第8章 14 メアリ先生、大爆笑

 私は今医務室に来ている。カーテンを引かれた奥ではアメリアがベッドの上で寝かされていた。


「大変だったわね。はいハーブティーをどうぞ。」


温かい湯気からハーブの良い香りが部屋を満たしている。

「ありがとうございます。」

私はマリア先生からハーブティー入りのカップを受け取ると、一口飲んだ。

「美味しい・・・。」

酸味のある中に、少し甘みを感じられて私は少しだけ気分が落ち着いた。


 アメリアが倒れたあの後は、大変だった。図書館にたまたまいた数人の男子学生達に声をかけ、皆で医務室から担架を借りて4人がかりでここへと運んできたのだった。アメリ先生と2人で彼等にお礼を言うと、安心したように帰って行った。

そして、今は奥のベッドで眠っているアメリアと私、メアリ先生の3人きりとなっている。



「でも、一体どうしたんでしょうか・・・。私と普通に会話していたのに、突然苦しみだして『記憶の書き換えが』と言って倒れてしまったんですよ。」


 私はメアリ先生に信じて貰えるかどうかは分からないが、これまでの経緯を全て説明した。初めて会った時はソフィーと言う女子学生と同じ制服を着て一緒にいた事、

一度だけホールで会った事や、町で出会った時「信頼できる仲間を増やして」と書かれたメモを貰った事、私の予知夢?に出てきて助言をくれた事等全てを。

 メアリ先生は驚きながらも最後まで私の話をじっくり聞いてくれていた。私の説明の後、しばらく先生は腕組みしながら目を閉じていたが、やがて口を開いた。


「そうねえ・・・。確かにジェシカさんの言う通り彼女は謎だらけの人物ね。でもまさか彼女がジェシカさんの夢に出てきた人物だったなんて・・・。恐らく彼女は何か隠された、それこそ貴女の運命を左右する重要な秘密を持っているのかもしれないわ。それに最後の言葉が引っかかるわね。」


 真剣な眼差しで話すメアリ先生。確かに私もアメリアが気を失う前に言った最後の言葉がどうしても気になって仕方が無かった。

いや、そもそもアメリア自体が謎だらけなのだ。入学当初はソフィーと一緒に学生服を着ていたし、一度は何故かホールで1人でいた時もある。それに私に訳の分からないメモを渡して来たり、夢にも出てきた事がある。本当に不思議な存在だ。

 けれども、私もアメリアの事を言える立場では無い。それは私自身も本来ならこの世界にいてはいけない存在なのだから。


「でも、職員名簿を見ると確かに彼女はこの学院の図書館司書になってるわね。半月ほど前から勤務しているみたいだけど・・・。随分半端な時期よね。本来なら新学期と同時に勤務が始まるのに。」


 職員名簿を見て首を傾げながら言うマリア先生。言われてみれば確かにそうだ。でも新学期早々にアメリアと会った時には彼女はこの学院の制服を着ていた学生だった。それが何故突然、記憶を無くして学院の前に倒れていたのだろう?あの時そう話してくれたアメリアは嘘をついていたようには見えなかった。


「結局、彼女が目覚めるまでは何も分からないわね。で、どうする?ジェシカさん。ここにまだいる?それとも・・・授業に戻る・・・って感じでは無さそうね?白状なさい?どうして2限目の授業をさぼって図書館にいたのかしら?」


 メアリ先生の目が好奇心でキラキラと輝いている。う・・・こ、これは白状するまで解放してもらえなさそうだ。仕方が無い、私は観念してメアリ先生に何故図書館に居たのかを話す事にした。す~っと深呼吸すると私は言った。

「アラン王子から脅迫状を受け取ったんです。」


「ふ~ん、そう。脅迫状を・・・えええっ?!き、脅迫状ですって?!」

メアリ先生は危うく手に持っていたハーブティーを驚きのあまりこぼしそうになった。


「これです・・・。」

私はそっとメアリ先生にアラン王子の手紙を渡した。


「私が読んでもいいのかしら?」


「はい、どうぞ。今朝私の机の中に入っていたんです。」


「どれどれ・・。」


メアリ先生はアラン王子からの手紙を読み始めたが、すぐに見る見るうちに顔色が変わっていく。終いには肩を震わせ始め・・・・。


「アハハハハハッ!!何、これ!おっかし~いっ!!」


目に涙を浮かべ、お腹を抱えて大笑いを始めたのだ。え?私が思っていた反応と違う?先生、ここは怖がるべきじゃないですか?


