第33話 必殺の一撃
「っぶねえな……」
黒焦げになったガシャドクロを放り捨て、雷光は悪態をつく。
「クソガキが、調子こきやがって……」
ギリギリで味方を盾にしたのだ。手駒を使い捨てることに対して、一切の躊躇いもない。故に手強い相手であった。
旭は息を呑む。
実のところ、あの一撃で仕留めるか……あるいは致命傷なり深手なりを負わせるつもりで居たからだ。
周囲のエネルギーを吸収し我がものとするドレインニーベルだが、万能ではない。強力な武装であるが故に、かなり長めのクールタイムが必要なのだ。
対してライジングインパクトは連発が可能。弱点の露呈を防ぐためには、雷光がドレインニーベルを警戒して使ってこないことを祈るしかない。
刀を構えた雷光は、ぶっきらぼうに語る。
「そもそもの話、こんなところで足止めを食う予定はなかったんだ。……確か、ヴィルデザイアだったか? 一体どこからそんなもん持ってきたんだよ。なあ魔女さん?」
水晶の瞳がルディを見据えた。しかし彼女は、身の丈の十倍近い相手と対峙しても怖気づくことすらしない。
「貴様に語って聞かせるつもりはない」
「そうかい」
そもそもルディの証言などアテにしていなかったのだろう。視線をヴィルデザイアに戻し、言う。
「まあ、とっ捕まえてバラせばなんかわかるだろ」
旭は身構えた。向けられていた殺気が、一段とその意志を増したからだ。
「――行くぜ」
雷光が刀を鞘に戻す。居合の構えだ。旭もまた正面に意識を集中し、必殺の一撃に身構える。
そこで、ふと気づいた。
背後からも殺気を感じる。
ガシャドクロか? いいや、そんなチャチな殺気ではない。旭を必ず殺すという強い意志を感じるのだ。
挟み撃ちか、あるいは雷光はブラフか……いいや、考えている余裕はない。予備動作を極力省く。ヴィルデザイアの脚部関節に全エネルギーを集中させ、最小限の動作で跳躍を試みる。
間に合え――
一呼吸も置かず、轟音。
一瞬で移り変わる景色。眼下では瓦礫の嵐が吹き荒れていた。
「……相変わらず勘のいいガキだね。そういうの、嫌いだよ」
聞き覚えのある声だ。そう、この声は――皿屋敷お菊。
彼女もまた、雷光と同じように巨大ロボットを駆っている。手足は太く、五頭身。ぱっと見ただけでパワータイプだとわかる。
「雷光くん、ほんとに出てきちゃって良かったの?」
「仕方ねえだろ。こいつやたらめったら強えんだから。それにな、全員殺せば目撃者ゼロだ!」
抜き身の刀を下段に構え、ヴィルデザイアの着地を狙う。お菊もまた、応じるように拳を構えた。防ぎきれない。受けるならどっちだ。
いや――
「この!!」
機体を捻って着地点をズラす。民家に頭から突っ込んだが、挟撃は回避した。
「やるじゃねえか!」
乱暴に振るわれた逆雷の一閃を弾き、寝返りを打って続くお菊の膝蹴りを回避。その勢いでなんとか跳ね起き、再び旭日を構える。
来るか? 来るか? ――いいや違う。形成は不利。撤退の選択肢もない。ならば攻めて攻めて攻めまくるしかないだろう!
残りのガシャドクロは三体。仲間が雷光の盾にされたからか、露骨に士気が下がっている。旭はすぐに標的を定めた。
バックステップから横っ飛びにつなげて一閃。
――瞬殺。
雷光も動いた。数の利を活かした、旭を取り囲むような位置取り。どうにかして突き崩したい。
「メテオフラッシュ!!」
「来ると思ったぜ!」
雷光が跳んだ。旭は咄嗟に横っ飛びを試みて――失敗した。お菊に投げ飛ばされたのだ。石畳を砕き、頭から落下。そこへ雷光の一閃が迫る!
