ゴードン・メルクリウス

イニティウムタウンの建設が始まってから約二年。サーシャももうすぐ十三歳になろうとしていた。サーシャと同世代の子供として生み出されたクローン達も共にイニティウムタウン内に作られた学校に通い、自らの目と耳と皮膚で知識を得、他者と交流することで自我を確立させて健やかに成長し、次世代を担う存在として確かな力を身に付けていった。メイトギア人間とコラリスら名有りのCLS患者を母体として生まれた赤ん坊達も、よちよち歩きを始めてまさに可愛い盛りだった。しかも、その後も引き続き次々と赤ん坊は生まれていた。


クローンと、人工授精による赤ん坊達は、メイトギア人間とは違い肉体的には普通の人間である。となれば当然、サーシャと同じ年頃の子供として生み出されたクローン達には思春期ならではの肉体の変化も現れ、ホルモンが心理にも影響を与える。純粋な人間であるサーシャももちろん大人の女性への変化を見せ始めた少女になり、同学年の少年達の中には彼女に恋心を抱く者も現れ始めた。


その中の一人、ゴードン・メルクリウスは、恐らく特に強い気持ちを抱いていただろう。なお、余談ではあるが、ゴードン・メルクリウスという名前は、メルシュ博士が思い付きでつけただけのものなので特に意味はない。


そんなゴードンは、体は大きいが気持ちの優しい穏やかな気性の少年だった。


「サーシャ、一緒に帰ろうか」


授業が終わり、女子生徒達に囲まれておしゃべりを楽しんでいた彼女に、彼はそう声を掛けた。家が隣同士だから、行き帰りはいつも一緒なのだ。


「うん」


サーシャも柔らかい笑顔で応える。背が伸び、顔立ちもあどけなさを残しながらも明らかに女性らしさも増した彼女だったが、恋愛云々についてはまだよく分からなかった。恋物語などには興味を示しつつも、自分のこととしては実感がなかった。


それでも、ゴードンのことは頼りにしていた。先日の体育の時間にも足をくじいてしまった自分を真っ先に抱きかかえて診療所に連れて行ってくれたりもした彼に対しては、頼もしさを感じていた。


ちなみに、イニティウムタウン唯一の学校であるここは、小学校から大学までの一貫校で、単に<スクール>と呼ばれている。他に学校がないからまだ名前が必要なかったのだが、ここには保健室というものがない。現状の生徒数は二百名にも満たず施設もあくまで仮設のものなので、学校の敷地に併設された診療所がそのまま保健室の役目も果たしていた。そこまで彼は彼女を抱きかかえていってくれたのである。この時にはさすがにトキメキのようなものは感じていたりもした。


とは言えまだまだ本格的な恋愛には程遠い。それに、町と同じで彼女達の青春は始まったばかりなのだから。


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