「ちょ、ちょっと、先生!何笑ってるんですか!人の事だと思って・・ちっとも笑い事じゃないですよ?!」


「だ・・・・だって、これ!どう見てもおかしいでしょう?!アハハハッ!あ~もう駄目!おかしすぎて死にそう!」


 未だにヒ~ヒ~言いながら笑ってるメアリ先生。全く・・・もういいわ。先生の笑いが治まるまでそっとしておこう。


・・・それから約10分後、ようやく笑いが治まったメアリ先生は言った。


「しかし、流石に我儘王子様ね。彼、本当にこれでも18歳なのかしら?まるで子供ね。大好きな物を取られたくないような。」


メアリ先生は椅子に座り、笑いを堪えながら話している。


「だから、苦手なんですよ。いくら王子様だからって性格に欠陥があるような人間は絶対に受け入れられませんからね。」

私はぬるくなったハーブティーを飲んだ。


「う~ん。確かにこの手紙はちょっと無いわね。プ、しかしペ・ペアルックって・・・。」


再び両肩を震わせるメアリ先生。


「先生、笑ってばかりいないで何か対策一緒に考えてくださいよ!このままじゃ私ペアルックを着させられたうえに仮装ダンスパーティーの衣装までお揃いにされて、挙句の果てにはアラン王子と強制参加させられそうなんですから。」

私は藁にも縋る思い出必死に懇願した。


「そうね・・・、よし。分かったわ。今度の休暇の前日までに必ずアラン王子と一緒に町へ行く事が出来なくなる口実を作ってあげるわ!」


私に任せなさいと言わんばかりに自分の胸を叩くマリア先生。お~っ!これは頼もしい!流石はマリア先生。

「はい、よろしくお願いします。」

頭を下げる私にマリア先生は言った。


「ところで、これからジェシカさんはどうするのかしら?アメリアさんが起きるまでここで待つ?」


「そうですね。下手にここから動いてアラン王子に見つかるのは非常にまずいので、アメリアさんが目を覚ますまではここに居させて下さい。」



「フフフフ・・・。いいわよ~。その代わり、た~っぷりジェシカさんのお話聞かせてね?」


あ・・・何だか非常に嫌な予感がする・・・・。と、その時。


「う・・・ん・・・。」

ベッドが置かれているカーテンの奥から呻き声が聞こえた。あ、あの声は・・・?

まさかアメリアさんの目が覚めた?


「アメリアさん?目が覚めたのかしら?開けるわね。」


ベッドに近寄るとカーテンをメアリ先生はシャッと開ける。


「あ・・・こ、こは・・?」


アメリアがベッドに寝たまま辺りを見渡し、小さく呟いた。


「良かった、目が覚めたんですね?アメリアさん。」

私はアメリアに近寄ると声をかけた。しかし、彼女返事をしないばかりか、キョトンとした様子で私を見ている。

「アメリアさん?どうしたの?」

もう一度声をかけても、やはり何も言わず不思議そうな顔で私を見つめる。


「あら、どうしたのかしら?アメリアさん。覚えている?貴女は勤務する図書館で急に意識を失って、ジェシカさんによってここに運び込まれたのよ?」


「あの・・・アメリアって誰の事ですか・・・?貴女方は誰ですか?どうして私はこんな所に居るのでしょうか・・・?」



え―?

アメリアの問いに私は背筋が凍りそうになるのを感じた・・・・。











 

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