第7章 7 修羅場

「ノア・シンプソンッ!!俺のジェシカから離れろ!!」


またいつもの俺様王子の怒声が飛び交う。あ~もういやだ!私が、いつ、アラン王子の物になったのですか?というか勝手に人を物扱いしないで欲しい。


「ジェシカッ!!」


おおっ!なんと仮にも王子を押しのけて私の所へ駆けつけてきのはダニエル先輩だ。


「ノア・シンプソンッ!よくも僕の恋人を抱きしめていたな?勝手に触るな!君の事をジェシカがどれだけ怖がっているのか分からないのか?!」


「な、何?!恋人だとおッ?!認めん!絶対に俺は認めんぞ!!」


真っ青になって喚くアラン王子。


「嘘だろう・・・?」


「もう望みは無いのか・・・?」


ルーク、グレイが何か呟いているが、外野が煩くてよく聞こえない。

ダニエル先輩は私をノア先輩からもぎ取るように奪い取ると自分の腕に囲いこんだ。


「ダ、ダニエル様・・・?!」

ちょ、ちょっとまだ恋人ごっこ続いているんですか?もう終わっていいはずですよ?


「大丈夫だったかい?ジェシカ?今まで大変な目に遭ってさぞ怖かっただろう?ねえ、僕にもっと君の顔をちゃんと見せてくれるかい?」


デレデレモードのダニエル先輩は熱を込めた瞳で私の顔を両手で包み込むと言った。

うっ・・・は、恥ずかしい・・!そうだった、この先輩はこういう事を平気で出来てしまう人だったんだ。


「おい!そこのお前!勝手に僕の女神に触るな!」


ノア先輩!お願いだから私の事を女神だなんて言うのは止めてください!

こんなに周りが煩いのに、それを気にする事も無くダニエル先輩は私から目を逸らさず、熱く語る。


「おや?赤くなっているね?それ程僕の事を意識してくれているんだね?すごく嬉しいよ。ジェシカ・・・。」


うっとりと言うダニエル先輩から無理やり私を引き離すのは意外な事にマリウスだった。


「いい加減にして下さい!ダニエル先輩。私の主人にこれ以上不必要な接触をするのは止めて頂きます!」


そしてマリウスは私の両手を握りしめ、跪くと言った。


「ジェシカお嬢様、私はジェシカお嬢様の所有物ですよね?だから私を好きなようにして下さって結構なんですよ?椅子になれ!と言えば貴女の前で四つん這いにもなりますし、虹の向こうへ連れて行け!と仰れば何処までも貴女を連れて2人きりで旅にも出ましょう!!」


 あ~!ますますマリウスのM度が増している!私が椅子がわりに座れば周囲からどんな目で見られるか分かっているの?虹の向こうへ連れて行け?2人きりで旅をする?冗談じゃない!マリウスと旅に出る位なら気まぐれな猫を連れて旅に出る方が百倍マシだ。大体、私は貴方を自分の所有物としてなんか、一度も思った事がないのよ!


