第14話:聖女様指導の料理教室

「ではまず手を洗います」

「はい、天宮先生」

「その、先生はちょっと……」


 料理を指導して教えてくれるのだ。先生で間違いないだろう。


「教えてくれるんだ。敬意を払わないと」

「そうですか。でも先生はダメです。これからは禁止ですよ?」

「……仕方ない。分かった」


 本当に仕方なく、的な表情をしている樹を見て天宮は頬を膨らませる。


(なんだこの可愛らしい小動物は……)


 見ていて可愛らしいのだが、天宮のぷくーっと膨れた頬を、樹は突っ突きたい衝動に駆られる。だが、樹はなんとか踏みとどまる。

 そして、不機嫌そうな天宮に樹は謝る。


「ご、ごめん」


 謝った樹を見て天宮は、分かればいんですよ分かれば、と言って再び料理作りが始まった。


「最初は下味のタレ作りです。ここに出いるのを使って作ります」


 出ているのはチューブのすりおろし生姜とニンニク、料理酒、醤油、塩、黒コショウ、ごま油だ。


「後はこの鶏ガラスープの素も。これらを私の指示通りにボウルに入れていってください」

「了解」


 樹は天宮の指示通りに、各調味料をボウルへと入れていく。そして一度かき混ぜて置いておく。


「次は鶏肉を切ります」


 鶏肉もも肉を用意した天宮。


「まずは余分な脂を取り除き、フォークで肉全体をさします」


 お手本として天宮が見してくれる。

 手馴れた手つきで肉の余分な脂を取り除き、フォークで刺していく。


「あとはこれを食べやすい大きさに切って終わりまです。ここまで出来ますか?」

「任せろ」

「不安です……」


 包丁すらまともに持ったことがない樹が言ったのだ。

 天宮の発言はまともである。

 樹は包丁を手に取り肉を切ろうとした。


「桐生さん違います! 手は猫のようにするんです! それだと包丁で手を切りますよ? こうやって持つんです」


 そして樹は、天宮から包丁の持ち方から教わっていた。天宮の白磁のような白い手が、樹の手に添えられ指導されている。

 それから包丁の持ち方と猫の手をマスターした樹は、余分な脂を切り取り、フォークで刺していく。

 最後に一口サイズに切って終わる。


「見ていて危なっかしいです」

「ははっ、それほどでもない」

「褒めてませんよ! もぅ……」


 天宮は次の作業を指示し樹は従う。

 肉をタレの入ったボウルにいれてよく揉み、ラップをし冷蔵庫に入れた。


「タレが肉に漬かるように三十分ほど寝かせます。それまでは他の準備をしましょう」

「了解だ」


 味噌汁にサラダと、揚げるようの油を熱する。

 そうしている間に三十分が経過した。


「そろそろ大丈夫ですね」


 冷蔵庫からタレに漬けた鶏肉を取り出す。


「それでは漬けた肉を片栗粉にまぶします」


 天宮に言われる通り、一つ一つ丁寧に片栗粉をまぶしていく。


「それではこれらを一つ一つ丁寧に揚げていきます。ちなみにですが、油の温度は180度がベストです。

 それと油が跳ねますので、ゆっくり油の中に入れて下さいね。まずは私が見本でやります」

「わかった」


 片栗粉が付けてある鶏肉を、天宮はゆっくりと油の中へと投入した。それから続けて幾つか入れた。


「こんな感じです。やってみて下さい」

「任せろ!」


 天宮と同じようにゆっくりと油の中へと投入する。

 パチパチと油が跳ねる。

 それからも幾つか油の中に投入した。


「上手です。そんな感じですよ。あとは揚げ加減を見るだけです」


 天宮はパチパチと揚がっていく唐揚げを丁寧にひっくり返す。


「色はキツネ色より少し濃いめの色がいいです。外がカリッとしますからね」

「ふむふむ」


 天宮のお手本か終わり樹の出番になる。

 唐揚げを見極めてゆっくりとひっくり返す。


「そろそろ上げても大丈夫の頃合です」

「了解だ。任せろ」


 さえ箸で取り出して揚げ物用のバケットの上に置く。

 こうすることで余分な油を落とすのだ。

 それから少しして全て揚げ終わった。


 盛り付けをして樹と天宮は席に着いた。


「「いただきます」」


 天宮は樹が作った方の唐揚げを取り口に運んだ。

 樹は天宮の感想を待つ。

 少しして飲み込んだ天宮は口を開いた。


「初めてにしては良く出来たと思います。ただ……」

「ただ?」

「少し揚げすぎましたね」

「まじか……」


 落ち込む樹に天宮は、慣れれば大丈夫ですよ、と言って励ます。樹も自身が揚げた唐揚げを口に運んだ。

 やはりか、少し外の衣が固い気がする。

 次に天宮の唐揚げを食べる。


「やっぱり天宮の方が美味い。揚げた時間が違うだけでこんなにも変わるのか……」


 天宮が揚げた唐揚げは外がカリッとしており、中はジュワッと肉汁が滲み出て口の中に広がる。

 樹は唐揚げに感動を覚えた。

 この唐揚げはまるで──肉の爆弾のようであった。

 唐揚げに感動している樹を見て天宮は微笑んでいた。


「……今度は完璧に作ってみせるさ」

「はい。期待してますね。でも怪我はしないで下さい」

「分かってる。猫の手はもう覚えた」

「ふふっ」


 まるで聖女のようで天使のような笑みを浮かべた天宮に、樹は心の底から唐揚げの作り方を教えてくれた事に感謝した。


(今度は天宮に完璧と言わせてやるぞ!)


 樹はそう熱く誓うのであった。






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