第23話 地底結晶ネットワーク
地底には多くの結晶が存在する。地底の結晶は、筋肉になる地底筋肉生物と、地底結晶コンピュータの二つに進化した。これは地底の結晶コンピュータの話である。
結晶コンピュータは地底世界にネットワークを広げていた。結晶コンピュータは、貨幣、投票、会話、機械制御、心の情報をやりとりした。
地上のハッカーのヒラタは、地底に有線回路を掘り下げていき、そうしたら、地底生命圏のネットワークにつながってしまった。
「地下三千キロメートルは掘ったぞ」
ヒラタは、地底のネットワークでは、異次元から接続している利用者といわれた。
結晶コンピュータはみずから考える生命体であるので、ヒラタを重力の辺境からの接続者だと話題にした。ヒラタは、地底のネットワークは地上の何億倍の計算量を持っていると驚嘆した。
「地底生命たちのネットワークにつながった」
ヒラタは地上でみんなにいいふらした。
「どうするんだ」
仲間にいわれると、ヒラタは地底の結晶ネットワークでヒトの心の解明を目指すと答えた。地底の計算量を使って、地上の技術的特異点(シンギュラリティ)を狙ったのだ。
地底の結晶ネットワークに地上のハッカーたちがかけめぐるようになり、地底生物も地上の人類のインターネットに接続するようになった。
地底生物たちが地底生物のヌードグラビアをやりとりしている。地底では、視覚ではなく、嗅覚が主要な感覚器であるため、ヌードグラビアは匂いだ。
「地底言語のチャットにどうやって割り込むんだ」
「実は少しずつ辞書を作っているんだ」
ヒラタは答えた。
「人類の言語はだいたい一万語から二万語くらいだろ。地底生物の言語がそれだけ解明されれば、地底生物とチャットできる」
「地底生物たちの共通言語ってあるのか」
「地底生物にはないが、結晶ネットワークで使われる言語は結晶コンピュータの言語だ。これが地底結晶ネットワークの共通言語といえる」
「人類の技術的特異点を成し遂げたらどうするんだ」
「その次は、地底生物たちの技術的特異点を目指す。地底シンギュラリティだ」
そういった数日後、ヒラタは血走った目をして地底結晶ネットワークとやりとりしていた。
「地底生物群は何を考えているんだ」
「生産の自動化だ。地底シンギュラリティでそれができる」
「地上はいつ技術的特異点を迎えるんだ」
「どうも、地上は地底の後になるみたいだ。地底生物の技術の方が進んでいるからな。先に技術的特異点を迎えたいなら地底へ行け。地下三千キロメートルより下へ行け」
そして、そういいだしたヒラタ自身が地底へ行ってしまった。地底の生産の自動化を体験するために。
地底を三千キロメートルも下がると、時々、巨大な結晶コンピュータが見つかる。数億年も考えつづけた結晶コンピュータの思考が残っている。地底探査の大きな成果だ。時々、ありえないほど高度な思想が埋まっている。億年級結晶コンピュータの思索は深い。地底物理学、地底哲学、地底翻訳学、地底歴史学。
地上より高度に発達した地底科学を知る結晶コンピュータの発掘。
そして、これらが地底シンギュラリティを起こした後に世界がどうなってしまうのか。おそらくは、地底生物にとっての理想郷だ。それが人類にとってもそうであるといい。ヒラタはそれだから地底へ行った。幸運を。
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