八話 I don’t know why you grieve, but I understand what you grieve.

「だから、これをやったのは半人前の魔術師なんじゃないかって事。それなら手口が杜撰なのも、見つけられないのも、やり方が筋違いなのも当然だろ」

「は、はあ」


 想定外の意見に氷華は困惑していた。だが、一方で納得も出来る。

 事件の発生を隠蔽出来なかった事や、外出している人のみを襲っていた理由はそれが出来るだけの魔術が使えないという事で説明がつく。

 ごく結界が探知出来ないほどの小規模な魔術師か使えないなら見つけられないのは当然だ。

 ちゃんとした知識が無いのなら、的外れな実験を繰り返す事だってあるだろう。


「何よりお前の二つ・・・を知らない魔術師が居るとは思えないからな。知ってるならこの街でこんな事をする筈ない。自殺願望でもあるなら別だけど」

「はは、それもそうですね」

「氷華?」


 恐らくユリウスは察しがついていて、素人同然の魔術でも察知できるようにする為の礼装を渡したのだろう。確かに盲点ではあったが、少し考えれば分かる事なのだから。


「ははは、はははははははは、ふざけるな、ふざけるなよ、何でこんなことに気づけなかった!! そうすれば、そうすれば皆助けられたのに……」


 そう言って彼女は自らを責める。氷華が何をやっている魔術師なのかが知れ渡っている以上、この街で人を殺す魔術師なんて居る筈が無いと思うのは当然であり、気が付かなかったのは仕方が無いことだ。だが、それでも彼女はこの人達が死ななくても良かったのではないかと思ってしまう。


「落ち着け、余り自分を責めるなよ……」

「はい……そうですよね、どれだけ後悔しても人は生き返りません、絶対に。それならこれ以上犠牲者を出さないようにする事を考えるべきですよね」


 表面上は落ち着いたようだが、それでも内心では自責の念を感じているのだろう。そんな氷華を励ますために優斗は何を言うべきなのだろうか。


「なあ氷華」

「はい」

「悪いけど、僕はお前の気持ちが分からない」


 氷華が人が死んだことを悲しんでいる事は推測出来るし、犠牲を防げなかった自分を責めているのだと理解も出来る。だがそれだけだ。他人が死んでも何とも思えない優斗には心の底から共感してあげる事が出来ない。


「そうでしょうね……。魔術師としては私の方が異質ですから」

「たださ、僕は顔も知らない一般人なんてどうでもいいけど、氷華の為なら戦えるよ」


 優斗は氷華に顔を寄せ、言葉を続ける。彼女が何故・・悲しむのかは分からないが、に悲しむのかは理解できる。それなら彼女の為に出来る事が有る筈だ。


「だから、余り一人で抱え込まないでくれ。僕は大した魔術師じゃないけど、それでも出来る事は何でもやる。お前が背負っている物を少しでも良いから一緒に背負わせてほしい」

「優斗、さん? ……そうですね、協力して頂けるのは助かります。でも、これは私の責任で、私の贖罪ですから」

「そうか、じゃあ勝手に手伝わせてもらうよ」

「それは止められませんね」


 そう簡単に深い事情に踏み込めるとは思っていないので、最初は彼女の負担を減らす事から始めればいい。幸いこの事件に関しては心当たりが有るのだから。


「……なんかこういう事口に出すのは恥ずかしいな」

「顔が赤いですよ。さて、とりあえず私は当面ここを千里眼で監視します。実行犯がどこに住んでいるか分かりませんからね。そこまで遠くはないと思いますが。ああ、後この土地の所有者を調べるのも有りですね」


 氷華の千里眼は全方位を光を通さない物質で囲まれていると見られないが、そういう状況は余りないので余程運が悪くなければ犯人を見つけられるだろう。


「じゃあこっちはこっちで心当たりを調べておくよ。ああ、ここどうする? アンデッドは消しといた方が安全だろうけど、向こうに気が付かれると近寄らなくなって見つけられなくなるだろ」

「ええ、ですから放置しましょう。このアンデッドならどうとでも出来ますから」

「そうか、じゃあ今日は帰ろう。氷華は一回休んだ方が良い」

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