第8章 13 アラン王子からの脅迫状
「ジョセフ先生、マリウスを信頼しても良い人物かって一体どういう意味ですか?」
私は驚いて尋ねた時、授業開始5分前の予鈴が鳴ってしまった。
「ああ、ごめんね。リッジウェイさん。僕はこれから1限目の講義に出ないとならないから。君も講義があるんだろう?遅れなように早く教室に行った方がいいよ。後・・
ごめんね。さっきの話の件はもう忘れてくれないかな?それじゃあね。」
言うと、そそくさと先生は立ち去ってしまった。何?さっきのはどういう意味なのだろう?大体何故まだ会って間もない、殆ど面識もないマリウスの事をそんな風に言うのだろうか?もしや、マリウスがMだと言う事に気が付いたのか?
いや、恐らくそれは無いだろう。女生徒はきっとマリウスの本性を知らないだろうし、アラン王子達にしても気が付いているかどうかさえ分からない。
もしかすると、ジョセフ先生は潜在的にMを見分ける事が出来る才能でも持っているのか・・?
いや、恐らくそれは違う。ジョセフ先生が言いたいのはそんな事では無いはずだ。だとしたら、もっと別の意味合いの・・・何かマリウスには私の知らない何かがあるのかもしれない。でも、あったとしてそれを私が知らないのは当然だ。何故なら私は本物のジェシカでは無いからだ。
「マリウス・・・。」
私は思わずマリウスの名前を口に出していた。
授業開始ギリギリ前に教室に滑り込んだ私を待っていたのはエマだった。
「ああ、良かった、ジェシカさん。遅刻してしまうのかと思ったわ。」
「え、ええ・・。ちょっとジョセフ先生と会ってお話していたものだから。」
詳しい話は聞かずにそれだけ伝えると、エマは納得したように頷いた。
「ああ、それで遅くなってしまったんですね。」
席に着くと、私は前方に座っているマリウスの姿を見つけた。でも何も変わったところは感じられない。が・・・何故かルークがいない。あれ・・?もしかすると病欠なのだろうか?それで今朝は現れなかった・・・?
その時、後ろを振り向いたアラン王子と目が合った。王子は何か言いたげに私を見ると、机の中を指さすジェスチャーを示し、再び前を向く。
今のは一体何だろう・・・?首を傾げながら机の中に手を入れると、何か固い紙が指先に触れるのを感じた。
うん・・・?何か入ってるみたいだけど・・・?
そ~っと出してみると、それは手紙で私宛だ。おまけに『必ず読め』とご丁寧に書いてある。
やれやれ・・・王子様の命令に逆らう訳にはいかない。でもこの手紙、いつまでに読めばいいのだろう?今日中?それともこの授業中にでも読めと言ってるのだろうか?
でも俺様王子の事だ。きっと授業中に読めと言う事なのかもしれない・・。
まあ、いいか。今の授業はこの国の歴史について。この世界の創造主たる私には歴史の授業を受ける必要など無いからだ。
幸い?手紙には封をしていなかったので、そっと手紙を取り出すと、机の下で隠す様に私は手紙を読みだした・・・。
ジェシカへ
最近、今自分が置かれているこの状況がおかしいとは思わないか?何故お前と同じクラスなのに一緒に登校するどころか、昼食や夕食、そして夜まで一緒にいられる回数迄制限されなければならないのだ?仮にも俺は一国の王子だぞ?
ジェシカ、お前も理不尽だとは思わないのか?今朝はルークがお前に付き添う予定だったのに具合が悪いので今日は学校を休ませて下さいと俺に言って来たのだ。だったら俺がルークの代わりにジェシカを迎えに行こうとすると、アイツらが寄ってたかって引き留めたんだぞ?仮にも王子の俺に対してだ。あまりにも理不尽だと思わないか?
