第23話:秩父の紅葉デート

 こうしてやってきたデート当日の朝。

 天気も快晴だ。


 いつもの公園に朝七時半に集合となっており、樹は少し早めに出て行った。

 菜月が「デートなら早く集合場所に集まるように!」と言われていたからであり、樹も早くは行こうと思っていた。


「着いたけど天宮はまだかな?」


 腕時計を確認すると集合の15分前だった。


「クソ。母さん達が急かすから……」


 朝は楓や東、菜月から盛大にからかわれた。

 そんな三人から逃げるようにして家を出た樹は、待ち合わせ場所の公園のベンチに座って待つことにした。


「桐生さん」


 その声に振り返ると天宮がいた。


「天宮おはよ──ッ」


 樹は言葉に詰まった。

 理由はただ一つ。天宮に見惚れていたからだ。

 天宮の服装は、薄茶色のドルマンスリーブに上着に白色のロングスカート。十一月なので朝は冷え込むため、天宮は茶色のコートを着ていた。


 言葉を詰まらせた樹に、天宮は不思議そうに口を開いた。


「どうしましたか? もしかして変、でしたか?」


 そう言った天宮は自身の服装を見直していた。その表情は少し悲しそうに見え、樹は慌てて口を開いた。


「いや。変じゃない。あまりにも似合い過ぎてて、その、み、見惚れただけだ」


(何言ってんだ俺は! こんなん嫌われるに決まって──)


 樹は天宮をそっと見ると──顔を赤くして下を向いてモジモジしていた。


「あ、ありがとうございます。き、桐生さんもその、似合ってますよ?」

「あ、ありがとう」


 樹の顔も赤くなった。


「そ、それじゃあ行くか」

「そ、そうですね」


 近くを通り過ぎた男性からは、チッ、という舌打ちをされたが、二人には聞こえていたなかった。

 二人は最寄りの駅に向かうことになり歩き始めた。


 歩きながら昨日緊張していた事や、菜月に色々言われた事を天宮に面白おかしく話すと。


「ふふっ、菜月さんは面白いですね」

「ああ。厄介な事もあるけどな」

「それに私だって昨日は緊張してましたから」

「天宮が?」


 樹は、天宮も緊張する事があるのか、と心の中で思う。


「はい。異性の方と出かけるのは初めてで」

「そうだったのか。俺も実は始めてでな。なんなら今もまだ緊張してる」

「同じですね」


 樹と天宮は可笑しそうに笑った。

 最近は良く天宮の笑顔を見る機会も増え、その笑顔に樹は慣れてきた。


 まだ不意の笑顔にドキッとさせられることはあるのだが。


 そんなこんなで二人は最寄りの秩父鉄道の駅にと到着した。

 秩父までは地元の秩父鉄道で乗り換えなし一本で行ける。時間は一時間と長いようで長くない時間だ。人も休日だからか少ない。


 秩父鉄道にはICカードがなく切符となっており、車両数も三両と少ない。


「秩鉄は早くICカードとかを導入するべきだろ……」

「いいじゃないですか。切符でも」

「確かに。風情を感じるな」

「はい」


 二人は切符を購入し電車が来るのを待つ。それからしばらくして、長瀞行きの電車がやってきて停車した。

 車両数が三両なのは言わずもがな。


 電車に乗った樹と天宮の二人は、人数が少ないお陰か無事に座ることができた。


「紅葉楽しみだな」

「はい。どんな光景が見れるかワクワクしてます」

「俺もだ」


 こうして二人は電車に揺られながら向かうのだった。


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