第4章 3 実戦は苦手です
ふう・・。朝からあんな光景を見てしまったせいで憂鬱だ。これから後どの位の間ソフィーはあの場所に朝食を食べに来るのだろうか?私だったら周りからの視線がいたたまれなくて二度と行かない。それにいつからナターシャとソフィーは知り合いだったのだろう?以前の気位の高いナターシャだったら異性は別として、準男爵家の人間とは付き合うはずが無い。何かが2人の間にあったに決まっている。もしかするとナターシャはソフィーに脅迫でもされているのだろうか?
「授業・・・出なくちゃ。」
考えていても仕方が無い。今日の授業は古代語と魔法学に薬理学。新入生にとってはどれも頭の痛くなる授業ばかりだが、フフフ・・・だが、しかし。私はこの小説の作者なのだよ。だから全ての授業が完璧に理解出来る。実際はかなり難しい科目ばかりなのだが、私にとっては小学生の授業を受けるようなもの。いや、はっきり言って授業に出る必要性を感じていない。でも授業に出なければ単位が貰えない、貰えないので仕方が無く出る・・・という感じである。
勉強は良く出来るし、公爵家でアラン王子の次に身分が高いのにそれを笠に着る事も無い、と言う事で少しずつではあるが女生徒の中に溶け込めるようになっていた。
私が教室に入って行くと先に席に付いていたエマが近づいてきて声をかけてきた。
「おはようございます、ジェシカさん。」
「おはようございます、エマさん。」
その後もワラワラと教室に次から次へと女生徒が入って来た。
「ジェシカ様、おはようございます。実は今日の薬理学で出された課題の中でどうしても分からな所がありまして・・・。」
「あ、私も宜しいですか?古代語の一文が訳せない箇所があるので今少し教えて頂けますか?」
等々・・・今朝だけで5人の女生徒が私の周りに集まってきて、授業が始まる前の短い勉強会が行われた。
予鈴が鳴り終わる頃・・・短い勉強会が終了した。私の教え方はとても分かりやすいと最近話題になっているらしい。更に学院の教授達よりも教えるのが上手だと言う噂が密かに知れ渡り、最近は他のクラスメイトで一度も会った事が無いような女生徒達にまで勉強を見て貰えないかという依頼まで来るようになっていた。
なので今、週に1度だけ放課後図書館で勉強会を開いている。
私的には自分の時間が取られてしまうので勉強会等と面倒臭い事はやりたくないのが本音だ。けれどもソフィーの側にいた眼鏡をかけた女生徒(以後、名前が分かるまでは眼鏡女性にしておこう)からは信頼できる仲間を増やしてと言われていたのだ。仲間を増やすのは無理かもしれないが、せめて周囲に敵を作らないようにしなければ・・・と日夜奔走している有様だ。いわば勉強を教えてあげるのは、私は悪女ではありませんからね、と言う事を周囲にさり気なくアピールしておくのが理由なのである。
やがて本鈴が鳴り、教授がやってくると授業は始まった・・・。そして私にとって退屈な時間もね。古代語の教授は初老の男性で私の姿を目にすると、さっと視線を逸らした。はいはい、私がいると授業がやりにくいと言う事ですね。ならばいっそ空気のような存在に徹していよう
それにしても・・・私はガランとした教室を見渡した。そこには男子学生は誰一人としていない。何故かと言うと今から半月ほど前に彼らはこの学院から約30k程離れた山奥の合宿所に行ったからだ。期間は1カ月。つまり10月のパーティーには間に合う形で合宿から戻って来る。彼らはそこの合宿所で何をするかと言うと、剣術と魔法の実践訓練を行うのだ。彼らが滞在している合宿所は野生の危険動物や下級モンスターが生息する場所で『キャンディノス・マウンテン』と呼ばれている。彼らはここで剣術・魔法以外に精神力も鍛え上げるのだ。
合宿が始まったお陰であの面倒臭いM男のマリウスや俺様王子、さらに引率で一緒に合宿所に付いて行った熱血甘党生徒会長がいない為に自由で快適な学院生活を送る事が出来ている。今が一番快適な学院生活だ。あ~あ・・・せめて半年位は戻って来なければいいのに。
