順調な町づくり

メルシュ博士の計画の下で行われた町づくりは、順調そのものだった。町の外から移築された住居は、敢えて整然としすぎないように建てられた。高性能な難燃素材で作られた現在の住居は火事になるということがまずなく、延焼を防ぐ為の空間を開ける必要もなかったので、敢えてそれぞれの間隔を狭くして、若干、雑然とした感じになるように建てられた。


その一方で、大きく空間を取って悠然とした印象になるような区画も設けた。こうして多様な環境を再現することで、ゆらぎを作り出していくのである。


道路も、メインストリートとなるもの以外は敢えて不規則に曲線を描くように作られた。生物の体に完全な直線となる部分は殆ど存在しない為、あまりにも直線的に作られてしまうとかえって心理的な負担になるということが、これまでの研究で分かっていたからだ。メルシュ博士は科学者として技術者としてそれを取り入れているに過ぎない。


町が建設されている辺りでは季節の変動が比較的緩く、あまり実感はできなかったが、それでも季節は廻って一年が経過していた。町はすっかり町らしくなり、それを取り囲む柵の外には高さ三メートルを超える堅牢な<壁>も建設され、大型のCLS患畜対策も万全となっていた。


ちなみに、カラスより大きい脳を持っていれば鳥もCLSに感染するのだが、ご多聞に漏れず動きが緩慢になる為、空は飛べなくなる。元々空を飛べない鳥類であればそれほど大きな問題にはならないかも知れないが、本来は空を飛んでいた筈の鳥類の場合はそれは致命的な欠陥であり、餌をとることもままならず次々と活動を停止していった。大体、半年くらいは何も食べなくても体を維持できるようだが、実際にはその間も自らの体を少しずつ分解することで維持する為、それが限界に達すると活動を停止し、やがて肉体も崩壊。骨さえ残さず塵となってしまうのだった。


そういう訳で、空からCLS患畜が侵入する心配はなかった。もっとも、たとえ侵入したとしても、CLSを発症しないこの町の住人にとっては何の驚異にもなりえなかったが。


その町の、やや雑多な感じで構成された区画に、サーシャとコゼット2CVの家があった。そしてその近所には、サーシャと同じくらいの年齢に見える子供達を連れた親子のような集団が暮らしていた。


子供は、DNAをコーディネートされたCLS患者のクローン達であり、親と思しき大人は、それを養育するメイトギア人間達であった。さらによく見ると、腹の大きな女性の姿も見受けられる。


それらは、DNAをコーディネートされた人工的な不顕性感染者の胎児を宿したメイトギア人間なのであった。


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