三章 未来の選定者

三章プロローグ

◇イギリス エインズワース家本邸

 エインズワース家は世界最大と言われる魔術の名門だ。数多くの分家や弟子が有り、莫大な予算と人員を使って研究を行っている。だからこそ魔術師殺しの被害が大きい訳だが。

 エインズワース家の本邸にいくつかの魔術師の家のトップが集っていた。技術交換等の目的で魔術師同士で交流する事は良く有るが、これだけの面子がそろう事はそうそう無い。彼らが何を話しているのかと言えば、霧崎氷華をどうするかだ。


「いい加減あの小娘を何とか出来ない物かな」

「これ以上の人的被害と研究への妨害は止めたいですが、下手に手を出しても返り討ちになるだけですからね」


 彼らの身内の多くが氷華に殺されているし、彼女が居る事で民間人に被害が発生する魔術を避ける必要が生まれ、滞った研究がいくつも有る。

 だからこそ彼女を殺したいのだが、それは難しい。彼女は二十三魔人の一人であり、同格の相手を撃破したことが複数存在する。さらに言えばこちらから攻撃する場合は向こうの本拠地で戦う事になるので不利になる。

 いくら名門でも二十三魔人クラスの戦力は貴重だ。魔法や異能者に頼っている訳では無いのなら再現性の有る強さだが、それでも一世代にそう何人も用意出来る訳では無い。

 もし失えば今後の勢力争いにおいて大きなディスアドバンテージになる。実際にそれでシュターベルクが肩身の狭い思いをしている。だからこそどこの家も本気で霧崎氷華を討伐しようとしないのだ。そして対立する勢力に彼女を殺して欲しいと考えている。


「何か弱点とか無いのか?」

「無いでしょうね。彼女は基本的にどんな魔術でも使える万能型の様ですから。普通そう言うのは器用貧乏になる物ですが、彼女の場合器用万能なので恐ろしいのです」

「別に一対一にこだわる必要は無いだろう。二十三魔人を三人程集めて送り込めば良いだけの事では無いかね?」

「はあ、これだから単純脳は困る。仲間割れしてろくに戦えないのが目に見えているだろうに」


 魔術師は我が強い場合が多いので、ほぼ初対面の相手と上手く連携できる可能性は低い。

 そんなこんなで有効な方策が浮かばない中、この会を主催した老人が口を開く。


「彼女への処断だが、ワシに任せて貰えないかね? エインズワースの最高戦力を持って確実に潰そうと思う」

「ええ⁉ 彼を使うのですか⁉」

「ああ、少々扱いにくいじゃじゃ馬だが戦闘能力は最高だ。あやつなら小娘の一人や二人確実に潰してくれよう」


 集まった面々は憎き敵でありながら氷華に同情してしまった。それほどまでに彼は隔絶した戦闘能力を誇る。千年に一度と言っていい奇跡の産物だ。

 いくら強いと言っても常識の範囲内でしかない霧崎氷華に勝ち目はない。


「ああ、ついでにうちの裏切り者を始末しといてくれないかね? 勿論謝礼は出す」


 縮こまって黙っていたシュターベルクの当主がそんな事を言い出した。

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