グレイはあの後は特にお咎めなしで、すぐに謹慎処分が解けて現在は皆と一緒に合宿に参加している。
合宿所でも俺様王子の従者をルークと二人で努めなければならないのでご苦労な事である。
それにしても早く授業終わらないかな。眠くなるし、退屈だ。
教授も私が眠そうにしているのに気付いているけれども、何も言わない。それは私の方が自分達よりもよほど全ての学問に置いて理解出来ているのを知っているからだ。
だから教授にとっては、本当は私のいるクラスで授業を教えるのは非常にやりづらい事は十分承知している。
全ての科目に置いて完璧に出来る私。ただ、それで一つだけ・・・どうしても私が苦手な分野がある。それが魔法学の実践だ。この学院の生徒は皆魔力持ちなので、魔術を使う事が出来る。ある者は火を操り、またある者は水をコントロールする事が出来る・・・片や私と言えば・・・。
「ジェシカ・リッジウェイさん。今日も無理でしたか?」
魔法学を教えている女性講師から何度目かのため息をつかれてしまった。
「は、はい・・・。申し訳ございません・・・。」
私は顔を真っ赤にして俯いて下を向いてしまった。う~恥ずかしい。今日の課題は
空のコップに水を満たすという魔力を扱える人間なら初歩中の初歩の魔法。
他の女子学生たちはあっという間に出来た魔法なのに、私のコップには水1滴すら入っていない。
「本当に、貴方は筆記試験は満点を取るのに魔法学の実技となると全然出来ませんね・・・。それなのに魔力測定値は振り切れるほど強いと言うのに・・不思議だわ。」
女性講師は首を傾げながら言う。私だって何故なのか理由を知りたい。でも、ひょっとするとジェシカが魔法を使えないのは私が小説の中でジェシカが魔法を行使する姿を書かなかったからなのではないだろうか?嫌な予感が頭をよぎる。仮にそうだとすると私は絶対にこの世界では魔力があるのに魔法を使えない、とんでもないお荷物人間となってしまう―!
私が俯いて黙っていると慌てたように女性講師は言った。
「あー、でもほら、あまり気にする事では無いわ。魔力があるのは確かなのだし、それにあなたは魔法学の筆記試験は常に満点を取っているので魔力を発動させるためのプロセスや、原理等は頭に入っている訳ですから、いずれ魔法を使えるようになるかもしれないので・・・。」
女性講師は何とか力づけようと私に声をかけてくれた。
「はい・・・ありがとうございます・・。」
魔法学の授業が終わり、私とエマは次の薬理学の授業を受ける為に白衣を着て実験教室へと向かっていた。
「ふう・・。」
私は疲れたように溜息をついた。
「大丈夫ですか?ジェシカさん。」
エマが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「え、ええ。大丈夫。さっきの魔法学の授業で少し疲れてしまって・・・。エマさんはすぐにコップの水を満たす事が出来たの?」
「そうね・・。割とすぐに。」
「ははは・・そ、そうなんですね・・。」
そっか、エマはすぐに出来たんだ・・・。
「ジェシカさん、そんなに落ち込む事は無いわ。魔法にも相性があるっていうから。私はもともと水の魔法と相性が良いからすぐに出来たと思うの。逆に火の魔法と相性が良い人は授業が終わるギリギリにようやくコップに水を入れる事が出来たそうだから。ひょっとすると・・ジェシカさんは今迄誰も持ったことが無いような魔力を持っている可能性があるって事だと思わない?」
おお~っ!成程、そういう考えもありか。でも、とりあえずは・・・・。
「エマさん、私に魔法の使い方おしえてもらえる・・・?」
こうして私の魔法を使う訓練が始まった―。
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