だから、俺は決めた。ジェシカ、来週行われる仮装ダンスパーティーだが、今度の休暇に俺と一緒に着ていく衣装を買いに町へ二人きりで行こう。勿論ペアルックで買い物へ行くからな。この日の為にお前に似合いそうな服を選んで王宮御用達の衣装係に作らせておいたのだ。きっと感動で震えるだろう。
そして、仮装パーティーについての衣装だが・・そうだな。お前には一体どんなドレスが似合うだろうか。
お前はどこか妖艶なイメージがあるから、男を誘惑する魔女のようなドレスなんてどうだ?そして俺はお前に誘惑され、心を奪われてしまった哀れな男・・・お前の瞳は珍しい紫の色をしている。その瞳と同じパープルカラーの衣装を勧める。
いいか、今度の休暇・・・絶対時間を開けとくように。これは命令だ。
怖っ!!何、この手紙、すごーく怖いんですけどっ?!これはもはや手紙でもラブレターでも何でもない、単なる脅迫状だ。それにいつこんな長文の手紙を書いたのだろう?怖い・・・底知れぬ闇を感じる。この手紙には・・。
理不尽に思わないか?ええ、思いますとも!どうして私がアラン王子に脅迫まがいの扱いを受けなければならないのかと言う事にね!今度の休暇に一緒に町へペアルックを着て出かけるだあ?言っておきますけど日本にいた時だってね、彼氏と出掛ける時にペアルックなんて着た事ありませんけど?しかも只でさえ、コスプレの様な服の世界観、しかも王宮御用達?想像もつかない服を着させられそうな気がする・・。
おまけに人の事を妖艶だとか、男を誘惑するだとか・・これでは完全に悪女では無いか。確かに外見はこんなかもしれないけれど、私には誰かを誘惑する気などさらさら無いと断言する。
一体何の罰ゲームなんだろう。あんな俺様王子と2人きりで町へペアルックを着てお出かけなんて考えただけで胃潰瘍になってしまいそうだ。
それに二人で仮装パーテーの衣装等買いに行けば、絶対に俺様王子と一緒に参加しなければならないでは無いか。嫌だ、絶対にそれだけは阻止したい、一体どうすればこのピンチを切り抜ける事が出来るのだろうか・・・?
私は歴史の授業を悶々とした気持ちで過ごす事になった・・・。そんな私を時折心配そうに横目でエマが視線を送っているのに気が付いていた。ごめんね、エマ。休み時間に本当は相談したいけど、私はこの後の授業・・・ボイコットさせて頂きます!アラン王子に掴まっては元も子も無い。何とか今日1日逃げきって、対策を考えなければ・・・。
授業終了のチャイムが鳴ると同時に、私はエマに今日は用事が出来たので帰らせてもらうとだけ告げ、鞄を抱えると逃げるように教室を飛び出した。
何やらアラン王子の呼び止める声が聞こえたような気がしたが、そんな事は構っていられない。
結局、私が逃げ出した先は・・・学院の図書館だった。
本の匂いをかげば、心が落ち着く。静まり返った空間・・・。ドアを開けて中へ入るとカウンターがある。そして、そこに座っているのは司書員の制服を着たアメリアが座っていた。
え?彼女がいる?実は最近図書館に来てもアメリアが居る事は無く、別の司書員がいたので、てっきり辞めてしまったのかと思っていたのだ。
「こんにちは、アメリアさん。」
私はそっと声をかけた。
「まあ、お久しぶりですね。ジェシカさん。」
本の整理をしていた彼女は私を見ると笑顔で挨拶をした。
「またアカシックレコードについての本を探しに来たのですか?」
「ええ・・・まあ、そんな所です。所でアメリアさん、最近こちらに足を運んでもいらっしゃらなかったのですが・・・何処かへ行かれていたのですか?」
何故最近姿を見せなかったのか気になった私は質問した。
「はい、実は研修に行っていたんです。」
意外な答えが返ってきた。
「研修?それは一体・・・?」
「ええ、研修と言うのは・・・・。うっ・・!」
そこまで言いかけて、急にアメリアは頭を押さえてテーブルに突っ伏してしまった。
「ど、どうしたの?!アメリアさん!」
「き、記憶・・・の書き・・換え・・・・が・・・・。」
とぎれとぎれに聞こえてきたアメリアから謎めいた言葉が出てくる。
え?記憶の書き換え・・・?
そして、アメリアはそのままテーブルの上に倒れて気を失ってしまった。
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