「おい!ジェシカから離れろ!」

俺様王子。


「アラン王子、落ち着いて下さい!」

グレイ。


「僕の恋人に馴れ馴れしくしないでくれるかなあ?!」

ダニエル先輩。


「いつ、貴方がジェシカの恋人になったと言うんですか?」

ルーク。


「これ以上馴れ馴れしい態度で僕の女神に触るな!」

ノア先輩。


「永遠にお嬢様の御側にいられるのは、この私だけですからね!」

マリウス。


 いつの間にか6人全員が生徒会室で互いに睨みあい、文句を言い合う場へとなってしまった。ど、ど修羅場だ・・・・。

誰もが私の存在を無視して白熱して議論を続けている。よし、今のうちに・・・。

私はそっと生徒会室を抜け出すと、女子寮まで走って逃げたのだった—。


 女子寮の寮母室の前を通りかかった時、何気なく寮母室を覗くと、いつも偉そうにしている寮母が私にも気が付くことなくぼんやりと椅子に座り、宙を見ている。

「・・・?」

訝しみながらも私は自分の部屋へと入った。


「ふう~っ・・・。」

ドアを閉めると私はそのままそこに寄りかかり、大きなため息をついた。

「たった数日部屋を開けただけなのに、随分長い時間かかってしまった気がするわ。」

 私はベッドにゴロンと転がると天井を見上げた。ライアン・・・一体今どうしているのだろう?意識は戻ったのだろうか?怪我の具合はどうなのか?誰にやられたのか・・・。

「ライアンの面会に行けないかな・・・?」

でも誰に言えば町へ行く許可がもらえるのだろう?やはり生徒会の人間に言うのだろうか?しかし肝心の生徒会長はライアン襲撃の濡れ衣を着せられて今は謹慎処分を受けて謹慎室に入れられてるし、副会長のノア先輩の元へ戻る訳にはいかない。恐らく今も生徒会室は修羅場真っ最中のような気がするし。

 他にも気になるのは先ほどの寮母の様子だ。絶対に何かあったに違いない。嘘の告発をしたから何か罰でも下されたのだろうか?だとしたらナターシャにも言える事だ。いや、恐らく生徒会はナターシャを首謀者として見ているので、寮母よりも重い罰が下るかもしれない。

 今ナターシャはどんな気持ちで、過ごしているのだろうか?不安に怯えている?それともひょっとすると、ノア先輩への自分の望みが叶って本望なのかもしれない。


 ふと時間が気になった。今何時だろう?私はベッドサイドに置かれた時計を見ると

時刻は10時40分を指している。今から授業に出ても中途半端な時間だし、今日は色々あって疲れたので授業に出るのはやめにしようかな?

 うん?でも待てよ・・・?確か次の授業は天文学の授業だったはず。ジョセフ先生の授業だ!あの先生には今回の件で色々助けて貰ったので、是非御礼を言っておかなくては。


「授業出よ。」 

カバンに筆記用具を入れると私は寮を出た。

幸い?教室に入ると面倒くさい俺様王子やドMマリウスがいなくてホッとした。けれどグレイやルークがいないのも気になるな・・・。あの後皆どうなったのだろう。


 その時だ。


「ジェシカさん!」


背後から私を呼ぶ声が聞こえた。振り向くとそこに立っていたのはエマだった。


「良かった・・・!ジェシカさん!疑いが晴れたって、今朝寮で聞いてジェシカさんを慕っいた皆で大喜びしたんですよ!」


 エマは私に飛びついてきた。他にも私に気付いたクラスメイト達が何人も話しかけてきた。皆誰もが私やマリウス、ルークの事を疑っていなかった事が何よりも嬉しかった。


「皆さん。ありがとう。私達の事信用してくれて。」

集まって来てくれたクラスメイトにお礼を言うとエマから意外な言葉が飛び出した。


「これもみんなアラン王子様のお陰なんですよ。」


「え?どういう事なの?」


「ジェシカさん達が絶対にそんな卑劣な真似をするはずが無い、これは何かの間違いだって、教壇に立って演説をしたんです。」


「ああ、さすが王子だな。見事な熱弁だったよ。」


「俺は必ず無実を証明する証拠を探し出してやるっていきまいてましたよ。」


「そうそう、おまけに最期はそんなにお前たちが疑うっていうなら今すぐ俺の前に証拠を持って来ーいって大騒ぎしていたよ。あれは見ていてすごかったなー。」


「ええ。王子様自らが色々な人達に聞き込みをしている姿をあちこちで見かけましたよ。」


「最後は女子寮まで押しかけて、寮母さんに詰め寄って白状させたみたいだしね。」


 口々にその時のアラン王子の行動をクラスメイト達は思い出しながら、おかしそうに笑って話してくれた。信じられなかった。まさかあの俺様王子が私達の為に奔走していたなんて・・・。だってアラン王子は私に会った時、そんな事一言も口に出さなかったし、グレイも何も話してくれなかったからだ。


「あ、でも今の話はアラン王子には内緒にしておいて下さいよ。絶対ジェシカさんに話すなと口止めされているので。」


最期にエマが私に言った。

私はこの時初めて少しだけアラン王子を見直した—。

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