不顕性感染者

あまりに地球の環境と似ていた為に本当の意味での<第二の地球>と期待された惑星リヴィアターネを地獄へと変えた偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLSではあったが、それでもなお、先天的に免疫を持っていたり、発症を阻害する遺伝的な要素を持つ人間が存在することは、以前から予見されていた。そして、CLS患者をバラバラに切り刻みあらゆる細胞をサンプルとして集め、それを解析したメルシュ博士のシミュレーションにより、それの存在はほぼ確実であるということが裏付けられていた。


生物のDNAには、その役割が判然としない、俗に<ジャンクDNA>と呼ばれるDNAが存在している。二十一世頃には人間には約九七パーセントのジャンクDNAがあるとされていたが、その後の研究でその割合は三八パーセントにまで減少していた。多くのジャンクDNAの機能が特定されたということだ。ただし現在もなお不明な部分があることも事実であり、今回、それまで不明だったものの一つの役割が特定された可能性があった。


あくまでシミュレーション上の結果ではあるが、そのDNAが活性化している人間の神経細胞や脳細胞では、CLSウイルスは増殖できなかったのだ。しかも、本来なら自己崩壊してしまうところが逆に共存するかのように大人しく振る舞い、安定していたのだった。とは言え、そのCLSウイルスも別の個体に入ればはやり恐ろしい病原体であることは変わらず、当該のDNAが活性化している場合のみの反応であった。


が、メルシュ博士は、それを研究結果としていつでも発表できるように纏めはしたものの、それ自体には特に関心を抱いてはいなかった。以前にも触れたが、彼女はCLSという病が何をもたらすのかということにしか興味がなく、どうすればそれを制圧できるのかなどはどうでもよかったのだった。


それに今回分かったことは、ウイルスに感染しながらも発症はしないという不顕性感染者の存在の可能性が明確に示唆されたというだけであって、ウイルスそのものを抑制することには繋がらないとも言えるだろう。


ただ、そのDNAが活性化している人間の割合は約百万人に一人と推測されており、単純な数字上の話で言えば、最大一億数千万人の人口があったリヴィアターネでも百数十人の不顕性感染者が存在した可能性があったということだ。


さりとてこの場合は、感染しても発症しないというだけでウイルスそのものはその人間の体内で生き延びる為、たとえ本人は発症しなくとも、移動することで逆に他の地域への感染を拡大させる、感染経路の一つというものでしかなかったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます