メイトギア人間

ただ、それを実現する為には、この実験に協力してくれるメイトギアを集める必要がある。自分のメイトギアを使っても良かったのだが、それでは思考パターンが限られてしまい面白くない。他人の下で自分以外の価値観を学んだメイトギアを基にした多種多様な<メイトギア人間>を揃えたかったのである。


幸い、今回の件で結構な数のCLS患者が手に入った。そこで早速、比較的損傷の少なかった若い女性のCLS患者にアリスマリアHと同じ処置を施したのだった。頭蓋を切開し、頭部内のCLSウイルスによるコロニー様の器官を摘出、人工脳を移植するという処置を。


だが今回は、自分の本体とリンクする訳ではない。博士が目を付けたのは、レオノーラAM308、<エレオノーラ>であった。まずは彼女で試作するということだ。


エレオノーラの役目はCLS患者達の身の回りの世話だったので、人間の体になってしまってもそんなに大きな影響は出ないだろうという判断だった。


しかしその為の準備はいささか手間のかかるものだった。自分自身については本体とインターフェースを通信によってリンクさせるというのは最初から予定してあったことなので専用の通信機能もあらかじめ用意してあったのだが、メイトギアにそんな運用方法は想定されていない。その一方で、メイトギアを含むロボットには、複数の機体をリンクして一つの意識で同時運用するという機能もあった。それを応用することが可能だとは思われた。それでも生身の肉体をそういう形で操ることなど前代未聞だし、そもそもロボットが果たして生身の体を上手く操れるのかというハードルもあった。


ロボットであるメイトギアに人間の生理機能を制御する能力などある筈もなく、それ故、必要な基本的なプログラムは人工脳の方にインストールするしかなかった。しかも、メイトギアとリンクする為の通信機能も増設する必要がある。最初の想定では単純に自分の本体で人間の体を操ることしか考えていなかったので、メイトギア向けのそれは持たせていなかったのだった。


そこでメルシュ博士は実験用の人工脳を改造してメイトギアとのリンク機能を持たせ、生身の体を制御する為の基本プログラムのインストールを行った。ここまでで一週間。これはメルシュ博士にとっては予想外に時間を要したという感覚だった。


「ふう、やれやれ。まさかこんなに手間のかかるものだとは…」


たった一週間でそれだけのことをやっておいてまだ不満とか、博士の感覚はやはり常人には理解できないものだっただろう。


こうして、<メイトギア人間>第一号、レオノーラ・アインスが誕生したのだった。


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