コレルフ

コレルフは、十代から二十代くらいの女性だった。生存中に先に発症したCLS患者に襲われた際についたのであろう傷や、壊死した部分の傷を除けば比較的美麗な女性だったようだ。確保された時の服装も、いかにも今風の若者といった感じの明るく軽快なもので、まさに青春を謳歌している真っ最中に悲劇に襲われたのだと見えた。


もっとも、メルシュ博士がその辺りを気にする筈もなく、現在は裸にひん剥かれて室温や湿度が適切に維持されたCLS患者収容棟の個室で過ごしている。その様子は他のCLS患者と変わりなく、やはり焦点の合わない視線を中空に向けて知性を感じさせない虚ろな表情をしており、腹が減れば餌を求めて部屋の中を徘徊するという日常だった。


食事は一日に一回。しかも量としては決して多くなかった。以前にも述べたがCLS患者は食べたものを全く無駄にしない上に腸内細菌すら殆ど存在しないので便を排出することがない。ある程度の毒物すら腸内に生じたCLSウイルスによる微小なコロニー様の器官によって分解、無害化されて体内に吸収、肉体の維持に活用されるのが確認されていた。それでも、重金属など、量は少ないが完全に役に立たない物質もある為、それら微量な廃棄物は皮膚に蓄積されて垢という形で排出される。故に、個室にはトイレも備えられていたのだが、一度も使われていなかった。


ちなみに、CLS患者用の個室は、刑務所の独房をイメージすれば近いかも知れない。檻の代わりに透明な樹脂製の壁があるだけだ。樹脂製の壁と言ってもその強度は鋼鉄製の檻の数倍あり、巨大なヒグマが全力で暴れても傷すらつかないものである。しかし内部はエレオノーラによって常に清潔に保たれ、下手な独居世帯のワンルームよりも快適かも知れなかった。


まあそれはさておき、このコルレフと、コルトロイス及びコルシックスの三人は、コルフュンフから採取された精子と人工授精、CLS患者による妊娠の実験に供された。ただし、コラリスらとは違い、ナノマシンの補助なしで妊娠が継続されるかどうかが今回の実験の目的だった。その結果、着床後数時間で受精卵は死んでしまい、流産という形で終わった。


その後も何度か試されたがことごとく失敗。これにより、ナノマシンの補助なしでは妊娠の継続は難しいと見られ、CLS患者には通常、生殖能力がないということがほぼ確実と推測された。だが、今後、ナノマシンの補助を受けながらも妊娠に成功したコラリスらに対しても同様の実験が予定されている。妊娠の経験がある肉体でも同様なのかを確認する為であった。


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