第4章 4 手紙の内容は人格を現すものです

「ううう・・つ、疲れた・・・。」

あの後、私はエマに魔法の特訓を受けた。夕食の後も特訓を受けた。けれども・・

結局私のコップに水が溜まる事は一度も無かった。


「空気中の水分が集まって水となり、その水をコップに注ぎこむようなイメージでと言われても想像力が無い私には無理な話だわ・・・。」

ついつい寮の自室に向かって歩きながら愚痴をこぼしてしまった。


 寮母室の前を通った時である。


「ジェシカ・リッジウェイさん。」


突然名前を呼ばれた。



「は、はい!」

立ち止まり、大きな声で返事をすると私は寮母さんに向き直った。駄目だ、この人を見ると何だか緊張してしまう。


「今日貴女宛に手紙が届いていましたよ。」


そして私に5通の手紙を渡してきた。うげ・・・また彼等からだ。


「は、はい。どうもありがとうございます。」

私は手紙を受け取るといそいそと部屋へ戻って行く。その背中越しに寮母さんのため息とともに皮肉めいた言葉が聞こえてきた。


「まったく、まだ18歳の小娘だと言うのに、何人もの男をたぶらかして・・・。」


あああっ!寮母さんの中では私は完全に男を誑かす悪女に見られている!でもこの寮母さん、外見は40過ぎの女性に見える年齢不詳の女性で、他の女生徒達からも陰ではオールド・ミスと呼ばれている位なので、多分彼女の中では私へのやっかみもあるのだろう。

 私は逃げるように自分の部屋へ入ると、机の上に手紙を乗せた。


「はあ~全く・・・。」

私は5通の手紙を机の上に置きペーパーナイフで全ての封筒の口を切ると手紙を取り出した。




ジェシカお嬢様


お元気にしておりますか?

また実験と称して妙な物を拾い食いしてお身体を壊したりしていらっしゃいませんか?早いものでこちらへ参りましてから早半月が経過致しました。いいえ、早いものではありません!今までこれ程貴女と離れて過ごしたことは無く、もうジェシカお嬢様にお会いしたくてたまらず、頭がおかしくなってしまいそうです。後半月・・・それまで私の精神が持つかどうかの瀬戸際です。なのでお嬢様、どうかお願いです。私にお手紙の返事を下さいませんか?今までこの手紙と合わせてお嬢様に差し出した手紙は全部で8通。なのに一度も御返事を下さりませんよね?

放置プレイはもう正直、お腹一杯です。どうか、私にお嬢様からのお手紙を下さいませんか?内容は・・そうですね、やはり私への罵詈雑言を浴びせる内容でお願い致します。どうか私に活力を与えて下さい。


                             貴女のマリウスより


ゾワゾワゾワッ!身体中に鳥肌が立つ。な、に、が、貴女のマリウスよりだ。

私はマリウスを自分の所有物に等した覚えは無いしノーマル人間だ。誰が好き好んでM男にわざわざ喜ぶような内容の手紙を書いてやらなければならないのだ。そんな暇があるのなら魔法を使う特訓をした方がずっといい。

ふうー。私は溜息を一つつくとマリウスからの手紙を封筒に戻し・・・思わず破り捨てたくなるのを必死に抑え、次の手紙を手に取った。



親愛なる我がジェシカへ


元気にしているか?ここの合宿は、なかなか毎日がハードだ。でも訓練のお陰でメキメキと力がついてきたのが自分でも良く分かる。恐らく今ならマリウスと戦っても余裕で勝てる気がするな。

所で話は代わるが、何故お前は今迄一度も俺に手紙を寄越さないのだ?もしかして照れているのか?だとしたら、可愛い奴だ。戻ってきたら2人だけの時間を作ろう。思い切りお前を甘やかしてやるぞ。いいか、必ず今回は俺に手紙を書くのだぞ?大体一国の王子が8通も手紙を出しているのに返信してこないのはお前くらいだ。もしかして俺がお前から貰った手紙を読まなかったらどうしようとでも思っているのか?それなら案ずるな。ジェシカからの手紙は必ず読む。それでは返信待っている。


                                 アランより




・・・・。あの別に私は照れているから手紙を出さなかったわけではありませんけど?!帰ってきたら2人きりで時間を取る?思い切り甘やかしてやる?いいえ、結構です!ようやく周りと上手くやっていけるようになってきたのに、アラン王子が絡んでくると、また厄介な事になりそうだ。それにしてもどうしてここまで自分に自信たっぷりなのだろうか?ため息をつくとアラン王子からの手紙をしまい、次の手紙を手に取った。 うん?これは・・・生徒会長からか。一瞬読むのを止めようかと思ったが後で何を言われるか分かったものでは無いので一応目を通さなければ。




ジェシカ、元気にしているか?今年の新入生は中々見所のある人材がそろっているようだ。お前が紹介してくれたアラン王子やマリウス、この二人は剣も魔法もほぼ互角だ。もし彼等が生徒会に入ってくれれば、敵から急襲された時は真っ先に戦力になり生徒会を守ってくれるだろう。それにお前が親しくしているルークにグレイ、彼等もかなり役立ちそうだ。まあ普段からアラン王子の番犬として飼われているようだから生徒会に入れても尽くしてくれるかもしれない。

どうだ?ジェシカ、そろそろお前も決心がついて生徒会に入る気になったのではないか?ああ、大丈夫。ノアの事なら心配するな。お前にはこの俺が指一本触れさせないように始終警護についてやるぞ?

 それにしてもこの殺風景な合宿所ではスイーツが食べられないのが残念だ。学院に戻ってきたらまたエマを誘って3人で町へ美味しいスイーツを食べに行こう。だから俺の代わりに店のリサーチをしておけよ?

ではまたな。一つ、書き忘れたことがある。おい、ジェシカ!俺に返信しろ!    

                       ユリウス・フォンテーヌ


・・・・。駄目だ、この生徒会長は頭が少々イカレテいるようだ。敵からの急襲?一体どこから襲われるというのだろう?もしかすると日頃の生徒会長の奇行が原因で他校から目を付けられて、いつ何時襲われるか分からない状況に置かれているとでも言うのだろうか?それにマリウスとアラン王子に学院では無く生徒会を守らせる?学院の平和を守るべきでは無いだろうか?

おまけにグレイやルークを番犬呼ばわりするなんて・・・人としてどうなのだろう?

こんな男の側で守られるなんて冗談じゃない。一緒にスイーツ?リサーチしておけだあ?何て横暴な生徒会長なのだ。そんなだからイケメンのくせに4年間も学院に通っておきながら恋人が出来ないのだろう。

え・・と、次はグレイからの手紙かあ・・・。どれどれ・・・。



ジェシカ、何度もしつこく手紙を出してごめん。俺の事嫌になってしまったか?

ふと1人になった時、真っ先に思い出してしまうのはジェシカの事だから、どうしてもここでの合宿の様子や訓練、日常生活の事をジェシカにも教えたくなってしまったんだ。後半月で学院に戻れる。その時はまた俺との会話に付き合ってくれるよな?

お前の笑顔を見ていると元気が貰えるんだ。ジェシカ、今度は出来れば手紙の返事貰えると嬉しいな。たった1行だけでも構わないからさ。

手紙、待ってるよ。

 

                                  グレイ 

PS:

ジェシカ、10月に行われる仮装ダンスパーティーの事だけど、もうパートナーは 見つかったのか?まだなら俺と一緒に参加しないか?無理にとは言わないから。



 グレイ・・・。まずかったかな、一度も手紙の返事出さなかったのは・・・。何だか手紙の内容も元気が無いように感じるし・・・。

それにしても仮装ダンスパーティーの話が出たのは初めてだ。参加するには男女ペアで出席なのか。それなら益々出る訳にはいかない。

 最後に私はルークからの手紙を取り出した。




ジェシカ・リッジウェイ様


ジェシカ、最近肌寒い季節になってきた。お前は身体が小さくて細いから心配だ。

毎日栄養のある物を食べて体調管理に気を付けろよ。

じつはな、この合宿所では週に1度だけ学生達に酒が振舞われるんだ。この山で採れた果実で作られた酒だ。きっとジェシカが気に入ると思う。だから土産にこの果実酒を学院に戻る時持って帰って来るよ。楽しみにしておいてくれ。

 またジェシカさえよければ一緒にサロンへ酒を飲みに行かないか?お前と一緒ならどんな酒でも美味しく感じられるから。戻る前に一度出来ればお前からの手紙が欲しいな。

                                 ルークより



 5人分全ての手紙を読み終えた。やはりまともな内容を書いて送って来てくれたのはグレイとルークこの2人だ。しかし、何故全員がよりにもよって手紙の返事をお願いしてくるのだ?これでは誰か1人にだけ返信と言う訳にはいかない様だ。


 仕方が無い。

全員同じ内容で書いてやれ。何だか違う内容で手紙を書けばまた争いごと起こるような気がするからだ。

気乗りがしないまま私は便箋と封筒を引き出しから出すと、黙々と手紙の返事を書き始めた。その後、深夜までかかって私はようやく手紙の返事を書き終えたのだった。

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