ケインの憤り

サーシャは、メルシュ博士のそういう部分について十分に理解していなかったのだろう。だから博士を恩人として慕うこともできた。


しかし、ケインはそうではなかった。元よりメルシュ博士に対して恩義を感じるような道理もないのだから当然だ。


以前、メイトギアによるリヴィアターネ人に対する反乱が起こった時にメイトギア達の言動に不信感を持ったことで結果的にメルシュ博士の側につくことになったケインだったが、果たしてそれが正しかったのか、メイトギアも信用できなかったが博士もロクなものではないのではないかと思うようになっていたのだった。


それと言うのも、彼が今、世話になっているエレクシア・フォーマリティの隣人であるレントン・フォーマリティとノーラ・フォーマリティに対する仕打ちを見てしまったからである。


レントンは男性のCLS患者を基にしたメイトギア人間で、ノーラと夫婦という形で一緒に暮らしていたのだが、二人の子として育てられていたノーラが産んだ子であるミリアが先のEMウイルスの惨禍で亡くなり、二人がその悲しみに暮れているところにメルシュ博士がずかずかとやってきて、クローンの子供を押し付けてさっさと帰っていったのを見てしまったのだ。


博士は、レントンとノーラが庭でミリアが遊んでいた遊具を見ながら悲しみに暮れていたところにヘラヘラと笑いながら現れて、


「この子はメリッサ・ベベルギアだ。よろしく頼むよ」


と用件だけを告げて、戸惑う二人にはお構いなしで、


「まあこれも実験だから」


などと信じられないことを告げて十歳ぐらいの子供を置いて行ってしまったのである。


「なんだよあれ? 博士ってあんな感じなのか!?」


異様な光景を目の当たりにして、ケインはエレクシアに尋ねた。


「私も詳しくは知らん」


「だが、どうやらそうらしいな」


憤るケインに対して、エレクシアとエレクシアの本体であるエレクシアYR13Aがまるで姉妹のように並んで応えたのだった。


エレクシアは、エレクシアYM10の記憶を基に作られているが、そもそもエレクシアYM10自身も博士とは面識がなかったために、メモリーカードに残った彼女の記憶の一部をコピーされたエレクシアYR13Aとそのメイトギア人間であるエレクシア・フォーマリティも、博士に関する知識については、ケインとそう大差なかったのだった。ロボットであるが故に、他の機体から提供された情報は持っているものの、それすら、悪名高い天才科学者だったとか、リヴィアターネ人を生み出しこのイニティウムタウンを作った人物だとかいうプロフィール程度のものでしかなかったのである。


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