは待て。う・・ん、よし。分かった!俺の知り合いに何人か声をかけてみるから、さっきの賭けの話は無しにするなよ?」


「ええ・・。分かりました、もし私が賭けに負けたらライアンさんの領地に伺いますよ。でも、何故私を誘うんですか?」


「な、何故って・・・そ・それは・・。」


「あ!もしかすると珍しいお酒を領地で作っているんですか?それをご馳走してくれる為とか?」


「あ・ああ・・。確かに俺の国では地酒造りが盛んだが・・。いや、それだけじゃないんだ・・。俺の住んでいた領地は雪深い国なんだが、クリスマスの季節は盛大に祭りを行うから誘ってみたんだ。」


ポツリポツリと語るライアン。

「そうなんですか?それなら賭けなんて回りくどい言い方をしないで正直に話して頂ければ良かったのに。」


「え?!ならクリスマス、来てくれるのか?!」


と、その時—。


「困るな・・・ライアン。君は1人ぬけがけするつもりなの?」


突然私達の真上から声が降って来た。その声は・・・。


「ノ、ノア先輩・・・。」

私の声が上ずる。


「ライアン、いつの間に君はジェシカとそんな親しい仲になったのかな?僕だってまだ彼女を邸宅に誘っていないって言うのに・・・君って意外と女性に手が早かったんだねえ・・。真面目な青年だと思っていたのに。」


妙にとげのある言い方をするノア先輩。一体いつから私達の話しを聞いていたのだろう?


「ッ!お、俺は・・・。」


途端に俯くライアンさん。流石に今の言い方は酷い気がする。

「ノア先輩・・・今の言い方は良くないと思いますけど・・?」


「何故?君は僕よりライアンを選ぶって言うの?」


悲しげな顔でノア先輩は言った。


「はい?」

 私がライアンを選ぶと言いましたか?確かに彼には色々お世話になったり、迷惑をかけてしまった事もあるけれど、単なる友人の1人でしかない。ノア先輩は一体どんな勘違いをしているのだろうか・・?


「話は聞いたぞ。賭けをするそうだな?」


その声は・・・出た!暴君生徒会長だ!


「よし、この俺もその賭けに参加する事にしてやろう!」


え、ちょっと待って下さい、生徒会長。貴方は何処から私達の話を聞いていたのですか?大体生徒会長が賭けに参加するなどあり得ない。とんでもない話だ。


「駄目です!ユリウス様は賭けに参加しないで下さい!」


「何故だ!何故駄目なのだ?!」


「理由などお話したくありません!兎に角駄目なものは駄目なんです!」

私だって引いてはいられない。


「ククク・・・そうきたか・・・。」


突然下を向いて何やら不敵な笑い方をする生徒会長。その様子に思わずたじろぐ私達。


「ハッハッハッ!つまり、俺は賭けに参加せずとも必ずこいつ等に勝ってしまうから参加するなと言いたいのだろう?!」


ノア先輩とライアンを指さしながら笑う生徒会長。まるでその笑い方は悪の帝王のようだ。チッ・・・この生徒会長、ますます頭の回路が飛んでしまっている様だ。

思わず心の中で舌打ちしてしまう。そして流石のノア先輩やライアンも気味悪そうに生徒会長を見つめている。


「生徒会長・・・以前はもう少しまともな人間だったのに、ここ最近おかしくなってきているようだ・・・。」


ライアンが言う。


「確かにライアン、君の言う通りかもね。ジェシカが絡んでくるとどうも生徒会長は正気を保てなくなってしまうみたいだ。まさに君は魔性の女なんだね、ジェシカ。」


ノア先輩は私の方を振り向くと言った。ちょ、ちょっと待って下さい!よりにもよって先輩にだけはそんな言われ方されたくないんですけど!


「こうなると、ますます生徒会長にだけはジェシカを渡す訳にはいかないな。」


ライアンは小声でそっと呟いた。


「それなら、尚更賭けに勝って生徒会長からジェシカを守らないとね。」


何故か意気投合するノア先輩とライアン。

あ・・・何だかまた嫌な予感がする・・・。



そしてその後、案の定私の予感は見事に的中し、仮装ダンスパーティで私の仮装を見破った相手が冬の休暇を私と過ごせる権利を得られるという謎のゲームが開催される事になってしまうのだった・・・。


 最期までアラン王子は反対していたが、結局今回ばかりは周りの説得に応じざるを得なかったようである。

 

 よりにもよって絶対参加して欲しくないアラン王子と生徒会長まで加わるなんて最悪だ。何とかしなければ・・・。私は溜息をついてつくづく思った。

何処かに逃げたいと—。












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