第2章 9 モブキャラ脱却
カフェテリアの一騒動の後、そのまま私とマリウスは学食に移動して夕食を共にする事にした。
「お嬢様、何をキョロキョロされているのですか?」
マリウスはチキンステーキを食べながら不思議そうに尋ねてきた。うん、確かに私の取っている行動は完全に挙動不審かもしれない。
だって仕方が無いじゃない。いつどこで面倒な彼等と鉢合わせしてしまう事になるかもしれないのだから。
「別に、何でもない。」
説明するのも面倒臭いし。
どうやら俺様王子や強面生徒会長、それにノア先輩はいないようなので私はようやく食事を口にすることにした。私の今夜の夕食はハンバーグステーキセット。ここの学食は一流のシェフが常駐しているので本当に美味しい。私は熱々料理に舌鼓を打っているとふいに声をかけられた。
「まあ、ジェシカ様ではありませんか?よろしければご一緒させて頂いてもよろしいですか?」
声の主はナターシャだった。やはりいつものメンバーを後ろに従えている。
・・・今更ながら思ったが、どうやらナターシャと彼女たちは主従関係にあるのかもしれない。
「ええ。どうぞ。」
私とマリウスのテーブルにはまだ空席があったので、私は快く返事をした。
「それでは失礼致します。」
ナターシャはお辞儀をすると上品に椅子に座り、自分のトレーを置いた。流石お嬢様らしくメニューは上品なレディースセットだった。私のハンバーグステーキセットとは大違いだね。よく見ると他のメンバーも皆彼女と同じメニューだ。気が合うのか、彼女に合わせてるのかよく分からない。
席に着いたナターシャはマリウスをチラリと見た。おや?もしかしてナターシャの目的はマリウスかな?
「あの、失礼ですがマリウス・グラント様ですよね?」
微笑みながらマリウスに話しかけて来る。ああ、やっぱりナターシャはマリウスが目的だったのね。ひょっとして私に近付いたのもマリウス目当てだったのかもしれない。
「ええ、そうです。よく私の名前をご存知ですね。」
マリウスも笑顔で返す。
そりゃそうでしょう。マリウス、貴方はそのイケメンぶりと今日の剣術の練習試合で俺様王子と並んでアイドル並みの人気者になったのだから。しかし、M男と俺様王子が人気を博すなんて、この学院大丈夫?
ナターシャの声かけを機に、彼女達は一斉に目をキラキラさせながらマリウスに話しかける。そんなマリウスも律儀に会話に応じている。うん、基本的にマリウスは優しいんだよね。ただし変態M男だけど。私は色々マリウスに助けて貰っているけれど、私の中でどんどん彼の評価が下がっている。だって知れば知る程マリウスのMぶりがエスカレートしてきてるんだもの。それにしてもいい雰囲気なんじゃない?
私は蚊帳の外でモクモクと食事を続ける。
・・・・全て完食。しかしナターシャ達は会話に夢中でまだほとんど料理に手を付けていない。あ〜あ。折角のグラタン、冷めちゃってるよ。チーズは冷めるとあまり美味しくないんだから。等と余計な心配をする私。
一方マリウスも会話に付き合わされて、すっかり料理は冷めきっている。・・・ご愁傷様です。
食事を食べ終えた私は特にする事も無いので、寮に戻ろうかと思い、席を立った。
「皆さん、すみません。食事が済みましたので、お先に失礼させて頂きますね。少し自室ですべき事もあるので。」
嘘です。そんな用事ありません。
「え?!お嬢様?!」
マリウスは情けない声を出した。・・・そんな声出すのはやめなさいってば。私だって1人になりたいのだから。
「まあ、ジェシカ様。申し訳ございません。私達だけで勝手に盛り上がってしまって。」
ナターシャはわざとらしく私に言う。
「いえ、どうぞお気になさらないで下さい。」
笑顔で返した。
そんな男でよければ熨斗を付けてお渡ししますよ。との意味を込めてね。
「それではご機嫌よう。」
後はお若い人達でと言わんばかりに私はその場を後にしたのだ。
帰り際、マリウスを見ると私を恨めしそうな目で見ていた。やった、ついにマリウスを困らせる事が出来たー。
私は誇らしい気持ちでカフェテリアから外に出た。