「世話の焼ける!!」
ルディの声と共に弾かれる刀。彼女がバリアを張ってくれたのだ。しかし巨大な障壁故に消耗も激しいのか、光の壁はすぐに消えてしまう。
しかし一筋の光は見えた。
もぎ取った猶予はほんの一瞬。雷光はすでに二の太刀を構えている。八相の構え――袈裟懸けか逆胴が来る。旭日はしっかりと握り締めているが、いかんせん体制が悪い。鍔迫り合いに持ち込むのは不利だ。三段銃に構え直す余裕もない。
それにここにはお菊も居る。無手からヴィルデザイアを投げ飛ばせるあの膂力、力比べで敵うとは思えない。そんな馬鹿力が雷光の次に控えているのだ。
そこで旭は考えた。その手に構えた旭日を、思い切り地面に突き立てる。割れるコンクリート。水道管を貫いたらしく、隙間から水が漏れ出した。
「なっ――」
上手く差し込めたらしい。雷光の斬撃は止まらず、突き立てた刀に弾かれた!
刀を支えに立ち上がり、その勢いで体当たり。ワンテンポ遅れてやってきたお菊の突進を、引き抜いた旭日で迎え撃つ。反動を乗せた一撃だ。
「重い!?」
腰を入れて、機体重量を全て刀に乗せる。
「だまらっしゃい!!」
しかし相手は勢いのついた大質量。付け焼き刃の反動では押さえきれない。
「まだまだ!!」
旭日は弾き返されたが、お菊も一歩後に退いた。結果は両者痛み分け。お互いに体勢が崩れている。しかし視界の隅では逆雷が立ち上がっていた。
駄目だ数の差を覆せない。
「クソがッ……!」
ほんのわずかに過る諦念。なにか他に打つ手はないか? じりじりと迫る敗北の二文字に旭の執念が燃え上がる。
諦めてたまるか。
どんな手段を使ってでも、勝利をこの手にもぎ取ってやる。
そんな想いが、天に通じたのだろうか。
なにかがお菊に飛来した。
「ん?」
爆発。
機体の半身を焦がされ、大きく体勢を崩したお菊。雷光が射線に目を向ける。よくわからないがとにかくチャンスだ。
旭は奔る。体勢を低くし、雷光の機体を突き飛ばした。すぐに振り返り狙いを定める。
「メテオフラッシュ!!」
「なにッ!?」
光線を連射しお菊に接近。視界を阻む爆風を、お菊の機体はその太い腕で乱暴に振り払う。隙だらけだ。
「賢しらぶって!!」
「それがどうした!!」
跳躍。振り回される腕を避け、首筋に旭日を突き立てる。
「グッ……悪いね雷光くん! 退くよ!!」
「ヘマしやがって……」
燃え上がる機体から飛び降りるお菊。それを庇うように逆雷が飛び出し、ヴィルデザイアに襲いかかった。
「なんだ! さっきのは!!」
「知らない!」
「シラ切ってんじゃねえ!!」
重い一撃。しかし威力を優先しているためかキレがない。そこで旭は受け流しを試みた。角度はこうして、踏み込みは浅く――
「知らないって」
――上手く行った!
「言ってるだろ!!」
千載一遇の好機。受け流し、体勢を崩した逆雷に大ぶりの一太刀を狙う。大上段から、大きく力強く踏み込んで――研ぎ澄まされた一撃を放つ。
一閃――直撃。
「なん!?」
左の肩口から先を斬り落とされ、逆雷は刀を取り落した。まさか旭に遅れをとるなどとは思ってもみなかったのだろう。見て取れるほどの動揺。
旭はガッツポーズをしてやりたいのを内心に抑え、更にもう一撃を叩き込む。返す刀の一太刀。
「クソッ!!」
大きな舌打ち。悪態をついて飛び降りる雷光。一拍置いて爆発――自爆装置か!?
「今日のところは退いてやる!」
捨て台詞と共に逃亡。雷光の行方を目で追うこともできず、そのまま逃してしまった。
肩を落とす旭の元に、ルディと真彩がやってくる。
「雷光もお菊も逃しちゃいました」
「まあ、仕方あるまい。異様に逃げ足の早い連中だ。撃退できただけでも御の字としよう」
結局の所、戦いはまだまだ続くのだろう。勝手に決戦のつもりでいたが、全くそんなことはないのだ。
故に。
「さ、早く帰ってひとっ風呂浴びよっか」
「その前に結界を崩すぞ。手伝え旭」
この生活も、まだまだ続いてくれそうだ。
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