十一話 三種の神器
一部に古風な街並みが残る古都を、黒い人影が疾走する。
「あそこだね……。かなり防御が硬そうだけど、避けて侵入する暇は無いか」
氷華は目標を目視できるまで近づくと、道端の石を拾い上げ、詠唱を始めた。
「
瞬間、石が莫大なエネルギーに変化し、核兵器に匹敵する熱量が叩き込まれた。
◇◇◇
「さてさて、いよいよ本番か」
「まだあの子がちゃんと使えるか微妙だけどねー」
雨木優太と雨木優奈の兄妹がこれから行われる実験について話していると、突然轟音が鳴り響いた。
「……なんだ?」
「様子を見に行きましょう。もし邪魔になるなら排除しなくちゃね」
二人が門、正確には門が有った場所に行くと、そこは焼け野原になっていた。周囲に緩衝地帯が有る事も有り、壊れたのは雨木低のみだが、魔術を隠蔽に気を配っていないのは間違いないだろう。
「なんだこれ……?」
「さ、さあ? でもこんな事されたら放って置けないよ」
「ああ、犯人を見つけ出して報復しないとな」
無邪気に復讐を企てる二人の元へ、黒い人影が接近する。二人がそれに気が付くより前に、優太の首に剣が付きつけられていた。
「ひっ」
「琴音さんは何処?」
そこに居たのは恐ろしい殺気を放つ一人の少女だった。感情が読めない声と顔なのに、何故か尋常じゃない怒りを感じさせる。
「この——」
「
優奈が攻撃しようとすると同時に、彼女は地面に倒れていた。しかも、全身が異常に重くなり、立ち上がることが出来ない。
優太は優斗の兄だけあってそれなりに整っている顔を恐怖に引きつらせる。
「ち、地下、だ……」
恐怖の余り答えると同時に、霧崎氷華は消えた。
その数秒後、氷華が床を打ち抜く。そして、どこかに居る筈の琴音を探そうとし、
「……え?」
自らの体のに起きた異常を感じ取った。
◇◇◇
「さて、じゃあ何を企んでいるのか答えて貰おうか。無駄な苦痛を味わいたく無いなら早く答えるんだな」
「ああ、俺が計画した実験だ。何でも聞いて構わん」
予想以上に素直な態度に優斗は若干困惑するが、特に拘泥する事ではないと判断した。
「さて、じゃあ——」
「その前に、あれを持っていけ」
優河が目で指示したのは、透き通った漆黒の刃を持つ刀、即ち雨木家の家宝、“法滅”である。
優斗は増々困惑する。出奔した相手に家宝を渡すなんで前代未聞だ。
「良いのか?」
「ああ、それは本来お前が持つべきものだ。その為に代々伝えてきたのだからな」
「おいおい、僕に雨木家の事情を押し付けられても困るぞ」
優斗は雨木家の願いなど知ったことでは無いのだ。むしろ実家の事が嫌いなので、頓挫すれば良いぐらいに思っている。
「だろうな。だが、その力は必ずお前の、いや霧崎氷華の力になる」
「……」
「魔術師殺しの目標は魔術による一般人への被害の撲滅と言った所だろ」
「いや、魔術関連の優先度が高いだけで、理不尽な人の死そのものを嫌っているな」
「そうか、それなら尚更だな。いいかよく聞け。アレ(・・)は誰かが一方的に与えた世界平和など認めない。どこかで必ず霧崎氷華の障害になる。言っておくが、いくら霧崎氷華が強いと言ってもアレには絶対に勝てないぞ。だが、お前とその刀だけが抑止力になりうるのだ」
「……貰っておこう」
優斗は優河の言う存在が何かに辺りを付け、“法滅”を受け取った。雨木家の目論見に乗るのは癪だが、そんな不快感は事は氷華に比べれば無いも同然だ。
「さて、計画を説明しよう。三種の神器は知っているな」
「そりゃあ勿論」
三種の神器を知らない魔術師は日本に存在しないだろう。歴史の教科書にも載っている為、きちんと義務教育を受けたのなら一般人でも知っているだろう。神話では天照大御神が天皇の祖先に授けたとされている。
そして、魔術的には世界最強と言われる伝説の神造礼装だ。日本国内でしか使用できないとはいえその性能は破格で、第二次世界大戦の際、これが有るという理由で世界中の魔術師がどんな報酬を提示されても日本本土への魔術攻撃を断ったという伝説のが有るほどだ。
一つ一つも礼装として優秀だが、それは現代では同等のものが存在する。本命は三つ揃った時だ。その能力は、“所有者に日本国内に存在する全てのエネルギーの操作権を付与する”、と言う物。
つまり、三種の神器の持ち主以外は自由に魔術を使えない所か、物を燃やす、家電を使うと言った事すら出来なくなる。それどころか生命維持すら不可能だ。
逆に持ち主は莫大なエネルギーを自由自裁に扱う事が可能になる。
余りに規格外の性能を持つ為、悪用されたら日本が終わる。だから、三種の神器はずっと別々に管理し、基本的に使用しないという事になっているのだ。三つ揃わなければ少々優秀な礼装でしかないのだから安全という訳だ。
第二次世界大戦で敗北寸前の時すら結局使用されなかった程徹底して管理されている。
「まさか、三種の神器の再現を……?」
「違う。あれは厳重に管理されていて調べる事が出来なかったのも有って原理が余り分かっていない。現状では日本の国土と紐付けされている事ぐらいか。このせいで仮に全く同じ物が出来たとしても本物しか意味が無い。先に紐付けされている方をどうにかする必要が有る」
「成程」
礼装と土地がセットになっている場合、全く同じ機能の礼装が有っても機能を発揮できないという事例はそれなりにある。
イメージとしては同じ機種の携帯電話が二つあり、片方にだけSIMカードが入っているような物だ。いくら機能が同じでも通信回線と繋がっていなければ出来る事は大幅に減少する。
「だが、大幅に性能を落とした劣化版なら作れた。まあ色々なエネルギーを同時に使うなら大したことは無いんだが、一種類に絞れば本物に近い性能になる」
「へー、そんな物が作れるなら他所に頼る必要が無いって言いたくなるのも分からなくはないな」
「しかし一つ問題が有る。性能が不安定で、使用者の精神状態によって扱うエネルギーが全く違う物になってしまう。一種類に絞る為には特定の感情を膨大に蓄えた魔術師が使う必要が有るのだが、該当する者が居なくて困っていた訳だ。そんな時に膨大な憎悪と嫉妬が感情視の魔眼で見えたと風間の奴が言ってきてな」
「それが雲宮か……いくら最近色々有ったとはいえ、あいつがそんな事になっているとはにわかに信じがたいな……って言うか風間の奴感情視なんて持っていたのかよ」
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