第8章 8 女子会

 夜の9時—

部屋着に着替えた私達はリリスが持って来てくれたワインとカフェからテイクアウトしてきた軽い食事を前にお喋りに花を咲かせていた。会話の内容は来週行われる仮装パーティーの事でもちきりだった。


「エマさん、仮装パーティーはどうするの?」

私が尋ねると、エマはポッと顔を赤く染めてポケットから手紙を大事そうに取り出した。


「あの・・・実は、私婚約者に仮装パーティーの招待状を送ったんです。そしたら是非、参加するって彼からお返事が来たんです。」


「え?仮装パーティーってこの学院に通っている人だけが参加できるパーティーだとばかり思っていたわ!」

驚きだ。招待したい人は誰でも誘えるなんて・・・知らなかった。本当に私は自分の書いた小説に入り込んでしまったのに、我ながら無知過ぎる。


「私は1学年上の同じ倶楽部に所属している先輩に誘われたんです。」


少し照れながら言うのはクロエだ。


「そういえばクロエさん、最近ある特定の男性とすごく親しくしていたと思っていたら・・・そういう事だったのね。」


うんうんと頷いているのはリリス。


「あら、そんなこと言ってリリスさんだって同じクラスメイトの男子学生と最近一緒にいるじゃない。昨夜一緒に夕食を食べに行ったのよね?」


シャーロットはビスケットを飲み込むと言った。


「シャーロットさんはどうなの?誰か気になってる人とか・・いないのかしら?」


リリスはワインを飲みながら尋ねた。


「え、ええ・・・。実は1人気になる方がいて・・・。わ、私勇気を出して、その方を誘ってみたの・・・。」


モジモジとスカートを握りしめながら顔を真っ赤にしているシャーロット。


「それで・・・どうなったの?」

私が尋ねると、シャーロットはパッと顔を上げて言った。


「OKしてくれたの!ありがとう、是非一緒に行こうって!」


キャーッ!途端に私達の間で沸き上がる歓声。しかし・・次の瞬間皆の視線が一斉に私に集中する。


「さあ・・・ジェシカさんの番ですよ?私達ジェシカさんのお話が聞きたくて、今日の女子会を開いたのですから・・・。」


フッフッフッと含み笑いをする彼女達。ああ・・・やっぱりそういう事だったのね・・・。

私は観念するしか無かった。



「え~と、つまりジェシカさんはあの殿方達とは交際する気は無いと・・・。」


クロエが言う。


「まさか、生徒会長がそんな人だったとは思いませんでした・・・!私だってそんな男性ならお断りですよ!」


シャーロットはプンプン怒っている。


「でも確かにアラン王子・・・あれは無いかもしれないですね・・といけない!大国の王子様をあれ呼ばわりしてしまったわ。誰かに聞かれてないかしら?」


キョロキョロ辺りを見渡すリリス。どうやら彼女達の間でアラン王子はかなり残念なキャラクターに成り下がってしまったらしい。小説の中ではイケメンヒーローだったのに。でもアラン王子、貴方がそんなに評価が下がったのは自業自得なのだよ。


「それでジェシカさんは仮装ダンスパーティーはメイドの姿をして紛れ込むんですよね?」


エマの話に驚いたのはリリス達だった。


「「「え!本当ですか?!」」」


「は、はい・・・。絶対彼等が当日誘ってくると思うので。パーティー会場にメイドとして潜り込んでいれば、恐らく誰にもバレないと思うんですよ。」


私は彼女達に事情を説明したが、絶対に誰にも言わないで欲しいと念押しをしたのだった。


 それから夜の10時半まで楽しくおしゃべりをして過ごした私達は、ほろ酔い気分で各々の部屋へと戻って行った。今夜は久々に楽しい夜だったなー。私は幸せな気持ちで眠りについた・・・。


  


