第40話 月の広場
ヴィルデザイアは苦戦していた。
「くそ、離せよ!!」
絡みつく無数の手。二匹のヘカトンケイルに組み敷かれ、剥がしたそばから次から次へとまとわりついてくる。
「失せろ!!」
空気を焦がす巨大な火球――ルディの援護射撃だ。しかし圧倒的な物量を前に付け焼き刃など通用しない。遂には視界までもが埋まり始める。
「しつこいぞ……この!!」
頭部を捕まれ視界が消えた。反射的に旭は叫ぶ。
「メテオフラッシュ!!」
ほんの一瞬、視界がホワイトアウトした。更にその直後、視覚がシャットアウトされる。恐らく保護機能なのだろう。存外丁寧に作られている。
数秒後に復帰した視覚で周囲を確認。わかっていたことだが、依然として状況は変わらない。
ほとんど互角のパワーに、驚異的な物量。ありとあらゆる戦術をシミュレートし、逆転の
手詰まりか?
旭の脳裏に最悪の予感が過る。身動きが取れずなにもできない。万策尽きた。しかし、その時――
突如、ヘカトンケイルの片割れがその動きを止めた。それからビクリ、ビクリと大きく震え、土手っ腹から円錐状の物体が突き出す。
「んなっ!?」
体液を撒き散らし、回転する円錐。絶え間なく与えられ続ける、高速回転のエネルギー。限界を超えた魔獣の肉体が、遂に千切れて弾け飛んだ。
「待たせたな!!」
思考の外から声が降る。この声は――勝だ。
――『VAF-7
ドリル状の右腕を携えた巨人が、一歩踏み出しヘカトンケイルを蹴飛ばした。
「立てるか?」
「はい、なんとか……」
黒と白のツートンカラーで彩られた巨人。これが掃儀屋の巨大ロボットなのだろう。
全体的に無骨なシルエットを持ったそれは、しかし至ってプレーンな人型である。ドリル以外の武装も、特に見受けられない。いいや、確かに武装の多彩さイコール強さというわけではないのだが。
「さあ、次だ!」
蹴り飛ばされたヘカトンケイルが、廃墟を崩して立ち上がる。すかさず攻め立てる豪月華。取っ組み合いからマウントポジションに踏み込み、右腕のドリルを掲げた。
「モードチェンジ! モルゲンステルン!!」
モーフィング――ドリルが液状に溶け、その姿をトゲ付きの鉄球へと変化させる。
「そらよ!」
大質量に夜連撃。執拗に繰り返される打撃は、ヘカトンケイルの動きが止まるまで繰り返された。過激なファイトスタイルだ。
「さあ、次だ」
見上げれば、次々と降り立つ巨人達。各個撃破されると踏んで一気に出してきたのだろう。数は……六。
「半分ずつでいいですか?」
「いやいや、そこは協力しようぜ」
「チームワーク、よくわからなくって……」
「なんとでもなるさ!」
先に踏み出す豪月華。その動きに、旭は違和感なく追随することができた。なぜ? いいや、考えている暇などない。
旭が右に踏み込むと、豪月華は左側に出た。特に打ち合わせなどはしていない。だが、なぜか――馬が合う。
(やりやすいな……!)
目の前の石塊――ゴーレムだろうか。右に左に機体を揺らし、翻弄したところを左右から挟み込む。
先行するトゲ鉄球。体勢を崩したゴーレムに、大上段から旭が一太刀――浅い。
「メテオフラッシュ!!」
切り傷目掛けて三連射。これ以上の連射は隙ができる。別のゴーレムの拳を返す刀で受け止め、旭は叫ぶ。すでに跳躍していた勝に向けて。
「任せます!」
「合点承知!!」
傷ついたゴーレムがたたらを踏む。そこへ迫るは質量とエネルギーの暴力。はるか上空より高められる位置エネルギー。豪月華のモルゲンステルンが、ゴーレムの巨体を打ち砕く!