夜風が気持ちいい。時刻は夜7時、まだソフィーとの約束時間迄余裕がある。学院は夜になるとあちこちがライトアップされて幻想出来である。何だか日本にいた時のイルミネーションを思い出させてくれる。私はこの時間を密かに気に入ってしまった。周囲にはカップルたちが仲が良さそうに散策している姿が見られる。
健一は今頃どうしているのだろうか・・・・。ふと健一の顔が頭に浮かんだが、すぐに頭を振って思いを打ち消した。
そうだ、マリウスみたいに私も図書館に足を運んで見よう。
意気揚々と踵を返すとー
「ムグッ!」
前を見ていなかった私は勢いあまって男性の背中に思い切りぶつかってしまった・・・。
「おい、気を付けろよ。」
振り向いた男性が迷惑そうに声をかけて来た。
「は、はい。すびばせん・・・。」
鼻をしたたかに打ち付けてしまった私は痛む鼻を抑えながら涙目で謝罪した。
「お、おい。大丈夫か?」
思いの他、心配そうに声をかける男性。案外いい人なのかもしれない。
「はい。大丈夫です。」
今度こそ顔を上げると―。
「あ。」
男性は私の顔を見て少し驚いたような顔をした。
「?」
あれ・・・そう言えば何処かで見たことがあるような・・?そこでピンときた。
この男性はアラン王子の腰巾着Aだ。
何故Aかって?それはアラン王子を挟んで左隣の男性をA、右隣の男性をBと勝手に決めているからだ。そして腰巾着Aは赤毛で少し野性的な雰囲気を持っている。
「腰巾着Aさんだ・・・。」
思わず私は声に出してしまっていた。あ、まずい・・・。
「おい、誰が腰巾着Aだ?」
男性は心外だと言わんばかりに眉をしかめたが、それ以上文句を言う事は無かった。
「まあ、俺の名前なんか別にあんたが知ってもしょうがないけどな。」
男性は溜息をつきながら言った。
「今夜は御1人なんですね。いいんですか?アラン王子を放っておいて。それとももう一人のBさんがアラン王子と一緒なんですか?」
Bさんは青い長髪で後ろで1本に髪の毛を束ねた男性である。
「あ?Bさん?なんだ、アイツの事か。そうだ、アイツが今夜のアラン王子の付き人をやってる。俺達だって夜位は一人になりたいさ。」
Aさんは溜息をついて言った。
「奇遇ですね。私もその通りです。」
相槌を打ちながら私も言う。うん、この人とは気が合いそうだ。気が抜けたような話し方をするのも日本で暮らしていた頃を思い出す。そうそう、私はこういう何気ない会話が気楽なのよ。
「アラン王子に振り回されて、正直大変でしょう?」
あ、気が付けば私普通にしゃべっちゃってるよ。
「まあな、あの王子様は何でも自分の思い通りに事が運ばなければ納得しないタイプだからな。あんたも大変だな。あの王子に目を付けられて。」
Aさんはどこか同情するような、しかし爽やかな笑顔で私に言った。
「本当、正直困ってるの。もう私の事は放っておいて下さいとAさんから伝えて貰えないかなあ?」
「無茶言うな、俺から言える訳ないだろう?それに俺はAさんなんかじゃない。
グレイって言う名前があるんだからな。」
「そうですか、グレイさん。ではアラン王子に伝言お願いね。」
「だから、俺からは言えないって言ってるだろう?それよりあんたこそあの付き人は何処へ行ったんだ?」
「彼は他の女生徒達と食事をしてるけど?」
「ふ~ん・・・。」
グレイは意味ありげに私を見た。
「な・何?」
「だから一人寂しく歩いていたのか?」
「おあいにく様、やっと一人になれてせいせいしていた所ですけどね。四六時中離れてくれないから正直迷惑なんだから。」
「そっか、お互い大変だな。」
苦笑いして私を見るグレイ。
「ところで、何処かへ行くところだったのか?」
「うん、ちょっと図書館へ行こうと思ってね。」
「そっか、気を付けて行けよ。それじゃまたなジェシカ。」
最後にグレイは私の名前を呼んで去って行った。うん、今夜からグレイは私の中でモブキャラ脱却かな。
その後私は図書館へ行き、ミステリー小説と恋愛小説を1冊ずつかりて寮へと戻った。
さあ、この後はソフィーと入浴場で待ち合わせだ—。
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