次の日の朝・・・女子寮を出た先に私を待っていたのはグレイだった。


「おはよう、ジェシカ。」


どこか照れたように笑って手を振るグレイ。私は、グレイの側まで行くと

「おはよう、グレイ。」

と、笑顔で挨拶した。2人並んで歩き出すと私はすぐに質問した。

「アラン王子とルークはどうしてるの?」


「アラン王子はルークと一緒に教室へ向かったよ。なにせアラン王子が憤慨していたからな。・・必死で宥めていてくれてたよ。今夜ルークにはよく謝らないとな。」


元気なさげに言うグレイ。全く・・・あの俺様王子め。だから私は言った。

「あのね、グレイ。言っておくけど私はアラン王子の所有物でもなんでも無いんだからね?逆に思い切り迷惑してるんだから。」


「そ、そうなのか?」


どこか嬉しそうなグレイ。


「当たり前じゃない。あんな俺様王子は絶対お断りだから。私が他の誰かと付き合うような事になったとしてもアラン王子だけはお断りよ。あ、ついでに言うと生徒会長もあり得ないかな〜。ねえねえ、そう言えば最近アラン王子と生徒会長って何処か似てると思わない?あのすぐに頭に血が登るところとか・・・。ってグレイ?どうしたの?」

何故か私を見て青ざめているグレイ。いや・・・私を見ているのでは無い。視線はもっと上を見ている・・・え?上?恐る恐る後ろを振り返りると、そこには恐ろしい剣幕で立ち尽くす生徒会長だった。


「ジェシカ・・・お、お前・・・。」


まるで鬼のような形相で私を睨み付けている生徒会長。


「キ・・・キャアアアッ!!」

思わず悲鳴を上げて後ずさる。


「お前・・今何て言った・・?」


にじり寄る生徒会長。 


「ジェシカッ!」


私に手を伸ばすグレイ。

「グレイ!助けて!」

私がグレイに手を伸ばすと、左手で力強く握りしめて走り出す。


「待て!お前達!」


嫌だ!追い掛けて来た!すると、グレイが私を連れて走りながら、右手から突然光り輝く球体を出現させ、何と生徒会長目掛けて投げ付けたのだ。


「うわあああっ?!」


球体は生徒会長にぶつかると、眩しい光を放ち、堪らず悲鳴をあげる生徒会長。

うわっ!生徒会長を攻撃しちゃったよ!!

・・この後、どうするんだろう・・・。でも少しはいい気味だ、と思ってしまう私であった。

 





そして、時間は流れ・・・。


「なあ、ジェシカ。じ、実は・・来週の仮装パーティーの事なんだけど・・・さ。」


グレイが口ごもりながら声をかけてきた。

私達は今、2人で夕食を食べに学食へ来ていた。生徒会長の行方?は知らない。

「うん、皆仮装パーティーの件で盛り上がってるよね。わあ~この新商品のメニュー美味しい!」

私は魚介のスープパスタに舌鼓を打った。


「あのなあ・・ジェシカ。俺の話聞いてるか?」


呆れるように言うグレイ。


「勿論聞いてるよ。仮装パーティーがどうしたの?」

半分しらばっくれるように言う私。ごめんね、グレイ。私は誰の誘いに乗る訳にもいかないのよ。


「あ、あのさ・・・ジェシカさえよければ、お・・俺と一緒に参加しないかな~っと思って・・・。」


必死に勇気を振り絞って誘っているのが手に取るように分かる。でも、グレイってこんなにシャイなキャラだったっけ?ルークじゃあるまいし・・・。

でも、そんな私の考えを見透かしたのか、グレイが髪をぐしゃぐしゃと描き乱すと言った。


「だあーっ!やっぱ駄目だ、俺!」


突然大声を出すグレイに私は慌てる。


「ど、どうしたの?グレイ?」


「ハハッ・・・以前の俺ならジェシカの事何も意識せずに話が出来たのに、いつの間にかジェシカの周りに他の男達が集まりだしてから・・・妙に焦っちゃって、どうすればお前に嫌われないか、俺を意識してくれるのかって考えていたら・・今まで以上にジェシカに接する事・・・出来なくなったよ・・・。ほんと、情けないよな、俺って・・・。」


「グレイ・・・。」


「いや、でもこんなんじゃ駄目だ!いつもの俺に戻らないと。」


何故か1人で喋って。1人で納得しているグレイ。


「ジェシカ!」


私の方を向くと、突然大声で私の名前を呼んだ。


「は、はいっ!」

私も居住まいをたたして、返事をする。


「俺と・・・俺と一緒に仮装パーティーへ行ってくれ!」















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