8話 任務を承りました
カキレイの街、一軒しかない宿屋の食堂にて瑠偉は、今日も愚痴を言いながら朝食をとっていた。対面には、ララが今日も動かずに、静止して座っている。今日の瑠偉は、治療行為もなく自由な一日である。
「お嬢様。今日は、お一人で行動してください。文字通り自由行動でお願いします」
突然のララの言葉。瑠偉は食事を中断し、ララを見た。が、ララの考えが読めるでもなく、眉間にしわを寄せ、微妙な顔つきになった。
「前にも言いましたが、一人は嫌です。付いて行きますからね!」
「構いませんが。私の行動の邪魔をしないよう、お願いします」
「何をするんですか?」
瑠偉は、そう言うと固いパンを千切り、スープに漬けグルグルと回し始める。そして湿って柔らかくなったパンを、口に運ぶララを見ながら口を動かし始める。
「マスターより、特別な任務を承りました。とても重要な任務です」
「どんな任務なんですか?」
「お嬢様、質問が多すぎです」
「だって・・・」
瑠偉はララを見て、その言葉の続きを言おうとしたが、言わなかった。彼女は、自我のある人工知能と、親身になって会話したことは無く。どんな会話をすればいいか、解らずにいた。必然的にララが話かけると、それに対する質問しか出てこなかった。
「スイーツを作って、マスターに届ける任務です」
瑠偉はスイーツと聞いて、持っていたスプーンをテーブルに置くと。両手をテーブルに置き、口元を緩めながらララを見た。
「当然、私の分もありますよね?」
「無いです。マスターと麻衣様、とある人物の3人分です」
なぜ? と思った瑠偉は、目を閉じ手を握りしめる。そして一呼吸おいて、ララに文句を言う為に、大きく息を吸った。
「麻衣の分があるのに、なぜ私の分が無いの!」
「優先順位の問題です。どうしてもと言うなら、聞きますが…」
優先順位と聞いて瑠偉は、テーブルに出していた腕を戻し腕組をした。そして悩ましい表情で、優先順位について考え始めた。今までのララの行動、そして兼次との関係。そんな事を考えていると、自分の優先順にをララに、聞かずにはいられなくなった。
「私の優先順位って、もしかして低いんですか?」
「一般的な地球人より、幾分上程度です」
「ど… どの位置にいるの?」
「最優先はマスター、その下がマスターや私と関係が深い人物です。麻衣様、夜巳様、刻夜様となります。その下が佐久間様で、お嬢様はその下のさらに下となります」
「麻衣は、あの関係があるからいいとして。なんで私が、美憂より下なの?」
「マスターとの親密度の差です。恋人状態を100として、親友関係を80とします。そして、マスターと無関係の人物をゼロとしましょう。佐久間様は67です。お嬢様は46で知り合い以上、友達未満の中間より下です」
瑠偉は、美憂と兼次の関係を、思い浮かべる。地球に帰ってくる前は、4人一緒に過ごしていた。その時は、美憂と兼次の関係は、そこまでよくなかった。むしろ、瑠偉と同程度のはずだ。地球に帰って来てからも、行動に差は無かったはず… と瑠偉は思った。
「美憂と兼次って、そんなに仲がいいようには見えない・・・ んだけど?」
「お嬢様は、知りませんが… マスターが佐久間様の部屋に、何度か出かけております。そして新作の料理を、振舞われました。麻衣様と刻夜様も同席しておりますが」
瑠偉は初めて聞く出来事だった。まぶたを頻繁に開閉させていた。口を半開きで固まっていた。彼女の頭の中にララの言葉が、繰り返し、繰り返し頭の中を駆け巡っていた。
「お嬢様だけが、佐久間様と麻衣様を… 親友と思っているかもしれません」
「そんな事ありません! 小学校から、ずっと一緒に・・・」
勢いよく否定した瑠偉だが、少しずつ声の圧力が弱まる。そして、ララから視線をゆっくりと外した。
「思い当たる節があると、言う事ですか?」
「あると言えばあるけど・・・ 最近は3人一緒に行動してないと言うか・・・」
「でも安心してください。来年は一緒のクラスですよ! 留年と言う形ですが」
瑠偉は眉間にしわを寄せながら、小声でララに聞こえない様に「なんか複雑…」とつぶやく。そして、また食事を再開する。
「お嬢様は、もう少しマスターに… 股を開いてみてはどうですか?」
瑠偉は「えっ」と驚き表情でララを見た。
「失礼しました。心を開いてみてはどうですか?」
「人工知能も、言い間違えするんですね?」
皮肉交じりに瑠偉は言うと、食事を少し残し口元をハンカチで拭き始めた。
「わざとですが?」
「わかってます!」
瑠偉は力ずよく発言すると、ハンカチをしまい立ち上がる。それに合わせララも立ち上がった。
「では、私は買い出しに行きます」
「ついてきます」
ララは食堂から、宿屋の出口に向かって歩き始めると。その後を瑠偉が後を歩き始めた。
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