赤ちゃんってかわいいね

「赤ちゃんってかわいいね」


メイトギア人間が産んだ乳児を抱き、サーシャはふわっとした笑顔でそう言った。生まれてからただ一人の生き残りとして生きてきて、自分以外の人間は写真や映像の中でしか見たことがなかった彼女は、実際に触れる赤ん坊の重さと温かさに感動さえしていた。


だから彼女は、自分の家の隣に住むメイトギア人間、フィリス・フォーマリティの乳児の世話を積極的に行っていた。フィリスはメイトギア人間のリーダー的存在であり、同時に、このイニティウムタウンの暫定的な町長でもあった。その為、家を留守にしがちなフィリスに代わって乳児の世話をしているということだ。


フィリスの家には<フィリス・フォーマリティの本体>でもあるメイトギア、フィリスEK300がいるのだが、フィリス・フォーマリティが出掛ける時にはフィリスEK300も基本的には随伴するので、世話をする者がいなくなってしまうという事情もあった。


メイトギアのリンク機能の通信範囲は通常では百メートル前後。それを補う為のリレー機器の増設も行っているのだが、なにぶんリレー機器の数が足りず、イニティウムタウン全体をカバーするには至っていなかった。町周辺の施設などを捜索して機器の補充に努めているものの、広範囲でロボット同士をリンクさせて使うというのは軍などの一部の用途に限られており、あまり一般に出回っているようなものではなかったのがネックとなっていた。それ故、近々、必要な機器を生産する為の工場の建設が予定されている。それが完成して製造が始まれば、一気に充実することになるだろう。


また、現在、メイトギア人間の男女比は一対三。これは商業施設にいたCLS患者の大半が女性だったことが影響していた。男女でカップリングを行い同居させてはいるのだが、その方法はランダムだったのでフィリスにはたまたま当たらなかったという訳だ。女性同士で同居させることも検討されたものの、いずれ男性が補充された時に新たにカップリングしなおす手間を考えると敢えてそれは避けられた。


それに、こうしてサーシャがフィリスの子の面倒を見たりと相互に補い合っているので、それほど大きな問題でもない。当然、まだ子供であるサーシャに乳児の世話をすべて任せる筈もなく、実際に世話をしているのはコゼット2CVドゥセボーであり、サーシャはその手伝いをしているにすぎなかったが。


しかしこれも、いずれサーシャ自身が子供を産み育てていく未来を見据えての実地のトレーニングという側面もある。自ら子を成し育てていくことができなければ、社会は成立しないのだから。


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