コラリスの最後

時間は少し遡る。


コラリスは、本来のメルシュ博士そのものである。いや、あったと言うべきか。自らCLSを経験する為に生身のままでリヴィアターネに降り立ち、すぐさま感染・発症し死んだ、メルシュ博士その人であった。


しかし、アリスマリアの閃き号の中に存在する現在のメルシュ博士によってその体は改造され、普通のCLS患者ですらなくなっている。さらには、CLS患者による妊娠の実験に供され、何人もの子を生してはその子も次々と命を落としていった。


何度も言うように、博士は、遺伝子学的には自分自身の子を次々と生み出しては殺していったということになる。なのに、博士にはそれに対する罪悪感も後悔もなかった。何か実験を思いついてしまえばもうどうにも我慢ができなくなるのである。


とは言え、途中からは少し事情が変わってきていた。最初の頃の実験はCLSがどのようにして発症するのかということを確認する為のものだったのでとにかく作っては殺し作っては殺しだったのだが、いつしか<リヴィアターネ人>を生み出す母体として利用されている状態だった為、それ以降の子供達はほぼ健やかに育っている。


なお、それ自体が実験も兼ねているので、そのことによって分かった事実もある。CLS患者は、自然分娩ができないということだ。


人間は、ある程度まで胎児が成長すれば陣痛が始まり、分娩を行う。しかしCLS患者には、その陣痛がないのだ。脳が欠損していることにより、その辺りの身体的な機能が失われていたのである。


だから、胎児が十分に成長したところで人工的に陣痛を起こさせ、半ば強制的に分娩を行わせるしかなかった。これは、CLS患者をベースに作られているメイトギア人間でも同様だった。しかし現在では、メイトギア人間の人工脳のアップデートが行われ、それなりの時期が来れば人工脳から信号を送り、強制的に陣痛を起こさせ分娩を行えるようにしていた。


しかし、頭の中身がCLSウイルスによって形成されたコロニー様の器官のままのCLS患者ではそれさえままならない。何度も妊娠し、何度も薬物によって強制的に分娩を行わされたことで、その体は既にボロボロだった。ナノマシンで補助しても受精卵が上手く着床せず、着床しても途中で流産してしまうことが多くなった。こうなるともはや母体としても効率が悪い。


「そろそろ潮時かね」


こうして、コラリスを見限ったメルシュ博士は、その頭を切開してコロニー様の器官を除去し、代わりに人工脳を移植したのだった。


そう、メイトギアの反乱により機能停止した以前のアリスマリアHの代わりにアリスマリアHとなった今の体は、コラリスそのもの。他でもない本来のメルシュ博士その人の肉体だったのである。ある意味では、元のメルシュ博士に戻ったようなものだとも言えた。


こうしてコラリスはアリスマリアHとなり、最後を迎えたのだった。


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