「砕け散れ!!」
木端微塵とはこのことか。もはや瓦礫と化したゴーレム。飛び散る破片が機体を打った。
旭も負けてはいられない。
ゴーレムの腕を受け流し、すかさず当身で体勢を崩す。足払いで体を浮かせ、そのまま背負いの姿勢に持ち込む。
狙いはもう一体のゴーレムだ。
「ゴーレムにはゴーレムをぶつけんだよ!!」
衝突――瓦解! これで三体残りは二体。電光石火で駆け抜ける。
「一気に決めるぜ!!」
「はい!!」
豪月華の両腕が変形。スタンロッドで動きを止める。旭は相手を見極めた。
ヴィルデザイアの水晶の瞳が、旭の瞳とシンクロする。見えるのは相手の姿、組成、そこから見出されるのは――物質的な弱点。
描くべき太刀筋が見える。
斬るなら、ここだ。
「せい!!」
一刀両断、脳天唐竹割り。
「そいや!!」
踏み込み、更に一太刀。
――決まった。
芯を割られて崩れ落ちるゴーレム。わかってしまえば脆いものだ。
「それほどか!! ならば、我が自ら誅する他ない!!」
ローブの異形が名乗りを上げる。
「我こそは、
ローブの下から姿を現す半人半牛の異形。拳を握りしめ、天を揺さぶる咆哮を放つ。ヘカトンケイルなど比較にならないそれに、旭達は思わず立ちすくむ。
刹那、ミーノータウロスの肉体が大きく膨らんだ。ヴィルデザイアや豪月華に並ぶ巨体は、両腕に身の丈ほどもある斧をそれぞれ構える。
それはゆっくりと大地に降り立ち、旭達に得物を突きつけた。
「そなたらよ、恐れを知らぬというのなら……我が相手をしてやろう」
殺気が、闘気が、ただならぬ悪寒が機体を通して旭に伝わる。先程の一見隙だらけな挙動に、ほんのわずかな弱みも見せなかったのがその証左だ。旭も勝も前口上を聞いてやるつもりなどなかったはずなのに、一歩も動くことができなかった。
だが、しかし。この程度のことで怖気づいているようでは、世界の果てまで後ずさるというもの。
勇猛果敢に旭日を突きつけ、旭は言う。
「僕は逃げない。ここで、お前を必ず討ち倒す」
「そうでなくてはなあ!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
最初に動いたのはミーノータウロスだ。疾い。目にも留まらぬ一撃が、ヴィルデザイアに襲いかかる。
「ぐぅ……!」
二丁の斧を用いた、流れるような連続攻撃。そのそれぞれが、重く、鋭い。受けきれずに倒れ込むヴィルデザイア。早くも劣勢を強いられていた。
しかし旭はひとりじゃない。
「今夜はすき焼きだ……!」
ルディの巨大な火球が。
「武器がデカいからって!!」
豪月華のドリルが。
「目くらましだ!」
トライスコーピオの銃弾が。
四方から迫りミーノータウロスを襲う。ほんの一瞬、かすかに生まれた隙を見定め旭は攻勢に打って出た。上半身のフレームで跳ね上がり、牛頭にカニバサミを食らわせる。
「小賢しいわ!!」
豪腕から放たれる重い一撃を気合で耐え、体重移動で相手を倒す。マウントポジションだ。
――だが、しかし。
そこに横槍を入れる者が居た。
「ライジング・インパクト!!」
直上より雷撃――見えた!
「ドレインニーベル!!」
雷槌を吸収して凌ぎ、続く刀の一撃を旭日で迎え撃つ。源雷光が、新たなヒトヨロイを引っさげて現れたのだ!
上からの攻撃はなんとか耐えきった。しかし次は下からだ。馬鹿力でマウントポジションを崩され、そのまま無造作に投げ飛ばされた。
立ち上がったミーノータウロスの傍らに寄り添い、雷光は宣言する。
「作戦変更。俺らはこっちにつくぜ」
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