新たなる犠牲者

その<実験材料>とは、察しのいい者ならもう気付いているだろうが、自身のクローンである。人間のクローンを作ること自体はそれなりの知識と設備さえあれば学生レベルでも可能な、既にありふれた技術だったのだが、再生医療についてはまた別に進歩しており、クローンの利用法として懸念されていた臓器移植用の検体として作る必要がなくなったことで、愛玩用等にしか利用価値がなくなっていたのだった。ちなみにこの時代にはシミュレーターが非常に高度に発達しており、動物を使った実験は既に行われていなかった。


それ故、総合政府は人間のクローンを作らなければならない特段の事情はないとしてこれを厳しく制限。人間のクローンを作ることは生命倫理上の最上級の禁忌として重犯罪と規定されていたのである。それこそ、懲役数百年レベルで。


しかしメルシュ博士はそんなことはどこ吹く風で、生体実験用にと自らのクローンを既に生産していたのだ。そしてそれは、当然、<アリスマリアの閃き号>に積み込まれ、一緒に来ていたのであった。


「よし、それでは次の段階に移るとしよう」


二棟目のCLS患者の収容棟が完成したのを確認した博士はそう言って、さらにメイトギアを起動させ、今度は自分のクローン三体と共に降下させた。クローン達には一切知識の類は入っていない。肉体は既に完成された成人のものだが頭の中は赤ん坊と同じだった。必要とあればインストールという形で知識を与えればよかったのだが、CLSに感染させるとなればどうせ人間としての脳は失われるのでその必要もなく、保存用のカプセルの中に外気を取り入れただけで、クローン達は次々とCLSに感染、発症していった。


博士はその様子をつぶさに観察し、感染と発症までのデータを集めた。普通の人間からすれば正視に堪えない光景だっただろう。嬉しそうに笑顔を浮かべながら、自分のクローンが次々と死んでいくのを眺めていたのだから。


こうして得た新鮮なCLS患者にコラリスと同じ処置を施し、さらには人工授精でコラダムとの子を妊娠させていき、それぞれに<コライン><コルツェウィ><コルドレイ>と名付けて収容棟で飼育した。妊娠というのはさすがに時間がかかるので、効率よくいろいろなパターンを見るには複数を同時に観察する必要があったからだが、どうしようもなく滅茶苦茶である。


「博士、あなたは本当に最低最悪の人間ですね」


リリアテレサがやはり軽蔑しきった視線を向けながら、嬉しそうにサンプル達を眺めるメルシュ博士に向かって吐き捨てた。ロボットであるリリアテレサでさえ唾棄すべき存在と認識してしまう程だったということだ。


無論、メルシュ博士にはそんなことを気にするような感性は存在しなかったのだが。


「褒め言葉として受け取っておくよリリアテレサくん」


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