第7章 13 名探偵になれるのは?
「はあ~・・・・。」
私は何度目かのため息をついていた。
「どうしたんだ、ジェシカ?具合でも悪いのか?」
私の右腕をがっしり掴んだアラン王子が言う。
「君たちがあまりにしつこいからジェシカがうんざりしているんじゃないかな?」
左腕を絡ませているダニエル先輩がアラン王子を睨み付けるように言った。
「お二人とも、ジェシカお嬢様を放して頂けませんか?お嬢様の隣を歩いて良いのは下僕である私だけなのですけど?」
背の高いマリウスの声が頭の上から聞こえてくる。
「僕は先輩だぞ?いい加減に僕の女神に馴れ馴れしくするな!」
無理矢理ダニエル先輩の腕から私を引き離そうとするノア先輩。
「何するんだ!大体君が一番危険人物なんだ!」
必死で抵抗するダニエル先輩。
痛い痛い!私の腕が変な方向に曲がってる!
「ね、ねえ!あの、腕が痛いんですけど・・・!」
「お前達2人ともジェシカから離れろ!痛がっているじゃないか!」
アラン王子が怒鳴る。やめて~!耳元で喚かないでよ!
「お嬢様から離れるのは貴方達の方では無いですか?!」
珍しくマリウスが憤慨している。
「マリウス!お前もだ!」
色白のノア先輩が顔を赤く染めて怒鳴っている・・・。
一方、グレイとルークはアラン王子と私の荷物持ちをさせられている。
「どうして俺達が・・・。」
ルークが言う。
「ジェシカ・・・もうお前を諦めなくちゃならないのか・・?」
まるで不幸のどん底にでも落ちたかのように暗い声でブツブツ呟いているグレイ。
これではいくら生徒会長がいないからと言ってもノア先輩が加わってきたので元も子もない。あ~っ!もういい加減にして欲しい!
ねえ、皆さんには周囲の視線が気にならないのですか?こう見えても私の内面はれっきとした日本人。日本人という者は人の目を誰よりも気にしてしまう民族なのですよ?ほら、見てよ、あそこの女生徒達。物凄い嫉妬の目で私を睨んでるじゃ無いの。それに向こうの男子学生達は呆れた目でこちらを見てるのよ?これ以上私は周囲の好奇心に満ちた視線や、敵意に満ちた視線に耐えうる事は出来ないのよ!
なのに彼等は私の意見などまるきり無視して勝手に騒ぎを起こしてる。喧嘩するなら私を解放してグレイとルークを除く皆でやり合って下さいと言ってやりたい。
大体、以前アラン王子の提案で交代で私を警護するという話になったはずでは・・?交代・・・?私はそこで気が付いた。
「アラン王子!」
私は隣にいるアラン王子に向き直った。
「何だ?ジェシカ。そうか、ついに俺を選んでくれるのか?よし、ならこいつらの事は無視して2人で一緒に教室へ行こう。」
そして無理やり私の腕からダニエル先輩を引き剥がそうとするアラン王子。けれども放してなるものかとダニエル先輩は抵抗する。腕が痛い痛い・・・。
「あの!腕が痛いって言ってるじゃ無いですか!」
その時、ぱっと手を放したのはダニエル先輩。
「ご、ごめん!ジェシカ!」
「フフン、ついに手を放したな?ダニエル?」
先輩を呼び捨てにするんじゃないってば!満足げに言うアラン王子に私は我慢の限界だ。
「いいえ!手を放して頂くのはアラン王子の方です!」
もうこの人が王子だろうが何だろうが知ったこっちゃない。大体この人は予知夢の中でソフィーの話を信じ、私を罪人にした人物の張本人なのだから。おまけに私が腕を痛がってるのに手を放さなかったなんてとんでもない男だ。さすが俺様王子。
「ええ?!何故だ?ジェシカ?いいか?よく考えろ?俺は一国の王子なんだぞ?普通に考えれば貴族よりも王族を選ぶのは当然だろう?」
ああ、もう嫌になってしまう。おあいにく様、私は日本人です。格差恋愛などお断りです。大体貴方は王子様。黙っていたって色々な女性が本来なら言い寄って来るのでは?それが連日のように私の後ばかり追いかけていると皆に軽蔑されますよ?
「アラン王子・・・元はと言えば、アラン王子が言い出したことなのですよね?私が静かに学院生活を送れるようにする為、私の付き添いを当番制にすると言い出したのは。」
アラン王子を除く他の皆は黙って私とアラン王子の様子を見守っている。
「とにかく、私は静かに学院生活を送りたいんです。授業も真面目に受けたいですし、今謹慎室に閉じ込められている生徒会長も気がかりです。それに私やマリウス、ルークを助けようとして怪我を負った生徒会役員のライアンという方の怪我の具合も心配で頭が一杯なのです。私の事を思って下さるなら少し配慮して頂けないでしょうか?」
・・言ってやった。ついに・・・。大国の王子様だからあまり失礼な事は言えないが、私の言いたい事が伝わっただろうか?遠回しに私には構わないで、一人にさせてくれと伝えたかったのだけど・・・。
全員水を打ったかのように静まり返っている。あれ・・・どうしたのかな・・?
「そうか・・・。」
最初に口火をきったのはやはり俺様王子アラン。
「ジェシカ・・・お前の言いたい事はよく伝わった・・。」
え?嘘?本当に?
「よし、ならお前が俺達の中から誰か1人選べ!やはり選ぶ権利があるのはジェシカ、お前だ!さあ、今すぐ俺達の中から相手を選ぶのだ!」
勝手に仕切って勝手に盛り上がっていらっしゃる。他の全員は何か言いたそうにしているが、アラン王子の言う事は最もな事だとでも納得しているようだ。あの~その選択肢の中に誰も選ばないという選択はないのでしょうか・・・
「そうだね・・・確かにアラン王子の言う通りかもね。」
ダニエル先輩、納得してしまうのですか?
「お嬢様がそれで良ければ・・。」
ねえ、マリウス!私それで良いなんて一言も言ってませんけど?!
「君は僕の女神なんだから必ず僕を選んでくれると信じているよ?」
ノア先輩・・女神と呼ぶのほんとに勘弁して下さい。
「「ジェシカ・・・。」」
まるで捨てられた猫のように縋る目で私を見つめるグレイとルーク。うっ・・・!そんな目で見られると・・・。こんなでは誰かを選んでも酷く恨まれそうな気がする。本当に誰も選ばないという選択肢を設けて欲しい・・・ん?
そこで私はある考えが浮かんだ。
「あの、皆さん。少しよろしいですか?」
私の言葉に一斉に注目する12個の目。私は続けた。
「実は、私は今生徒会長に濡れ衣を着せ、ライアンさんを傷つけて病院送りにした人物を探しています。ライアンさんの話から恐らく襲撃犯は2名いるそうなんです。その犯人を特定出来た人とだけ、一緒に過ごしてもいいかなと思っています。」
「何だ、そんな事かい?分かったよ。ジェシカの為に僕が必ず犯人を特定してあげるね。」
ダニエル先輩は私の両手をギュッと握りしめ、目をキラキラさせる。
おお~さすがはダニエル先輩。優しさが違う。
「お嬢様、それなら私にお任せください。こう見えて私は推理小説も好きなので、謎解きは得意中の得意なのですから。その代わり無事に犯人を見つけたら・・・またいつものアレをお願いしますね。」
ゾワゾワゾワッ!背中に鳥肌が立つ。何よマリウス。いつものアレって一体何なのよ?気になる!気になるけど・・・こんな大勢の前では聞けない!
「ジェシカ、こう見えて僕は聞き込みは得意中の得意だよ?ただし女性に限るんだけどね。でも絶対ジェシカにとって良い情報を持って来るよ。」
ノア先輩・・・そんなに女性に対してお得意なら、どうぞその方々の所へ行って差し上げたら如何ですか?
「「ジェシカ、俺達頑張るから。期待していていいよな?」」
いつの間にか双子のように息ぴったりなグレイとルーク。私的にはこの2人に一番頑張って欲しいかな・・・。
只1人、違っていたのはアラン王子だ。
「おい、ジェシカ!お前、そう言って本当は誰とも付き合わないつもりなんじゃないだろうな?!」
ギックーンッ!!く、なんて勘の鋭いアラン王子なのだ。思わず心の中で舌打ちする私。でも、その考えは当たらずとも遠からず。私はせめて彼等が真犯人を見つけ出すまではエマ達と女子だけの穏やかな学院生活を送りたいだけなのだ。
それにアカシックレコードの事も彼等が一緒では調べる事すら出来やしない。
「い、いいえ。そんな事はありませんよ。ほ、ほら私は私で犯人捜しをするつもりなので、ここは皆さんで誰が一番早く犯人を見つけられるか競争しましょうよ。」
6人はこうして私の提案を受け入れる事になった。
誰が一番最初にライアンを襲った人物を特定できるか?戦いの火ぶたはついに切って落とされた。さあ、名探偵は一体誰になることやら・・・。
最期にダニエル先輩の発言が波紋を呼ぶ。
「ねえ、ジェシカ。ところでライアンって君にとって何者なの?」
ダニエル先輩・・勘弁して下さい。
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